ド陰キャが逆ハーやらかしざまぁ回避系聖女ヒロインをやらされたところ、想定と違うところに着地しました。
よろしくお願いいたします。
莉衣菜。
それは、令和の世ならばいざ知らず、昭和生まれには名乗るのも厳しいキラキラネームだ。
出産フィーバーでうっかりそんな名前を付けられた莉衣菜は、平凡な両親のもとに生まれた平凡な日本人顔の女だった。
小さい頃はそりゃあもうからかわれた。
ハーフ?とか、どこに外国人要素あるの(笑)とか、それくらいは可愛いもの。
金髪を染めているんじゃないかと髪を引っ張られたり、英語を話せと強要されたり、その名前でその顔とかないわーと正面切って言われたり、名前負けとあだ名をつけられたり、親がどうかしてるんじゃないかと言われたり、大勢の前でわざわざ名前を大声で連呼されたり、もっとあったがとにかく名前故に受けた辛い扱いが酷かった。
おかげで、莉衣菜は人と関わるのが怖くなり、気づけば社交力が死んだド陰キャになっていた。
趣味は読書(漫画込み)とゲーム。当然インドア派。
大人になってしまうと、お金さえ人並みに稼げれば、どうにか人と関わるのを最低限に抑えて生活できた。雇ってくれた会社には今でも感謝している。
そんな莉衣菜だが、齢40にして恋人もできないまま、突然の病に冒されて死んだ。
両親はまだ生きていた。きちんと育ててもらったのに、先に死んでしまったのは申し訳ない。生命保険はかけておいたので、せめて受け取っていてくれるといい。
現実逃避をする莉衣菜は、死んでから異世界の女神に捕まって転生させられた。
その女神は、
「あなた、逆ハーもののゲームすっごいやりこんでたよね!あの、ヒロインが聖女になってたくさんのヒーローに愛されるやつとか。あれ!あれを、こっちの世界でやってほしいの!あたしも、たまにはそういうメロドラマを自分の世界で見たいわけよ。頑張って平和にしたんだけど、平和になりすぎちゃってね。ちょっと暇……刺激がなさすぎて。一夫一妻でみんな満足しちゃってるのよぉ。多少のいざこざはあってもそれだけっていうか。だから、あなたを聖女に任命するわ!ちょうどよく、王太子とか宰相の息子とか騎士団の息子とかが同じくらいの年に生まれそうな国があるの!あそこに、聖女として生まれ変わらせてあげる。頑張って、ヒロインとして逆ハーやってね!あ、あたしは前にちょぉっとやらかしちゃってから地上には直接関与できないの。だから、見守るだけだけど。大丈夫!魅了魔法をつけておいてあげるから、男女とも魅了しまくりよ!逆ハーを死ぬまでやっていけるから、めくるめく逆ハーワールドを実現してね!じゃあ!」
と、口を挟む隙も与えず(というか、人がしゃべっているときに口を挟むことなどできはしない)、さっさと莉衣菜を転生させてしまった。
生まれた先の国は、いたって平和な王国。
片隅の町で生まれたリーナは、果樹園を営む優しい両親に育てられた。
最初は言葉が遅いと心配されたが、両親以外の人に対して言葉が出ないだけだと理解してからは、とても内気な子、として認識されるようになった。
両親だけでも、ちゃんと話せるようになったのは褒めてもらいたい。
こちとら社交性を前世の母の腹の中に置いてきた女だ。
今世の優しい両親は、ゆっくり話すリーナの言葉を待ってくれるからこそ話せる。ほかの人は、待ってくれそうにないのでろくに話せない。
だから、聖女と認定されたとたん、断る言葉が出るわけもなく、あっという間に教会に連れ去られてしまった。
両親からは手紙が届くけれど、王都の神殿は実家から遠い。
「聖女様、本日のお祈りの時間です」
「あ、はい」
朝の、人との会話はこれで終了である。
「リーナ、お疲れ様」
「うん。メレちゃんもお疲れ」
