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第11話 放課後デートってそういうものでしょ?


 昼食はいつもと変わりなく屋上で四人で食べた。


 真宙と結菜に二人きりで食べなくてもいいのか、と訊くと四人で食べるのが好きだからと言ってくれた。それに恋人同士になってから二人きりというのが緊張するのだとも。


 なんて初々しく可愛らしいカップルなのだろうか。俺としてはせっかく両想いになったのだから、あんなことやこんなことをさっさと済ませてしまうものだと思っていたのだが、どうやら現実はそう簡単にはいかないらしい。


 それに真宙は見た目に寄らず奥手だ。その端正な顔立ちからかなりモテてきたはずなのだが、一途で結菜のためならチャラい恰好もやめるほどに誠実なやつだった。



 そんなわけで、昼食はこれからも変わりなく四人で食べることになったのだった。




 しかしさすがに放課後まで邪魔するわけにはいかない。


 俺と美千瑠は暫く委員会が忙しい旨を告げた。

 真宙と結菜は困ったようにお互いを見つめ、そうしてぎこちなくも仲睦まじく帰路に就いていった。



 廊下の奥に消える二人の背中を、俺と美千瑠は教室からこっそり顔を出しながら見送っていた。


「超いいカップルすぎない? 私達の親友」

「マジでそう。これぞ高校生カップルの模範」


 こりゃキスするのにも時間が掛かりそうだなぁ、なんて親友相手に無粋なことを思っていると、「さ、私達も帰ろ」と美千瑠が教室を出て行く。


 当然のように俺と帰ることになっているのに驚きながらも、まぁ恋人だしな、ごっこだけど、と俺も美千瑠の横に並ぶ。


 以前なら、「ちょっと近いんだけど? そんなにすぐ傍を歩かないでくれる?」などと狭い廊下でもいちいち文句をつけてきた美千瑠だが、恋人ごっこをしているせいか特に何か言ってくることはなかった。


「凍華、どっか寄って帰ろうよ」

「そうだな」


 例によって暇を持て余した俺達は、二人で寄り道をすることにした。




「それでなんで、コヒバ?」


 コヒバとは、コーヒーバックスの略で世界最大規模のコーヒーチェーン店だ。スタンダードなコーヒーから、フラッペと呼ばれるしゃりしゃりとした食感が特徴のフローズンドリンクが人気を博している。店舗の外観もその地域によってさまざまで、女子の間ではコヒバは一種のお洒落のステータスだと聞いたことがある。


 そんなコヒバの店内にて、俺の横に並んでいた美千瑠がさも当然とでも言うかのように答える。


「え? だって飲みたくない? フラッペ」


 どうやら今日から新メニューである、苺ケーキフラッペなるものが始まったらしく美千瑠はそれを楽しみにしていたらしい。


「季節的にも飲みやすくてちょうどいいし」


 確かにフラッペを冬に飲むのは少し身体が冷えてしまうかもしれない。しかし六月の今なら、ちょうど蒸し暑くなってきた頃合いでもあるし、授業を終え疲れた脳内に行き渡らせるには最適な糖分と言えた。


