第13話 好きな人を目で追っちゃうってやつ?
目を覚ますと真っ白な天井があった。
一瞬、ここどこだっけ……? と思うも、顔面がひりひりしている感覚にすぐに、ああボールが当たったんだっけ、と思い出す。
ここは学校の保健室だ。消毒液や湿布のようなツンとした匂いがする。
幸い鼻血は出なかったようだが、鼻の頭がやたらと痛かった。
「まったく……余所見なんてしてるから」
すぐ隣から呆れたような声が聞こえ、俺は驚いてそちらに視線を向けた。
「美千瑠?」
俺のベッドの横でちょこんと丸椅子に腰かけていたのは、ジャージ姿のままの美千瑠だった。
「凍華、ただでさえ運動できないんだから余所見してたら危ないでしょ?」
やれやれと肩を竦ませる美千瑠はいつものように一言余計であったが、そんなことよりもどうして美千瑠が保健室にいるのだろうか。
俺の内心の疑問に答えるように、美千瑠は言う。
「私、保健委員だから。先生が付き添えって。因みにすっかり伸びた凍華を運んでくれたのは真宙くんだよ。しかもお姫様だっこで!」
美千瑠の説明に、俺の血の気がみるみる引いていくのが自分でもよく分かった。
「真宙くんモテるでしょ? 女子がキャーキャー言っててすごかったんだよ? 結菜が羨ましそうに見てて可愛かったな」
俺の意識がない間のことを思い出しながら話す美千瑠は、むふふっと思い出し笑いをしている。
「よりによってなんでお姫様だっこなんだよ……」
保健室に連れて来てくれたことは大変有難いが、悪目立ちにも程がある。
結菜、悪いな……もしかしたら真宙の初めてのお姫様抱っこを俺が貰ってしまったかもしれない……。
「で、なんで余所見してたのかな?」
「え?」
美千瑠はふふんっとドヤ顔を浮かべ、俺を見下ろすようにくいっと顎を上げる。
「私のアタック、そんなにかっこよかった?」
美千瑠に言われ、倒れる前のことを思い出した。美千瑠がアタックを決め、視線が合ったこと。
「もしかして、好きな人を目で追っちゃうってやつ?」
美千瑠の言葉に、俺は目をぱちぱちと瞬かせる。
一瞬忘れかけていたが、ああ、恋人ごっこの話ね、とすぐに理解する。
「ああ、うん、そう。やっぱり彼氏たるもの、彼女の勇姿は見たいものだろ?」
俺も同じようにドヤ顔で返せば、美千瑠は満足そうに頷いた。
「だよね! 好きな人がいたらきっと、その人を無意識に目で追っちゃうよね? 凍華がこの気持ちを分かるなんて意外! でも嬉しいかも」
俺の回答が良かったのか、美千瑠は珍しく上機嫌だった。今更ボールがあまりにまわって来なくて暇でただ見ていた、などとは口が裂けても言えない。そして丁度見ていないときに限ってボールがまわってくるのだから、タイミングが最悪としか言いようがない。
「ま、怪我もしてないみたいでよかったよ」
美千瑠は立ち上がると、ちょこんと髪を結っていたヘアゴムを外し、無造作に髪をならした。風に乗ってふわっとシャンプーのような石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。
やっぱり笑ってると可愛いな、などと思ったことは、今日も俺の心の奥底にしまっておくことにする。