声をかけてきたのはこの国に遣わされている霊獣。聖女を守る存在だという。大昔には、戦争によって別の国の聖女を監禁して人質にしたこともあったらしい。そういったことを防ぐために、女神が生み出した存在なのだそうだ。
白いモフモフの子犬の形をした霊獣は、名前がないと言うのでメレンゲと名付けてやった。
美味しそうである。
聖女は、適当に祈っていれば国の大きな災いを軽くできるらしい。具体的には、大洪水とか大地震を小規模にできるとか。
また、この世界には魔物がいて、それが人類共通の敵となっているため、国同士のいざこざはあまり起こらなくなった。魔物を一定以上近づけない結界のようなものも、祈りによって形成される。
結界は、各国の聖女によって作られている。だから、聖女の望みは大体叶うらしい。王子との結婚でも、裕福な生活でも、なんでも、祈ってさえいれば。叶わないのは、聖女を辞めることくらいだろう。
子を成しても聖女であり続けられるので、結婚も自由なのだ。
逆ハーでも叶いそうなものだが、この世界の人たちは比較的満たされているからか、数百年前に女神が「浮気、いくない!」と天罰を下しまくったせいか、ほかの国を見てもハーレムや逆ハーレムのような制度はない。そういう概念すらないのだ。自分がしたことを忘れているなんて、女神はもしかして(自主規制)。
その天罰の雨が、女神のやらかしだろう。もっと偉い神様にでも怒られたのかもしれない。あの女神ならあり得る。
17歳になったリーナは、この国の有力者の子息である、ゲームの攻略対象になりそうなイケメンたちが通う学園に通わされている。
なんなら、同じクラスだ。
王太子も、宰相の息子も、現役騎士団員学生な騎士団長の息子も、飛び級してきた天才魔法使いも、超お金持ちな商会の息子も、結界の境界付近を守る辺境伯の息子も、王太子の婚約者の公爵令嬢も。
顔面平均値が、このクラスだけヤバい。
ちなみに、リーナもその平均値を上げている一端だ。
私は平凡な女の子!なんて、ゲームのような詐欺セリフも言えない。
子どものころはちょっと可愛いくらいだったのだが、成長するにつれて変わっていった。
抜けるように透明感のあるシミ一つない肌、けぶるようなまつ毛に彩られたはちみつ色の瞳に、緩やかなウェーブを描く艶やかな金色の髪、バラ色の頬にぷるんとした唇、程よい凹凸の身体。完璧な配置の顔のおかげで、逆になんだか遠巻きにされている。
最初は、王太子をはじめ権力者の息子たちに話しかけられることもあった。
しかし。
「あ、はい」
「いいえ、違います」
「ありがとうございます」
挨拶以外はこれらの言葉しか口にできなかった結果、なぜか思慮深く静謐さを好む不可侵領域的な扱いになった。
誤解されているが、都合がいいのでそのままにしている。もっと言うと、どうやって訂正すればいいのか分からない。
女神に何かされるなら逆ハーを目指さないといけないのか、と最初は頑張ってみたのだが、さっきの言葉を発するので精一杯。
しかも、攻略対象っぽい男子生徒はもれなく友人の多い陽キャ。
一人でいるところなど見たこともない。
そんな彼らに自分から話しかけることすらできないのだから、デートに誘うとか無理すぎる。羽虫に山を動かせと言っているようなものだ。
そうこうしているうちに、不可侵領域化。
傍にいるのはマスコット的なメレンゲだけである。
聖女は実は王族並みに権力を与えられている。だからかこちらを警戒していたらしい公爵令嬢は、今ではたまにリーナに話しかけようとするどこかの子息をうまく散らしてくれている。
ものすごくありがたい。
彼女自身も、無理にこちらに話しかけてはこない。
すごくわかってくれている。
話せるなら友だちになりたいが、社交界の花である公爵令嬢と友人になどなったら、あちこちに顔を出す羽目になりそうなので自重した。
