8 花が枯れても散らない金木犀
皆は花が枯れても散らない金木犀を知っているだろうか。
私は知っている。
その金木犀は私の家にあるから。
私の初恋を彩る金木犀、甘くて熱い欲望のように纏わりついてくるその香に私の気持ちを乗せて
秋風と共にどうかあの人に届きますように。
純粋な私は秋になるとそう願っていた。
花が咲いては堕ち、堕ちてはまた花を咲かす。
それが花達の運命なり。
恋をしては失恋し、失恋してはまた恋をする。
命ある限りそれを繰り返す人間のようではなかろうか。
私は花には詳しくないが、金木犀は人に贈れないらしい。
花言葉の一つに何やら秘密があるのだ。
金木犀は小さな花をたくさんつけることから「謙虚」という花言葉を持つ。
また、甘くて強い匂いから「初恋」という花言葉をつけられている。
そしてその強い匂いが魔除けになると考えられていた頃に「隠世」というあの世を意味する花言葉をつけられている。これが人に贈れない理由の一つになる。
もう一つは淫らな花言葉を持っていたからだとか。
私はその花言葉を知りたかったがいくら調べても載ってなかった。今は「誘惑」になっている。
怖い言葉、淫らな言葉とは裏腹に美しい言葉も持っているのが金木犀。
「真実の愛」
これが私の金木犀が好きな理由。
金木犀の強い匂いを隠そうとしない一面を表すらしい。
うちの金木犀、今年はだいぶ早く花をつけた。
「早すぎやしないかい?」
橙色の小さな花に手を伸ばし、枝を優しく愛撫する私。
「そんなことはない いつもは早く花をつけろと急かすクセに」
この金木犀は実をつけない雄株。
何やら嫌な予感が私の五感に走る。
初恋の男が結婚した。
私は気落ちした。
今まで心の支えだった男が…?
もう41だから…か?
いやでもなぜこのタイミング?
ふざけるな…
いろいろな感情が私の脳を走る。
女王と王の行動に影響を及ぼすほどに。
翌日金木犀は花が廃れていた。
「悪かった…私のせいで花をつけてしまったのだろう?」
私は金木犀に謝った。
「そんなことはないさ… 私の気まぐれだ」
金木犀は優しかった。
時は過ぎ、12月になった。
金木犀の木をふと見上げた。
なんと茶色く枯れた花がまだついていた。
私の未練が花をそうさせたと言う人がいた。
未練なんぞとうに廃れきっていた。
あの男のせいで廃れた愛が真実なら私の未練が偽りだというの?
完全に冷めきった恋は隠世に運んでほしい。
どうかこの廃れきった愛があの男に届くことがないようにその枯れた花を落としてほしい。
「あなたを心から愛してた、次の秋は他の男を心から愛せますように」
金木犀の木を剪定して貰った。
花をつけないかもしれないと告げられた。
それでもいい。私はしばらく恋をする気はない。
真冬の風にあるはずのない金木犀の匂いを感じた。