A 女王と王の誕生
昔と言ってもさほど遠くない過去。
とある夫婦のもとに第1子が生まれた。
その娘はどんな人も虜にする可愛らしさを持っていた。
1年前に私の父になる男が私の母になる女の父との約束を破った事によって娘は生まれた。
その娘には弟が2人、妹が1人生まれた。
そして娘は5つになった時に全て理解した。
私はもう一番にはなれない、いつも最後になってしまうと。
それでも娘は幼い弟妹の面倒を見続けました。
小学一年生になった娘は狂いました。
齢7つで冤罪をかけられました。
2人の少年から嫌がらせを受けました。
誰も彼もが見て見ぬふりをしました。
娘はある日思いました。
「人を頭から 落としたら何がでてくるのかしら」
娘は2人の少年を狙っていました。
あの2人さえ消してしまえば私は自由になれる。
娘は怖い先生に2人の悪事を全て話しました。
優しく話を聞く先生に娘は泣きました
「あの2人が私に冤罪をかけました
そして私は嫌がらせを受けています
お願いです 助けてくださいな」
そして娘は平和な小学校生活を送りました。
中学に上がると娘は親の期待に押し潰されてしまいました。
悲しむ娘に味方は誰もいませんでした。
どんどんと追い詰められる娘は完全に堕落してしまいました。
そして娘の意識は2つに別れました。
文才を司る王の優
感情的を司る女王の優
2つの意思は互いを支え合い、娘を生かしました。
誰にも気付かれることなく、不思議な初恋を体験しました。
金木犀の匂いに惑わされ鮮明な記憶が甦りました。
「自分らしく生きていく」
画面の中の人間の男に心奪われた。
女王は言いました
「ああ哀れな娘 画面の中の男に騙されて初恋を無駄にしたなんて 私は不甲斐ない」
王は言いました
「恋の歌は私を踊らせてくれる特別な旋律 あの娘にもいつかわかる日が来るはずだ 待ってみよう」
娘の水筒にチョークが入っていた。
死にたいと願う娘に女王は言いました
「死にたいと願うならば 処女のまま死になさい」
王は言いました
「死など魂の休息に過ぎない 心の休息が欲しいと願うなら生きよ」
娘は迷わず首を吊りました。
苦しくて踠く娘 時は午前2時35分
天使が現れて言いました
「哀れな娘よ 私はお前を天国には連れていけない どうしても死を望むならば悪魔に頼むといい」
娘は2度と生まれ変わりたく無いと願いました。
首の縄がほどけて助かってしまいました。
娘は嘆きました。
母親は娘の心境を理解しませんでした。
「いじめられるお前が悪い」
娘は母親を嫌いました。
救われることなく 娘は壊れてしまいました。
「人間を殺すと罪に問われるならば 小説の中で殺してしまえばいいじゃない」
娘は黒いドレスを身に纏い 蜘蛛の名を持つ殺し屋を産み出しました。
「貴女には 私のように常識や性別に囚われない生き方をして欲しい どうか私の救いの手になって」
娘はその女にヨゾラと名をつけ、分身として可愛がりました。
王が話を組み立て、女王は絵を描きました。
「私の殺意をどうか代わりに成し遂げてね」
壊れた娘はヨゾラに殺意を託しました。
その夜に娘は不思議な夢を見ました。
殺し屋の女は言いました。
「私の恋人を作って欲しい 1人は寂しい」
娘は必ず恋人と友達を作ると約束をしました。
イサムとリュースーという男、そしてジャックという恋人を産み出しました。
酒に言葉を隠し、ヨゾラに伝えるリュースー
ヨゾラを師として慕うイサム
ヨゾラの前で死んでしまったジャック
娘の中で最高の組み合わせを産み出しました。
それでも娘の心はバラバラでした。
本来の自分は王なのか女王なのか
思い出せませんでした。
日常は常に裏切りと隣り合わせ
愛を得たいのなら富を差し出させ
幸せを得たいのなら地位を差し出させ
富が欲しいなら幸せを差し出せ
地位を願うならば愛を失う
全てを願うならば愛を失う覚悟で
どちらにしろ娘には愛も富も地位もありません。
娘は美しくないので全てを失う覚悟で愛を願いました。
「ああ哀れな娘 愛のために全てを差し出すなんて お前の目には何が映っているんだろうか」
娘の目には妹の姿が映っていました。
玉のように可愛がっている妹は
いつしか姉を馬鹿にしました。
そして自分の方が姉より優れていると思っていました。
姉妹愛すら失った娘は言いました。
「私はあの子すら越えることは出来やしない 私は無能だから あの子を愛する資格も得られやしないのでしょう」
娘は妹を狙いました。
母親から電話がかかってきました。
「猛者が逃げた 妹の首を絞めていた 私の帰りが遅ければ妹は死んでいただろう」
娘は猛者に挑みました。
その夜に猛者は逃げてきました。
娘は猛者を責めて言いました。
「お前は妹を殺そうとしたな? 私はお前を許せない 許そうとしていない」
娘は猛者を責め続けました。
次の日に妹を見た娘は絶句しました。
左目に大きな痣、首には手の跡、顔には引っ掻き傷
娘は少し喜びました。
「これで妹の美貌は傷ついた」
なんと穢らわしい娘
女王は言いました
「さあ娘よ 妹を狙うチャンスだ あの子を殺せば愛は手に入る」
娘は拒みました。
娘は妹に助言しました。
「化粧して痣と傷を隠し メガネを身に付けなさい 化粧を誤魔化せる」
妹は姉の言う通りに化粧して痣を隠しました。
こんなに酷く痛めつけたのは何故だろう?
妹は姉に話しました。
「兄は上履きを私と凛に洗うように言った でも私は凛と自分の上履きを洗うので精一杯 それで兄の逆鱗に触れてしまった 凛を救う為に私は庇い、凛の代わりに殴られ引っ掻かれ、首を絞められた」
妹の話を聞くと娘は怒り、我を完全に忘れてしまいました。
娘は猛者を殴りました。
「よくも私の可愛い妹の首を絞めたな? お前は代償を支払う覚悟はあるか?」
娘は猛者を脅し、殺そうとしました。
「俺は悪くない 悪いのは妹だ」
猛者の戯言に娘は耳を貸しません。
「二度と妹に近づくな 次に手を上げたらお前を私が殺す」
娘は猛者を逃がしました。
妹は姉の後ろで笑っていました。
我に返った娘は何が起きたのか理解できていませんでした。
こうして完全に2つに割れた意思は娘の一部になりましたとさ めでたしめでたし。