攻略対象っぽい男子たちは、普通に陽キャ仲間の令嬢たちと良い仲になっているようだったので、こちらも少しほっとした。
ちなみに、王太子と公爵令嬢は婚約者で、普通に仲のいいカップルだ。
ものすごく平和。
そして思い出した。
女神は、地上には直接何もできないと言っていた。
だったら、今のリーナにも、リーナの周りにも、何もしないということだ。
生まれ変わるときにまた何か言われるかもしれないが、今何もないならもうそれでいい。
リーナは開き直った。
聖女としては、祈ってさえいれば役目を果たせる。
とはいえ、それではパフォーマンスとして弱い。だから、歴代の聖女は孤児院に慰問に行ったり、いろんな領地に出向いて話を聞いたり、積極的に動いてアピールしていたそうだ。
ほかの国の聖女も、割と活発にどこかに出向いては聖女活動に励んでいるという。
リーナには無理だ。
知らない人に会うために出かけるなんて、朝から腹痛で死にそうになる。学園に通うのだって、慣れるまで一ヶ月はかかったのだ。
だから、リーナは内職をすることにした。
聖女の祈りをほんの少し纏わせたお守り作りである。
作り方は簡単。
・そこらへんの河原に転がっている小さくて丸くて比較的綺麗な石を集めます。
・朝の祈りと同じように、石に向かって祈ります。
・小さな巾着に入れます。
・ギリギリ黒字になるように売ります。
石を拾って洗うのは孤児院などの子どもたちの小遣い稼ぎとしてしてもらい、巾着作りは働きたい女性にしてもらっている。
リーナがするのは、集まった石に向かって祈るだけ。
石のお守りは大体二年ほどは持つので、適度な頻度で常に売っていれば割と皆にいきわたる。
魔物を近づけないという程度のお守りのはずなのだが、気がついたら家内安全やら恋愛成就やら健康祈願やら金運上昇やら、色々なことにも効くことがあるということになっていた。プラシーボ効果だと思う。
そして、『護符の聖女』とかいう二つ名もついた。
謎だ。
「護符の聖女様よ」
「今日も美しい」
王国主催のパーティに呼ばれてしまった。ドレスは聖女の予算から出る。やたらとヒラヒラしたドレスだ。
少し遠巻きにされて噂されるのはいつものことだが、何となく居心地が悪い。
かといって、知り合いに話しかけに行くなどというパニックが起きそうな行動をとることもできない。そもそも、学園の知り合い(挨拶ができる)は全員成人前なので、ここにはいない。聖女だからという理由で、成人前なのに社交界に引っ張り出されているのである。
「リーナ、大丈夫か?」
話しかけてくるのはふわもこのメレンゲだけだ。霊獣なので、パーティも顔パスらしい。
「なんとか……。陛下がいらっしゃったら、挨拶してとんずらする」
「相変わらずか。わかったよ」
呆れたように言うが、メレンゲもリーナのド陰キャ具合を理解してくれているので、無茶ぶりはしてこない。
以前は、とにかく誰かに話しかけろと言われて頑張ってみようとしたが、一歩踏み出した後は身体が動かなければ口も動かず、謎に立ち尽くす聖女を数十分見せつけてしまった。見えている方向に窓があり、その外には綺麗な庭があったので、周りは勝手に誤解してくれた。
あのときのメレンゲの可哀そうなものを見る目線は忘れられない。
「もう。ボクがいないとリーナはだめだめだね」
「確かに」
実際、メレンゲがこっそりサポートしてくれているので、今のリーナはなんとか聖女っぽく取り繕えている。秘書のごとく予定を把握してくれているし、ごくたまに誰かが話しかけてきたとき、それが誰なのか教えてくれる。朝も起こしてくれるし、パーティのときにはこうやって話しかけてくれる。
メレンゲと話しているだけで、『霊獣様との会話を邪魔してはいけない』的な感じになり、誰も話しかけてこないのだ。
助かる。
「大変です!結界が破られるかもしれません。王国の南の方角からのスタンピードが確認されました!」
