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第三話 婚約破棄の陰に髪色ピンク令嬢あり。陰謀論でしょうか?

 とりあえず新任の挨拶を上司であるシリウス殿下に済ませ、仕事内容を聞くことになった。


 「最近、貴族の間で何が流行(はや)っているか知っているか?」


 貴族どころか庶民の流行にすら(うと)い私に分かるはずがない。


 「婚約破棄だ。パーティーなど人の多い場所で、一方的に宣言するというタイプが流行(はや)り始めている」


 「婚約破棄が流行(はや)る?普通は表沙汰(おもてざた)にせず、裏でひっそりとしますよね」


 貴族の婚約や結婚なんて、当人同士の事情の他に貴族家の事業の話なんかが絡んでくるのが普通だ。なので悪い噂が立たないように婚約破棄し、新しい婚約を大々的に公表するのが通例だ。


 「普通はな。今はパーティーなど、人の目の多い所で婚約破棄をするのがトレンドになりつつある」


 人前で婚約破棄をするなんて、一種の罰のつもりなんだろうか。殿下によると、そういった婚約破棄には共通点があるという。


 「こういったオープンな場での婚約破棄には、あるタイプの人間が関係している場合が多い」


 あるタイプの人間?婚約破棄に関係しているのなら法律関係の人だろうか。弁護士の先生とか?


 「髪色がピンク!――な令嬢の影がちらつくんだ」


 殿下にビシッと人差し指をつきつけられた私は、思わず動揺して自分の髪に手をやってしまった。私の髪は鮮やかなピンクだ。まるで殿下に「犯人はお前だ!」と言われたような気がした。

 

 「わ、私はなにもやっておりませんが?」


 「そんなことは分かっている。調査済だ」


 殿下の調査によると、ピンク色の髪を持つ令嬢が絡んだ婚約破棄が、他国で何件か報告されているという。ピンク髪の令嬢は同じ人物ではないらしい。ピンク髪の令嬢が複数いて、それぞれの国で婚約破棄を引き起こしているのだという。


 「それから、ピンク色の髪を持つ令嬢たちは、なぜか逆ハーレムを築きたがることも分かっている」


 あーなるほど。それでさっき、私に逆ハーレムを築いていないか聞いてきたわけか。ごく一部のピンク髪の令嬢は、なぜか周りに男を(はべ)らぜたがる(くせ)がある。


 そして王族や高位貴族にまで手を伸ばした結果、国を揺るがすような婚約破棄が起こってしまったようだ。もうこれ、国からしてみれば厄災(さいやく)みたいなもんじゃない?


 とはいっても、ピンク髪の令嬢全てが逆ハーを築きがちなロクデナシというわけではない。中には私のようなクソ真面目で成績優秀な者もいるのだ。私のようなピンク髪のほうが国の役に立つと思うけれど、シリウス王子はそうではないらしい。

 

 「そのような特徴を持つ令嬢たちを、敵対国に送り込んだとしたら、どうなると思う?」


 「――順調に秘めた力を発揮できれば、その国にたいへんな混乱を巻き起こすと思われます」


 殿下は私の回答に満足げにうなずいている。実力派のピンク髪令嬢ならば、王族やら高位貴族やらを狙い撃ちして逆ハーレムを築き、婚約破棄のひとつやふたつは引き起こすこと間違いなしだろう。


 放りこんでおけば、あとは勝手に問題を起こしてくれる。放置型最終兵器か。ピンク髪令嬢、恐ろしい……。私は違うけれども。


 ちょっと聞いただけだと冗談や陰謀論のたぐいとしか思えないような話だけど、私と向かいあった殿下の目は真剣だ。変人王子と呼ばれている殿下が考えている冗談のような計画。でも私には殿下の気持ちが分かるような気がした。


 我が王国は周辺国に比べれば人口も少ないし国土も小さい。大きな声ではいえないけれど周辺国からは弱小国扱いされている。強みといえば、王族が教育熱心なところだろうか。


 最近、周辺国が軍事力に力を入れだしているのは私も知っている。我が王国も早急に対応しないといけないのに、国王を始め、多くの貴族たちはまったく危機感を持っていない。


 現状が変わるなんて、想像できないのだ。


 そんな中、シリウス王子は今の自分ができることをしようとしている。この王子、意外に自国のことを考えて行動しているのではないだろうか。腐っても王子……そういうことだろう。

 

 「アザリア、君には、ぜひともピンク髪のパワーに目覚めてもらいたい。まずは逆ハーレムを築くところから……」


 「アリシアですが、お断りします」


 私の身分の上下を無視したキッパリとした断り方に、シリウス殿下は気圧されたみたい。だってハーレムなんて欲しくないし、私には無理だ。


 ――いやまてよ、現金になるなら……考えてもいいかも。


 「殿下、特別手当が出るのなら考えます。最低でもこのくらいは欲しいです」


 私は執務机からペンを借りると、紙が見当たらなかったので床に落ちていた書類の裏面にさらさらと希望金額を書いてみせた。殿下はちょっとビクついている。なぜ?


 「も、もちろん君の言う通りにしよう。君の才能を感じることができたよ……」


 ハーレムを作る努力をすれば特別ボーナスがもらえる契約にした。シリウス殿下が私に全面協力することも条件につけた。ぬかりはない。


 どうせ私に逆ハーレムなんて無理なのだ。だから契約段階から殿下の協力を取り付けておいて、契約後にはそれを盾にとって私のハーレム第一号になってもらえばいい。


 あら不思議!なにもしなくてもハーレムができましたわ!たったひとりでもハーレムはハーレムだ。いや、たとえハーレムではなくても、そう言い張るのだ。これで特別ボーナスをがっぽりもらえる。


 今まで自分はクソ真面目な人間だと思っていたけど、詐欺師もいけるかもしれない。

 


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