第19話 彼女の好きなところを語らされる羞恥の会
俺と美千瑠の恋人ごっこは、最悪のタイミングで真宙と結菜にバレた。
結菜に詰め寄られ賑やかなカラオケを抜け出し、俺達は近くのコーヒーショップへと向かった。
結菜は、彼女と過ごし始めてこんなにきりっとした表情は見たことがないというほどにキッと鋭く俺と美千瑠に厳しい視線を向ける。
その結菜がカフェラテを一口口に含むと、早速切り込んでくる。
「凍華くん、美千瑠ちゃん。さっきの話、どういうこと? 彼氏って?」
俺と美千瑠は顔を見合わせる。美千瑠は肩を丸め縮こまっている。こんな状態の美千瑠では当然ぼろが出るだろうからと渋々俺が説明を始める。
「ええと、実は報告しそびれていたんだが、俺と美千瑠も付き合い始めまして……」
「いつから?」
結菜が真剣な表情のまま俺を見据える。いつもにこにこと穏やかな笑顔を浮かべている結菜が、こんなにも真顔で俺に接してくるのは初めてのことだった。
「えーっと、いつだったかぁ……」
「いつから? はっきり!」
「ひっっ」
結菜が身を乗り出し、俺に詰め寄る。
美千瑠と恋人ごっこを始めたのは、真宙と結菜が付き合い始めてすぐのことだったが、すでに一か月が経っている。
二人はすぐに報告してくれたというのに、俺達がずっと隠していたことを知ったら、二人はよく思わないだろう。
……まぁそもそも付き合ってはないんだが……。
「て、テストのちょっと前だ。テストが終わったら、二人にちゃんと打ち明けるつもりで……」
「告白はどっちから?」
「え、えーっと……」
美千瑠に視線をやると顎でくいっと俺を指し示した。
は? 俺が告白したことにしろと? 恋人ごっこをして遊ぼうと言い出したのは美千瑠だよな???
などと不満はコーヒーと一緒に飲み込んで、俺はため息をつきたい気持ちをぐっとこらえて返答する。
「告白は、俺から……」
「ふーん……。凍華くんは、美千瑠ちゃんのどんなところが好きで告白したのかな?」
「ええ、っと……」
ふと結菜の隣に視線を向けると、ふんふんと話しを聞いているのか聞いていないのか、真宙がサラダサンドを頬張っていた。
呑気にもぐもぐしやがって……ていうかさっきカラオケでも食べてただろ。
意識が反れそうになりつつも、俺は慎重に言葉を選ぶ。
「み、美千瑠の好きなところは……」
ていうかなんで俺が美千瑠の好きなところを公衆の面前で語らにゃならんのだ!? ええいくそ! 早く終われこんな時間……!
「美千瑠とは口喧嘩ばかりしてたけど、なんていうかそういうのも本当は楽しかったことに気が付いたというか……なんだかんだ面白く返してくれるし……。それに、時たま見せる素直さとか笑った顔とかが可愛いな、と…………」
もう誰か殺してくれ…………。
キリキリと痛む胃を抑えながら結菜に視線を向ける。
「そっか」
俺の言葉を聞いた結菜は少し間を置くと、先程の鋭い表情とは打って変わって相好を崩しすぐに見慣れた満面の笑顔になる。
「凍華くん、美千瑠ちゃんっ! おめでとうっ!」
「「え? え?」」
そこにいたのは心底嬉しそうな表情を浮かべた結菜だった。
横から真宙も「おめでとーさんっ!」と笑顔だ。
「え? えっと……」
事態がよく呑み込めない俺と美千瑠は、戸惑ったように二人を見る。
「美千瑠ちゃんは私の大事な親友だからねっ! 凍華くんの気持ちがどのくらいのものなのか、確認させてもらっちゃった。ごめんね、試すようなことして」
「あ、いや……」
申し訳なさそうに頭を下げる結菜に、俺は「元はと言えば、俺達が早くに報告しなかったからだし……」ともごもご伝える。
「でもよかった! 凍華くん、美千瑠ちゃんのことちゃんと想ってるんだなって、すっごく気持ち伝わったよ! ね、真宙くん?」
「だな! 凍華はなんだかんだマイペースだから、彼女とか面倒くさがるんじゃないかって思ってたけど、俺の勘違いだったわ! 美千瑠のこと、超好きじゃんか!」
結菜と真宙の言葉に、俺は「ええへへぇ……」と気持ち悪い笑いを浮かべることしかできない。
「美千瑠ちゃんもよかったね!」
結菜が美千瑠に笑いかける。
そうだ、こいつ面倒なことは全部俺に押し付けやがって。後で絶対文句言ってやる。
そう思いながら隣の美千瑠に視線を移すと。
「うん…………」
死ぬほど照れたように顔を真っ赤にしていた。
なんだかその表情を見た俺は、文句を言う気も失せてしまったのだった。