ある日の朝、日課のお祈りの後でリーナの平穏な生活を脅かす一報がもたらされた。
数十年に一度起こるかどうかという、魔物のスタンピードである。
いかに聖女が毎日祈っているとはいえ、数百体、数千体を超える魔物がまとまって何度もぶつかってきたら、結界は壊れてしまうらしい。
これは多分、聖女が一段階強くなるためのイベント的なやつだ。
攻略対象たちと協力してなんやかんやして、現在一番好感度の高い人が大怪我をして覚醒とか、そういうやつ。
しかし、残念ながらリーナは攻略対象たちとは挨拶しかしていない。しかも、全員いい感じの相手がいる。
イベントのために大怪我なんてしてほしくないし、たかだか挨拶をする程度でそんなことになるなんて忍びない。かといって誰かを攻略するつもりもない。
リーナは、根性で覚醒することにした。
要するに大ピンチにおちいって本気で感情を爆発させればいいのだ。
陰キャは陰キャらしくさせてもらう。
「よく知らない人に話しかけるとかマジで無理。よくわかんない会話ににこにこ相槌とかどういうタイミングですればいいの?当たり障りない会話ってなに?天気とか?それ何分もつの?突然質問されてもどういう答えが求められてるのかわかんなくて答えられない!しかも逆ハーとか怖すぎる。ヘイト管理どうなんの?!全員にまんべんなく関わるとか無理ゲー!乙女ゲームで正解ルート選択しまくったからって現実で動けるわけないじゃんっ!!!しかもこっちの意見なんか完全無視の誘拐!!せめて本人の適性をちゃんと考えなさいよおぉぉぉっ!!!」
すべて、女神への愚痴である。
ここまでため込んでいた感情を、ひっそりと自室で爆発させた。
観覧者はメレンゲ一人?一獣?である。
これがうまくいった。
女神に向かって文句を言うなんて怖かったもので、日々抑えつけていたのである。
それを爆発させたら覚醒できた。
女神さまさまだ。
覚醒したリーナは、すぐさま南の国境付近へ移動……などしなかった。
ただ、覚醒した怒りのままに、祈った。八つ当たり気味に祈った。
(どーせ女神が用意してた聖女のための試練とかなんとかでしょーが!イケメンと協力しつつキャッキャうふふ?そんなことしてたら死ぬっつーの!!てか、キャッキャうふふする方がハードル高ぇわ!どーせ陰キャだよ!コミュ障だよ!きっとこのままなんか孤高の存在的な扱いをされ続けて孤独に死ぬんだ!!転生させられたのに!性格くらいいじっといてよぉぉお!!無理なら平和な状態を保ちなさいよ!平穏なボッチ生活を脅かす魔物なんていらないっ!!!)
後にもたらされた辺境付近を警備していた騎士たちの報告によると。
リーナの祈りによって結界が変貌し、なんか外側に向けてでっかいトゲトゲが生えたという。
騎士たちも聖女の守護だとは分かったが、それを突き破って漏れる魔物はいるだろうと覚悟して構えていた。
ところが、スタンピードでやってきた魔物はすべてトゲトゲにやられていった。
すべてだ。
騎士たちは、魔物が自爆するのを眺めているだけで防衛戦が終わってしまった。
リーナの独りよがりな怒りが、スタンピードの何千という魔物に勝った。
おかけで、余計に聖女として祀り上げられるハメになった。
「なんで?なんでこうなるの。もうお守りだけ作って引っ込んでたい。でも娯楽が少ないんだよ。観劇はダメなんだ、人が演じてたら冷めるから。小説とか漫画が読みたいよぉ」
「うーん、漫画は難しいかもだけど、小説なら少しはあるから、リーナが『これは良い』みたいに言えば勝手に増えると思うよ」
「そうかな……」
確かに、ほんの少しエンタメ要素のある小説らしき物はあった。
だから実行しようと思ったが、そもそも誰に向かって『これいいよ』と言えばいいのか。
図書館で何度も繰り返し本を読んでいると、公爵令嬢が珍しく話しかけてきた。
