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第一話 確かに髪色はピンクですが、クソ真面目女子です

本日、全6話中の3話までを同時に公開します。


 「本日より、こちらに配属となりましたアリシア・グレイです」


 ノックをしたけれど返答がないので挨拶をしながら入室してみた。やっぱり部屋には誰もいない。配属先の書かれた書類をもう一度見てみる。部屋は間違っていないみたい。


 王宮の中の一室だけあって上品な内装だ。部屋も広い。家具は執務机と応接用のソファーセットくらい。でも――。


 「なにこれ。ひどい散らかりよう……」


 床には本が積み上げられ、用途の分からない魔道具のようなものが、あちこちに無造作に置かれている。執務机の上も書類の山だ。ここはなにをする部屋なのだろう。


 新しい配属先がなにをしている部署なのか人事課の文官は言葉を濁して教えてくれなかった。訳あり案件らしい。そういう私だって訳あり案件だ。王立学園を卒業し、王宮騎士団の事務局で働き出して三ヶ月。そこで色々あって、悔しいけれど配置転換という事態になってしまったのだから。


 配置転換の理由は……男の嫉妬ってヤツかな。私はこう見えても成績優秀で、それが気に食わない騎士たちにはめられたのだ。


 主犯は公爵家嫡男のジョシュアという男。王宮で働くための採用試験の順位で私に負けたのがそうとう悔しかったらしい。


 試験には筆記試験と実技試験があって、筆記試験のほうは全員が同じ内容の試験となる。ジョシュアは筆記試験で一位を取るつもりだったのに私が一位になってしまい、ひどく怒っているそうなのだ。


 そんな私が同じ騎士団で働いているのはジョシュアにとって目障りだったのだと思う。公爵家の権力を陰で使って、私を王宮の仕事自体から追放しようとした。理由は職務怠慢だとか能力不足だとか言っていたなぁ。


 こんな職場、やめてやる!と言いたいところだけれど、私にはお金が必要なのだ。両親は健在だけど、就学前の弟が四人もいる。辺境にある領地には現金収入を得る手段が少ない。だからなんとか現金を稼ぎたい。


 なので王立学園の校長先生を始め先生方に泣きついて、なんとか追放は騎士団だけにしてもらって、引き続き王宮では働けるような形に収めてもらった。色々とどす黒いものが胸に溜まっているけれど、それよりも私には現金が重要だ。


 「王宮でガッツリ稼いで、弟全員、王立学園を卒業させるんだから!」


 決意を新たにしたところで、新しい上司や同僚が来るまで、身だしなみをもう一度チェックしておこう。メガネをはずしてレンズを確認する。よしよし、指紋の跡もなく綺麗だね。かなり分厚い眼鏡だけれど、目に直接つけるタイプの魔導レンズは苦手なのでしょうがない。


 髪も乱れなくキッチリと結い上げられている。無料で支給される王宮文官の制服にシワもない。まさにデキる文官だ。よし、頑張ろう!


 そんな風にやる気を出していたら、突然、背の高い痩せ気味の美男子がノックもなしに部屋に入ってきた。そしてズカズカと私に近寄ってくる。

 

 「髪がピンクだ……」


 「――えっと、まさかシリウス殿下でいらっしゃる?」


 私の髪に顔をこれでもかと寄せて、なにやらブツブツ言っているのはシリウス・クラウンズ第一王子……のように見える。直接話したことがないので断言はできない。でもこれほどの顔がいい男はそうそういない。きっと本物の王子だ。確か、年齢は私より3才ほど上で21歳だったはず。


 なぜ、こんなところにシリウス殿下がいるのだろう。正直、シリウス殿下の評判はあんまり良くない。部屋にこもっておかしな研究ばかりしているらしく、陰では変人王子などと呼ばれている。


 第一王子なので普通は王太子になるものだが、こんな変人に国王がつとまるのか?と周囲に思われて、まだ王太子になれていない……という噂を聞いた。王宮の噂に疎い私でも知っているなんて、誰もが知っている公然の秘密ってやつだ。


 この男性がシリウス王子なら変人という噂は正しいようだ。今も初対面なのにジロジロ見てくるしね。


 「――殿下、近いです。ちょっと離れてくださいませんか」


 たまらずに苦情をいうと、一歩後ろに下がってくれた。ちゃんと言葉は通じるみたい。でも今度は私のことを上から見下ろし始めた。


 「根本からピンクか!」


 「上からじっくり見ないでください!」


 シリウス殿下はけっこう背が高い。私の頭を観察するのに腰を屈めているくらいだ。痩せ気味なので高さが上へギュンと強調されて、なおさら高く見えるというのもあるかもしれない。


 頭を上から観察されて、私は慌てて両手で頭を隠そうとする。それなのに殿下は、ひょいひょいと動いて観察を続けている。そのたびに殿下の顔が近寄ってきて気恥ずかしくなる。


 まつ毛が長すぎ~。金色の瞳の破壊力~。変人王子と呼ばれていても、容姿はしっかり王族なんだな。


 これは若いご令嬢たちが放っておかないだろう。変人でもいいという変人はいるはずだ。色恋沙汰に縁のない私ですら、顔が熱くなってしまうのだ。王族ってすごい。伊達に長い間、国を治めていない。


 でも、もっと身だしなみを整えると更にカッコよさ倍増なのにな。髪は淡い金髪だけどボサボサだ。寝癖もあり。服装は地味で白のシンプルなシャツに細身の黒いパンツ。装飾品もつけていない。


 どうやら殿下はシンプルで地味な装いが好みのようだ。もっと手入れをして、着飾ったら生まれ持った容姿が映えるのにね。もったいない。


 私がシリウス殿下の容姿に顔を赤く染めている間に、殿下がなにやらおかしなことを言い始めた。


 「――そのピンク色の髪が生まれつきのものか、調べさせてほしい」


 そう言いながら近づいてくる殿下の片手には、大きめのガラス瓶。なにやら怪しげな黄緑色の液体が詰まっている。こちらを見ながら瓶のフタを開けようとしている。


 ――もしかして、私の頭にかけるつもり!?


 「ストーップ!殿下、ステイ!ステイ!」


 ああ、もう!見た目が良くても、この王子はダメだ!変人すぎる!


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