第1話 仲良し男女4人の平和な日常
ドキドキとわくわくと少しの不安を胸に瞳を少女漫画のようにキラキラと輝かせ、初めての高校生活に浮かれていた四月の入学式の日から早二カ月。
敷地内の至る所に校章にもなっている紫陽花の花が咲き乱れ、六月の訪れを告げていた。
高校に入学して二カ月も経つと、ドキドキもわくわくも当然影を潜め、非凡はあっという間に平凡へと姿を変える。
きっと誰もがそんなふうに高校一年生の二カ月間を終えていて、俺、藤野 凍華もその一人だった。
学生にとっての二カ月は長い。毎日毎日同じ教室に通い、七時間ほどの時間をただ適当に振り分けられただけの見ず知らずのクラスメイトと共にする。きっと嫌でも友人の一人や二人くらいはできるはずだ。
これまた例によって、俺もそうである。
俺には、親友と呼べる友人が三人いる。
昼休み。屋上にレジャーシートを広げて、俺はコンビニで買ってきた焼鮭弁当を食っている。目の前には同じように各々の昼飯をつつきながら楽しそうに笑い合う男女が三人。入学当初から変わらない最早見慣れた光景だった。
焼きそばパンを頬張りながら快活に笑っているのは、爽やかイケメン男子の、榎本 真宙。
端正な顔立ちと持ち前の明るさでクラスの人気者的存在だ。入学当初は金髪だったものの、どんな心境の変化かきまぐれか今は真っ黒に染め、両耳にじゃらじゃらと付けていたピアスも寂しそうに穴だけが残っている。よく食べよく笑い、ノリも良くて気さくでいいやつだ。
そしてその隣で品よく口元に手を当てながら女神のように微笑んでいるのが、椿森 結菜。
真っ直ぐに伸びた髪は艶やかでどこかのシャンプーのCMのオファーが来てもおかしくない。加えて目鼻立ちがはっきりとしていて、かなり目を引く美人だ。これまたどこかのアイドルグループに所属していてもおかしくないと思う。
それから―――。
「ちょっと凍華? 聞いてるの?」
レッドブラウンに染めたミディアムストレートの髪を揺らしながら、その綺麗な顔を不機嫌そうに歪ませた女子は俺を睨み付ける。
「またクールぶって……。凍りの華だかなんだか知らないけど、中二病もいい加減にしなさいよね?」
「は? 別にクールぶってないが? そもそも俺はただ単にクールなだけだ。それに名前をいじるのは大変よろしくない。お母ちゃんが大切に付けてくれた綺麗な名前を侮辱するな! 美散!」
「あーっ! 今絶っ対! 散る方のみちるだった!! 名前を侮辱してるのはどっちよ!? 今度そのイントネーションで呼んだら昇龍拳くらわすからね!?」
「お前、本当に女子か!?」
いちいち鼻に付く言い方しかできないこの女は、桜咲 美千瑠。
容姿端麗、スポーツ万能、成績は……然程良くない。黙っていれば可愛くないこともないのだが、いつからこうなってしまったのか、なにかと俺に絡んでくる鬱陶しいやつである。
「お前、いっつも俺に絡んでくるけどなに? 俺のことが好きなわけ?」
美千瑠に遠慮などいらない。が、ここで大事なのは、俺も美千瑠も本気で喧嘩しているわけではないということだ。お互いがお互いを信頼していて、だからこそ言い合い、もとい、じゃれ合いをしているのである。
言い返してみれば、美千瑠は顔を真っ赤にして言い募る。
「なっ!? そ、そんなわけないでしょ!? だ、誰があんたなんかっ!!」
「えー、なにその動揺の仕方~。もしかしてマジで俺のこと好きなのか。……ごめんなさい!」
「違うしっ!! ごめんなさいってなに!? 告ってもないのにフラれたんだけど!?」
「うわーん、凍華がうざいよぅ~!」と美千瑠は結菜に泣きつく。そんな美千瑠を結菜は「よしよし」と言いながら優しく頭を撫でている。
ここまでがテンプレである。
「本当に仲が良いなー、お前ら」
真宙の穏やかな呟きに、俺と美千瑠は同時に真宙を睨み付けた。
「「は? どこがだ!?」」
ぷっと吹き出した真宙の横で結菜もにこにこと笑っている。
いや、ここまでがテンプレだったか。
俺と美千瑠の言い合いに、生温かく見守ってくれる真宙と結菜。
こいつらが俺が高校に入って出来た友人達。
自分で言うのもなんだが、俺達四人はかなり仲が良い。ここまで気楽に話せる友人ができたのは俺の人生で初めてってくらいには。
これが、俺の高校生活の平凡で穏やかな日常だった。