「聖女様は、そういったお話がお好きですの?」
「あ、はい」
「冒険譚のようですけれど、旅に出たいんですか?」
「いえ、違います」
「なら、そういった想像力をかきたてるようなお話がお好みですか?」
「そうです。楽しいので」
すごい。
いつにもない言葉を発することができた。
メレンゲは、仕方ないなぁと言うかのごとく尻尾でリーナの足をはたいていた。
そして、公爵令嬢が話を広げ、卒業の頃には小説が一大ブームになっていた。
冒険譚はもちろん、ファタジーな妖精もの、友情、恋愛、親子愛、救国物語、復讐ものなど、喜劇から悲劇まで色々だ。
リーナはほくほくであった。
「メレちゃん!卒業したよ!」
「うんうん、おめでと」
学園を卒業し、卒業パーティという苦行もなんとか乗り切った。
自室に戻ったリーナは、メレンゲを抱きしめてベッドに転がった。
「はぁぁあ。これで学校に行かなくていい!ねぇ、メレちゃんはずっと一緒にいてくれるの?」
「そりゃ、霊獣だからな。リーナはボクがいないとだめだめ聖女だし」
「そっかぁ。じゃあ、もういいよね。メレちゃんがいれば十分。あとはお守り作って祈って引きこもって小説読んでてもいいかなあ?」
「え?リーナ、本気で結婚しないつもりなのか?」
「なんて恐ろしいことを!私が今からどっかの男性と親しくなれるとでも?無理無理。お腹痛くなる。どうしても結婚しなきゃだったら、メレちゃんとするぅ」
「はぁ?」
メレンゲはモフモフをぶわりと膨らませた。
「聖女なんだし、なんか特別感あんじゃない?いいでしょー、メレちゃん結婚しよ」
もちろん、口から出任せである。
いくらリーナとて、気を抜いて話せるのが唯一霊獣のメレンゲだとしても、本気で結婚などできるとは思っていない。
「本当にボクがいいのか?」
「メレちゃんしかいらなーい。だって、メレちゃんは呆れるけど見捨てないもん。他の人は信頼しきれないから、メレちゃんがいいなぁ」
「わかった。じゃあ結婚しよう」
「ほんと?嬉しいー!これで行き遅れ聖女(笑)とか言われないですむー」
「ちょっと手を離して」
「ん」
自分の横にメレンゲを転がして抱きしめていた腕を離すと、モフモフがさっきよりも何倍も膨れ上がった。
「え?め、メレちゃん……?」
モフモフが膨らんでしぼんだと思ったら、白い髪のイケメンが現れた。
「ふぅ。これならいいよね。ちゃんと結婚できるし、子どももできるよ」
「っ……?!っ、っ、??!」
「誰って、メレンゲだよ。リーナが望むから、ボクは人型になったんだ」
ろくに喋れないのに思考を読むそれは正にメレンゲである。
「メレ、ちゃん?」
「うんっ」
にぱっ、と笑う雰囲気で、何となく理解したリーナは少し落ち着いてきた。これは間違いなくメレンゲだ。それなら、遠慮もなにもいらない。
「メレちゃんだったかぁ。……ねぇメレちゃん」
「なぁに?」
「その、ちょっとどいて」
「なんで?」
「どこからどう見ても私が襲われてる体勢だから!」
「そうだよ。ボクと結婚するってそういうことでしょ?リーナが読んでた小説で勉強してから、バッチリだよ!」
まさか、あのオトナ向けの小説を読んでいたのがバレていたのか。
恥ずかしさに固まっている間に、あれよあれよと愛された。
「あっ!私、知らない人に話しかけられるとか怖すぎて魅了の能力はがっちがちに封印したつもりたったんだけど、もしかして漏れてた?メレちゃん、それにかかってる?」
ことが済んだ次の日、甲斐甲斐しくお世話されながらリーナはイケメン化したメレンゲに聞いた。
「うん?ボクは霊獣だから、そういう魔法は全部効かないよ」
「なぁんだ、そっか」
「そうそう。純粋に、ボクがいないとだめなリーナを愛してるだけ」
「ならいいや。あい……あい?」
「ふふふ」
