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排水溝につまったスライムを日々かたづけるだけの底辺職、なぜか実力者たちの熱い視線を集めてしまう  作者: 北川ニキタ


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―31― ハッ、そんな与太話があるか

「キミなんかより強いだと? ハッ、そんな与太話があるか」


 シーナの発言にアルハルドはあからさまに鼻で笑う。


「寝言は寝て言え。たとえ、どんな最強だとしてもアレをとめられるはずがない」


 アルハルドの断言に、シーナは肯定でも否定でもするわけでもなく、ふーんとただ鼻を鳴らすだけ。


「……まあいいさ。もうすぐ落ちる、あと数十秒もすれば落下する。どんな嘘を並べようが、現実は変わらないんだからな。……ふん、笑えるわ」


 アルハルドは振り返り、漆黒の巨大球体を指し示す。確かにかなりのスピードで落下していて、もう遠目にもわかるほどに大きく広がった姿を見せている。その圧迫感たるや凄まじい。

 冒険者たちは悲鳴と混乱で散り散りに逃げ惑い、ギルド職員は失神しかけている者さえいた。

 支部長でさえ、呆けたようにその空を指さし、唇を震わせている。最終的には「市民を避難させろ……いや、時間がなさすぎる……」と、あきらめの色が濃かった。


「クク……さあ、刻限は近い。どこを見ても誰も助けに来ちゃいない。こんな田舎町、最初の生贄になるだけだ」


 アルハルドが勝ち誇った様子で、無残に倒れた冒険者たちの上を見下ろす。

 破星彗核(カタストロフィ)はいよいよ空高くから降りてきていて、見る者すべての心を凍らせるに足る脅威を放っていた。


「……さあ、最期の瞬間を楽しめ」


 冒険者たちが思わず目を閉じ、絶望に顔を覆う。ある者は最後の力を振り絞って通信機に向かい、「……母さん……ごめんよ」とつぶやいていた。


 ところが――。


 その刹那——空に垂直に落下していたはずの黒球が、パリンッ! という妙に軽い音とともに、まるで薄氷を割るかのように粉々に砕け散った。

 ごごご……と地鳴りのように震えたかと思いきや、無数の光の粒が爆発的に噴き出し、まるでいくつもの巨大な花火が咲いたように辺りを照らす。夜空がまだ明けきらない青みを帯びた空間に、無数の色とりどりの閃光がパチパチと散っては溶けていく。


「な、なにが……?」


「……どういうこと……あの球体が……砕けた……?」


 冒険者たちが呆然と空を見上げる。

 壮大な火花のシャワー。破星彗核(カタストロフィ)は一瞬のうちに砕かれ、跡形もなく霧散していく。まるで打ち上げ花火のように、どこか幻想的だった。


「バ……バカな……そんなわけが……!」


 アルハルドがその瞬間、ゴクリと唾を飲み込み、瞳孔を見開く。

 シーナはというと、「あはは、やっぱりね」という風に、心底うれしそうに手を叩いていた。


「言ったでしょ? わたしなんかより、はるかに規格外の人があそこにいるのよ」


 絶望から一転して呆気に取られる冒険者や支部長の姿が視界の端で揺れる中、シーナはただクスクスと笑いをこぼす。

「あーあ、せっかくもう少し暴れたかったのに」という退屈しきった表情を浮かべているようにも見えた。



 そろそろ日が落ちそうという時間帯。ラグバルトの上空では、突如として花火のようなきらめきが空一面を埋め尽くしていた。


「……おー、きれいだな」


 オレは噴水の縁に腰掛けつつ、空をぼんやり見上げる。色とりどりの閃光が、パチパチとはじけては消えていく。

 通りを歩く人々は「なんだこれ?」「えー、今日お祭りだっけ?」と首をかしげながらも、子供たちは「きれー!」と目を輝かせて喜んでいる。大人たちも驚きつつ、「まあ綺麗だし、いっか」なんて感じでちょっとしたお祭り気分に浸っていた。

 誰も、自分の頭上に直撃するはずだった恐怖などまったく知らない。何もかもが平和そのものだ。


「……まあ、知られてないほうがオレとしてありがたいわけだが」


 あれは、オレのどぶさらい用の魔術が作動した結果だ。

 何がどうなって空から変な物体が落ちてきたのかはよくわからないが――流石にほうっておくわけにはいかなかった。

 ここ最近――具体的にはシーナと出会ってからぐらいだが――思っていたよりも自分の魔術がすごいんじゃないかという疑念がずっと頭をよぎっている。

 いや、どぶさらいのために色々改造していたら意図せず性能が上がってしまったというか……そういう感じなんだけど、まさか、他にも色々と応用できるとはなぁ。


「……下手に力を知られて、前世みたいに『もっとやってくれ』って群がられたらたまったもんじゃないからな」


 前世の社畜として痛い目を見たオレにとって、「誰にもバレずに、そこそこ暮らす」こそが最優先事項。ドブさらいだろうが汚れ仕事だろうが、安定した生活が手に入るならそれでいい。

