第20話 ダブルデートということで
「きゃあーーーーーっ!!!!」という大絶叫と共にレールを滑り落ちるトロッコとそれが強風によって軋む音が聞こえる。
その悲鳴は恐怖よりも快感とか爽快感と言った、どちらかと言うと楽しそうな声だった。
そんな声を耳にしながら、俺はとあるアミューズメントパークの前に立っている。
この地域に住む人間ならまず知らない人はいないだろう、猫をモチーフにした所謂、遊園地である。
俺はスマホで時間を確認しながら、辺りを見回す。
時刻はまもなく午前十時。あと五分で待ち合わせの時刻なのだが、待ち人が来る気配はない。
まぁどうせ遅刻だろうな……。
自動販売機で黄色い缶コーヒーを買い、その辺のベンチに座って待つことにする。
何か文庫本でも持ってくればよかったと思い始めていると、ようやく待ち人がやってきた。
「凍華っ! ごめんっ!」
「遅いぞ。これで遅刻何回目だ? 何度言えば……」
慌ててやってきた遅刻常習犯の美千瑠に、今日こそきつくお灸を据えてやろうと立ち上がった俺は、目の前の光景に目をぱちぱちと瞬かせた。
爽やかなレモン色のオフショルダーのトップスに、デニムのショートパンツ。足元は歩きやすいようにか、これまた向日葵のように明るいイエローの運動靴。
やや露出度が高すぎるようにも思うが、快活な美千瑠にはよく似合う服装だった。
美千瑠とは何度か休日に出掛けたことがあった。もちろん真宙と結菜も一緒に、四人でだ。
しかし今日のようないかにもデート服です! というような恰好は一度も見たことがなかった。以前はもう少し落ち着いたパンツルックが多かったような気がする。
言葉を途中で止めた俺をどう思ったのか、美千瑠は自分の姿を見下ろして照れたようにはにかんだ。
「えっと、やっぱり変だった? この恰好……」
自信なさげに俯く美千瑠に、俺は「あ、いや、」と慌てて言葉を紡ぐ。
「なんて言うか、その、変とかじゃなくて、新鮮で驚いたというか……」
俺がしどろもどろになりながら言うと、美千瑠は見慣れたむふふんとからかうような表情を見せる。
「もしかして凍華、私があまりに可愛すぎてドキドキしちゃったのかなぁ?」
人を見下すような笑いと言い方に、俺はすんっと真顔に戻る。
「ドキドキ? するわけないだろ、美千瑠なんかに」
「ああー! なんかって言った!? せっかくデートのために可愛くしてきた彼女に向かってなんか!? 凍華ってほんとなんにも分かってないっ!」
ぷりぷりと怒り出す美千瑠。
そんな朝から騒がしい俺達の元に、「お待たせー!」と元気な声が聞こえてくる。
結菜と真宙だ。
「おい、二人共、当然のように遅刻するな。なんのための待ち合わせ時間なんだ?」
「悪い悪い」
「ごめんね、支度に時間が掛かっちゃって……」
申し訳なさそうに頭を下げる結菜は、彼女にぴったりの純白のワンピース姿だった。足元のサンダルには結菜のように可憐な真っ白な花があしらわれていた。まさに深窓の令嬢と言った感じだ。
「まぁ、急ぐわけでもないし、いいけどさ……」
こいつらが遅刻してやって来るだろうことはもう十分分かりきっていることだった。この三か月ずっと一緒にいて、待ち合わせ時刻前に来るのは俺くらいのものだった。揃いも揃ってマイペースなやつらなのだ。
「じゃ、行こっか!」
結菜が四人分のチケットをドヤっと取り出し、俺達に見せつける。
俺達は「「「おー!」」」と言って、結菜の後に続いた。
どうして四人で遊園地に来ることになったかと言うと、話はこの前、俺と美千瑠が付き合っている(ごっこだが)のがバレた日に遡る。
一通り祝いの言葉をくれた結菜は、「そうだ!」と小さな手をぽんっと打った。
「四人で遊園地に行かない?」
「「遊園地?」」
俺と美千瑠は声をハモらせて結菜を見つめる。
「ちょうど父の会社の得意先の方から遊園地のチケットを貰ったの。それもちょうど四人分! 最近四人で遊べていなかったし、良かったらどうかなって!」
「遊園地! いいね! 行きたい!」
キラキラと目を輝かせながら身を乗り出す美千瑠。
「行く行く!」と真宙も賛同の声を上げる。
「遊園地か……小さい頃以来行ってないな……」
たまにはいいな、そういうところに遊びに行くのも。と思っていると、結菜が嬉しそうに声を弾ませて言った。
「ダブルデートになるねっ!」
「「え…………」」
というわけで、俺達はダブルデートということで、結菜のご招待によって遊園地にやってきたのであった。