「愛かぁ」
「だから人型になれたんだよ」
メレンゲは、うっとりしながらリーナの口にスープを掬ったスプーンを近づけた。
「我は、霊獣メレンゲである。聖女の求めに応じて、伴侶となった。今後は聖女の夫として共にこの国を守るゆえ、よろしく頼む」
「「「ははーっ!!」」」
教会に王族を呼びつけてこれである。
しかも、メレンゲが座る膝の上にリーナが横抱きにされていた。
がっちりホールドして離してくれない。
無理無理の無理だ。
「おめでとうございます!聖女様!」
「おめでとうございます!霊獣メレンゲ様!!」
「うむ。ありがとう」
「ありがとう、ございます」
リーナは、メレンゲの胸に顔を埋めたままお礼を言った。
「メレちゃん、もう無理恥ずか死にそう」
「じゃあ行こっか」
ひょい、とリーナを抱き上げたメレンゲは、軽く妻の額にキスを落とした。
めっちゃ盛り上がった。
その後、聖女と霊獣は常にセットとなり、聖女がささやいて霊獣が代理で話すという、仲睦まじい様子に国中が癒されることになった。
地上を見ていた女神は、床に転がって足をバタバタさせていた。
「あっはははははは!ひゃぁっふふふふ!!もぅ、ジャ、ジャンル違うわよ!知らぬ間にやっちゃってる系!やだもうっ!霊獣が隠れヤンデレ発動してる!しかも異類婚姻譚!!んで、魅了封印してるのに国中から愛される親愛系逆ハーやってる!陰キャ強い!!めっちゃウケるぅぅははははっひゃはは!あー!あの子を転生して良かったわぁ!まだしばらく楽しめそう!!」
女神は大ウケで満足したらしかった。
読了ありがとうございました。
筋金入りなら、たとえざまぁ回避のチートを貰おうとも、たくさんの人と自分から関わるなんて腹痛案件だよなぁと思って。
◆◇◆◇◆◇ 以下、蛇足。 ◆◇◆◇◆◇
「はぁ、面白かった。ふふふ。どうしよっかなぁ。次も似たような魂を貰ってきて――」
「貰って?盗んできて、の間違いでしょう」
「ひぃっ?!えっ、あっ!いえいえ、盗むなんてそんな」
寝転ぶ女神の上から声をかけてきたのは、厳しいと有名な新神教育担当の女神であった。
「じゃあ、かすめ取った、かしら?向こうの神から陳情があったのよ。いつもの流れで魂を洗浄しようとしたら、一人足りなくなったって。それがここの世界にいるらしいって」
女神は、慌てて起き上がって正座した。
「えーっと、その、あ!少し散歩してたらですね、そのへんに魂がふよふょ~っとしていましてですね」
「へぇ。あそこの神、魂を自由に浮遊させているように見えてきっちり一人ずつ認識してるからね?すっごい細かいのよ?バレないわけないでしょう」
「うっ」
「とりあえず、その魂はここでそれなりに幸せになっているみたいだから、無理やり取り上げはしないわ」
「あ、ありがとうございます!」
女神はほっとした。眷属の霊獣は、何かあれば女神に思い切り噛みつける存在なのだ。あの霊獣から伴侶を取り上げたら、何をされるかわからない。
「で、貴女の処遇だけど」
「は、はい」
女神は、反省した風に肩を落として先輩を見上げた。
「今後、この世界は貴女ごと私の指揮下に入ります。いいわね?」
「そ、そんなぁ」
「クッソ忙しい私が見てあげるの。魂はオモチャじゃないのよ。遊びで誘拐した貴女にはきっちりがっちり教育のし直しが必要と判断されたの。誘拐した魂が不幸せになってたら、これどころじゃなかったわよ。最高神の判断でこの処遇なの、い い わ ね ?」
仕事を増やしやがってこのやろう、という副音声が聞こえた。
女神が教育担当にビシバシゴリゴリ再教育されて人格まで変わったらしいと神々の中で噂になり、魂の誘拐事件は格段に減った。
最高神は、今後の魂誘拐事件をなくすため、また教育担当に怒られないため、世界間の魂のやり取りを管轄する神を新しく誕生させたらしい。