 今もこうして、ベンチに座りながらのんびり花火(?)を眺めていられる時間こそ、何よりの幸せだ。


「ふー……ま、とりあえずこれで、明日もいつもどおりに暮らせるな」


 視線の先で、子供たちがはしゃぎながら手を振っているのが見える。あまりに無防備な笑顔につい口元がほころんでしまう。

 ……そう。オレのやるべきことは変わらない。地味な仕事でちまちま稼いで、あとはのんびり平穏に暮らす。

 オレは改めてそう心に誓うと、静かに夜空を見上げ続けた。



 一方、ラグバルト郊外の戦場では、先ほどまであれほど悲鳴が飛び交っていたのが嘘のように、冒険者たちが歓声と涙を上げていた。

 空に浮かんでいた漆黒の破滅の塊――破星彗核(カタストロフィ)が、突然の花火のように爆散したからだ。


「よ、よかった……街は助かったのね……!」


「う、うわああん! 生きてるよ、オレたち!」


 仲間同士で抱き合ったり、膝から崩れ落ちて涙を流したり……。この奇跡をいったい誰が起こしたのか、誰も分からない。ただ、そんなことは彼らにとって些細なことだ。


「流石、わたしの好きな人」


 しかし、絶界の魔女シーナはわかっていた。

 空から落ちてきたあの災厄を一瞬のうちに破壊できる人なんて、ラグバルトの町にはダーリンしかいないことに。


 もうひとり、リリアだけは人混みに揉まれながら、あふれ出る涙を拭いつつ、小さくつぶやく。


「……セツさん……ありがとう……!」


 まわりに聞こえるか否かの小さな声だったが、その響きは本人にとって確信に満ちている。彼女も薄々感づいていたのだ。規格外の力を秘めた男の存在を。

 しかし、喜びに沸く冒険者たちが、その真相に気づく様子はまるでなかった。



「バ、バカな……どうして……破星彗核(カタストロフィ)が……」


 侵略者アルハルドはまるで自分を否定されたように、かくかくと肩を震わせている。鎌状の腕で先ほどまで踏みつけていたグランドイーターの死骸を蹴散らしながら、その多面体レンズの目をぎょろぎょろと動かして上空を見回す。


「この程度の大陸、魔女さえ気をつければいいと思っていたが……なにか、もっと恐ろしい存在が……? くっ、こんな未知の存在の相手なんかしていられるか。侵略計画はやめだ。帰還する……!」


 アルハルドはそう言い捨てて、腰の装置をいじくる。

 すると、夜空に浮かぶように謎の円盤が降りてきた。外の世界から持ち込まれた乗り物なのだろうか。そこに乗って逃げるつもりらしい。


「逃さないわよ?」


 シーナが冷たい声音でそれを見やる。


「あなたみたいに、どれだけいじめても誰からも同情してもらえない存在なんて、そうそうお目にかかれるもんじゃないんだから」


 そしてシーナは軽く地面を蹴る。

 わずか一瞬の出来事。

 彼女はアルハルドの頭上に浮かんだ円盤まで一気に跳躍し、拳を叩きつけてあっさりと粉砕する。


「ば、ばかな……やめろ……!」


 アルハルドは甲殻の腕を必死に振り回して抗おうとするが、まるで無意味。


「死より恐ろしいバツ、たっぷり味わわせてあげるね。はぁ~、どうやってイジメようかな。楽しみすぎてワクワクしちゃう~」


 シーナはそう言いながら、アルハルドの甲羅を掴む。途端、硬かったはずの甲羅がバキリと砕けた。

 その瞬間、アルハルドは悟る。これから始まるのは、自分にとって最悪の地獄だと。


「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」


 夜空に響き渡る侵略者の絶叫が、すべてを震え上がらせた。

 ――後に、この惨劇を目撃した冒険者たちの中で、具体的に何が行われたかを語る者は一人もいなかった。ただ、誰もが口を揃えるのはひとつだけ。


「絶界の魔女、シーナには絶対に逆らわないほうがいい」

読んでくださりありがとうございます!

第一章はこれにて完結です!


「面白い!」

「第二章が……読みたい!」

「シーナ様の暴れっぷりを見たい!」


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― 新着の感想 ―
こんばんは。 あれだけ強さを見せつけたシーナが此処まで惚れ込むんだから、セツのまだ見ぬガチのフルパワーは相当ヤバいんでしょうね…!!
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