まだ一緒にいられる
ありがとう、ごめんねジュノー。
領事館の裏側に仰向けになって倒れる真っ白な機体を見ると自然に涙が溜まってくる。
「ありがとうグラム。 戻って良いよ」
「お疲れ様でした、マスター」
一応パス(魔力的な繋がり)はそのままでグラムを戻す。
ボクの魔力は回復してないから保険みたいな感じかな。
今はクラスとジュノサイザー二体と繋がったままでボクが上位権限を持っちゃってるみたいだね。
エストア達も解ってるのかな? 後でからかってみよう。
とりあえずどうしよう? って決まってるよね。
離れてこちらを見ているエストア達の中の二人組の所に向かう。
「お初にお目にかかります。 国王陛下でございますね?」
「あぁ、私がルセチアーノ・ランズジュノーだ」
深い緑の軍服に身を包んだ、短い薄紫色の髪に口髭の四十代くらいのカッコいいオジサマ。
隣の騎士服の男性は第二王子のルクレツィア・ランズジュノー。
フェルミナが髪をストレートにした様な、女性にしか見えない美男子だ。
「ファーレンより参りました、ユフィと申します。 この度は大事になってしまい申し訳ございません。 今回の件についてはどの様な処分も受け入れる所存……では無いのですが、どう致しましょう?」
国王は大爆笑で、王子は呆れ顔。
冗談では無いのだけど?
「これだけ好き勝手に暴れておいて、罰は受けたくないと? フェルミナの選んだ者は英雄か大馬鹿者のどちらかだな」
「こんな事になってしまいましたが、元々国外退去処分の撤回をお願いしに来ましたので……」
「場所を変えて話をしよう。 ルクレツィア後は任せたぞ。 ルシルには謹慎を命じると伝えておくように」
「はいパパ」
ぶっ! パパ? 公の場で? せめて陛下じゃないの?
見た目が好みでも一気に冷めるわっ。
領事館の隣の建屋の一室にサッとお茶の準備がされて、雑談にはいるけどボクやフェルミナの学園での事などもご存知の様だ。
「娘と恋仲であるとは聞いているが、仮にこの戦争で君が活躍したとしても、大切な娘を平民の君に遣る訳にはいかない。 王族として国の繁栄の為の婚姻でなくてはならないし、跡継ぎを残す事も求められる」
「はい……」
「ただの平民には……な」
「と、仰いますと?」
「ファーレンの第一王子は表に出なくなってしばらくになる。 暗殺説さえあったほどだ。 それがまさか学園などにいるとはね。 君は王女達ともずいぶん親しいそうだね?」
「調べたんですか? いやらしい」
「君は政治には向かないね。 綺麗事だけで国は維持出来ない。 仮にも王女だ、放おっておけるはずがないだろう。 君がただの害悪なら既に排除していた。 もし戦争に勝てば少しは時間に余裕が出来る。 君次第だ。 ただの思い出で終わっても……、あの娘には幸せな事だろう」
「時間をいただけると?」
「さぁてな。 非情でなければ国王はできない」
「国王陛下。人はゴミですか?」
「民がゴミなら国は滅ぶ。 だが民は数である事は本当だ。 大の為に小を切り捨てねばならん。 国王とはその全てを背負う者の呼び名だよ」
国外退去処分については無しになったし、フェルミナとの時間ももらえた。
今はそれだけで十分。
そのままフェルミナのテントに走り応接室の扉をあけ……ずに閉じるのだが閉じれなかった。
場違いな人の足が挟まれたからだ。
「何してんだこのバカ娘」
「誰の事でしょうかぁ? 人違いではぁ? 使用中に申し訳ありませんでした。 それでは失礼いたしますぅ」
「トイレじゃねぇ」
ぎゃうんっ!
容赦なく思っきり殴られた。
「入って座れ」
「はい……」
姉様達とフェルミナの前で正座になる。
サシャは笑顔だけどフェルミナは微妙な顔だ。
「ねぇ、ユフィちゃん。 あたしは書類と苦情の処理にきたんじゃないんだわぁー。 なんで領事館とジュノーまで壊すかなぁー?」
「お姉様、領事館を壊したのはボクじゃありませんっ」
「テメェが行かなきゃ、何も壊れてねぇんだよ」
「申し訳ございませんでした……」
「船から見て吹き出したわっ」
痛いっ、痛いっ。
アシェが足蹴にしてくる。
みんなで虐めるのはやめてけれー。
「アシェ様その辺りで……」
「殿下が甘やかすからっ、こいつはやりたい放題っ。 このっ、このっ、考え無しっ。 あたしの休暇を返しやがれっ」
休暇かよっ。
まぁ、迷惑をかけたのは事実だろうし仕方ない。
「クラスを出さなかった事は褒めてやる。 で、どうなった?」
国外退去処分の撤回とフェルミナとの事など、陛下との話を概ねで説明する。
姉様達はホッとするけどフェルミナの目からは涙が溢れる。
「お父様……」
「泣かないでよ。 まだちゃんと許してもらえた訳じゃないから」
「それでもです……。 まだユフィ様と一緒にいられる……」
泣き続ける彼女をそっと抱きしめる。
泣き止むまでずっと。
姉様達は目で合図をくれて静かに退室してくれた。