「まぁ、そうだな」


 四人で遊んだ帰りコヒバに寄ったことが数回あったが、こうして美千瑠と二人きりで来るのはもちろん初めてのことだった。


 店内の一角にコーヒー豆やマグカップ、タンブラーなどが並べられており、くまの顔を模したマグカップが目に入った。

 美千瑠好きそうだよなこういうの、と思っていると、俺達の番が回ってきてしまった。


「いらっしゃいませ! 店内でお過ごしですかっ?」


 眩しいほどの笑顔を俺なんぞに向けてくれる店員のお姉さんに、「ああ、はい……」と答え、レジ横のメニューを見つめる。


「苺ケーキフラッペひとつ!」と元気に注文する美千瑠。


 俺は悩んだ末、期間限定でもなんでもない定番メニューであろうキャラメルフラッペを注文した。


 美千瑠が財布の小銭をまごまごと出している間に、俺は電子マネーで美千瑠の分もさっさと会計を済ませる。


 「え!?」と驚いていた美千瑠は、「右手でお待ちください」とお姉さんに促され、俺とお姉さんを交互に見つめていた。


 それからもじいいっと俺を見てくるので、さすがにうざったくなって美千瑠の方を見やる。


「なんだよ」

「凍華、なんで払ってくれたの?」

「なんでって……お前がレジ前でまごまご小銭出してるからだろ。後ろ並んでるんだから早くしろよ」

「う、それはごめんだけど……」


 美千瑠は素直に謝ると、また小さな財布を広げて小銭をいじり出す。


「はい、私の分。返す」

「は? 別にいいよ。俺、小銭あんまり持ち歩きたくないし」

「はぁ、なんで!? 凍華、もしかしてお金持ち!? 高校生でフラッペなんて高いでしょ!?」


 まぁ確かに飲み物代として七百円や八百円するのは高い。フラッペはもはや飲み物というよりもパフェなんかのスイーツに近いかもしれない。


「いや、マジでいらない。……俺、誕生日に姉さんからコヒバのギフトカード貰ってたんだよ。ちょうど期限切れそうだったからそれで払っただけだし」


 美千瑠はまだ驚いたように目をぱちぱちさせていた。


「それにまぁ、数学の時間に恥かかせちゃったしな……」



 発端はもちろん美千瑠なのだが、むきになって俺が手紙を返しすぎたせいで、数学の問題が解けなかった美千瑠はクラス中の笑いものになった。と言っても、美千瑠はもともとクラスメイトから人気があり、「えへへ、分かりませんっ」と恥ずかしそうに頬を掻くさまを見て、「美千瑠ったら、勉強苦手だもんね、うふふ」くらいの笑いである。


 それでも美千瑠本人は相当恥ずかしかったらしく、そのあと横から足を蹴りつけられた。なんて乱暴な女なんだ。



 そのこともあって、まぁ少し悪い事したかなぁと、奢ってやるに至ったのだ。


 もちろん美千瑠に説明した理由も本当だ。四人でコヒバに行く機会もなくなってしまったし、今日みたいな日に使っておかないと無駄になってしまいそうだからな。


「ふぅん……凍華、反省してたんだ。そういうことなら、奢られてあげることにするっ」


 美千瑠はふんっと鼻を鳴らす。


 元はと言えばお前のせいだからな? とは、今日のところは言わないでおくか。お洒落な店内でまで口喧嘩は御免だ。




 苺ケーキフラッペとキャラメルフラッペを受け取った俺達は、店内の奥、窓際の適当な席へと腰を下ろした。近くの席に視線を向けると、俺達のような制服姿の学生にも、パソコンをカタカタ打っているスーツ姿の男性にも、傍らには新作の苺ケーキフラッペがあった。みんな新作を楽しみにしていたんだなぁとぼうっと思う。


 そしてここにも、新作フラッペを楽しみにしていた女子高生が一人。


 先程とは打って変わって邪気のない笑顔でフラッペへと口をつけた美千瑠は、目を輝かせて言う。


「うーん! 美味しいっ!!」


 普通の女子高生らしい、普通に可愛らしい反応だった。


 何度思ったか分からない、そうやって笑っていれば可愛いのに、という言葉をキャラメルフラッペと一緒に飲み込む。


 キャラメルというから結構甘そうなイメージを持っていたのだが、思ったよりもコーヒー感が強くほどよい甘さが俺好みだった。


「凍華のも美味しい?」

「うん、美味い」

「一口ちょーだい」

「ん」


 俺は飲んでいたキャラメルフラッペを美千瑠の方に差し出す。


 しかし美千瑠は不満そうな顔をした。


「なんでそう平然と渡してくるわけ?」

「は?」

「普通、「これって間接キスなんじゃ……!」とかドキドキするものじゃないの?」


 美千瑠に言われ、俺は暫し考える。しかし考えてみたところで結論は同じだった。


「いや、別に」


 俺の回答にますます「ええ……」と不満げに唇を尖らせる美千瑠。


「凍華ってやっぱり、人の心ないの……?」


 心底ありえないと言う表情を露骨に浮かべた美千瑠は、つまんなそうに俺を見つめる。


「やっぱりってなんだよ。相変わらず失礼なやつだな。別に食べ物や飲み物のシェアくらい、いつもやってただろ?」


 四人でご飯に行ったとき、食べ物や飲み物のシェアは当たり前だった。飲み物のシェアが間接キスに当たるのなら、俺は美千瑠とも結菜とももうとっくに間接キスを済ませていることになる。もちろん真宙ともだ。故に今更ドキドキしろという方が難しい。


「つまんないの」と言いながら美千瑠は俺のキャラメルフラッペに口を付けた。


「お、キャラメルも美味しい……!」

「ん」


 美千瑠が口を付けたキャラメルフラッペを俺は引き続き飲もうとして、そのストローに薄っすらとリップのような淡いピンク色が付いていることに気が付く。


 俺にはあーだこーだ文句をつける美千瑠だが、美千瑠だって俺と間接キスになることをしっかり理解しているのだろうか?



 目の前で苺ケーキフラッペに夢中になっている美千瑠に目を向けながら、俺は心の中でこっそりため息をついた。




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