よく頑張りました
「ゴミ虫の平民がっ」
おっ、ゴミからゴミ虫に進化したっ。
ヒヒッ。
あれ? どっちが上だ?
「殿下。 おさがり下さい」
「私が? なんとかしたまえよ。 その為に君がいるのだろう?」
はぁ? ムカついて仕方ない。
「エストア下がって。 エストアじゃボクの相手にならないよ」
「逃げられる訳ないじゃない」
「そうだね。 ならおいで」
エストア達は強いけど強くない。
パウラ達も強いけどクーン達の方が強い。
やっと理由が解った。
秘密保持の為に本気の手合わせが出来ないんだ。
お互いにはしてるだろうけど格上とやらなければ成長はない。
得物はレイピアかぁ。
武器は合わせる。
本気みたいだね、気合い入った顔もやっぱりかわいい。
「いくよっ」
「きっなっさぁーい」
カンカカンカンカンッ。
エストアが全力で突っ込んで、速くて鋭い斬撃を放ってくる。
剣筋は悪くない、ちゃんと修練も覗える。
ちょっと力んで剣速が鈍ってるのが残念。
レイピアは速さが命だよ。
「焦らないの。 初めてなんだから、様子見から始めてもいんじゃない?」
「アドバイスどうもっ」
斬撃もいいけど、こんなのはどうかな?
西洋剣術風に彼女に剣先を向けて水平に構える。
さっ、どうやって攻めてくる?
「そんな防御一辺倒な構えでいいの?」
「言葉はいらない。 おいでませっ」
普通に突っ込んでくんなよ。
間合い読めよ、ボクの突きのが近いだろ。
斬撃が当る前に突きが彼女の胸を……とは、ならない。
攻撃はクラスの防壁によってオートで防御されるからね。
とも、してやらないけどね。
「ホゥルデモリッション、スペルジャミング……リリース」
「!!」
彼女は障壁が消された瞬間に体を捻って芯をずらし、ボクの剣先は脇腹に突き刺さる。
「痛いじゃない」
「それは仕方ない。 ボク達は命のやり取りをしてるんだから」
「ならご丁寧に回復魔法は要らないんじゃない?」
「傷が残るからね。 もう終わろうか?」
「まだまだっ」
仕切り直すけどさっきと同じ?
デジャヴの様に数分前をなぞる。
作戦はあるのかな?
あらあら、なるほど障壁が違うね。
でも、ダメよー。
ボク相手なら小細工程度じゃなくて、基本パターンから変えてかないと解析に時間かかんないから。
「ホゥルデモ……」
後ろっ!
背後の空間が歪んで巨大な剣先が飛び出す。
このタイミングはさすがに避けれない。
障壁展開。
ガキィィィィィィィィィィン。
大剣と防壁がぶつかり合う。
あぁ、質量が違いすぎて受けられない。
受けたままに壁に激しく激突する。
いてててて。
受けれても衝撃が段違だね。
両側から挟まれたら潰れるかな。
「平気なんだ……、すごいね」
「いや、そうでもないよ。 今までで最大の衝撃だったかも」
「そう言ってくれるなら、頑張ってみようかなっ」
狭いホールなのに巨大な二本の剣先がボクを襲う。
ちゃんと制御出来てるからメイドさんや二人追加された倒れてる人達も大丈夫。
そろそろ誰か起きてもいいのだけど?
速い。
エストアの斬撃よりも断然速い。
突然飛び出して来られるにはヤバい速さだね。
まるで骸骨おじさんのメガロなブラスターを避けてる様なプレッシャーに神経が削られる。
これがクラスドラゴン。
受けて吹き飛ばされたら終わりだから、感じた瞬間に避けるか流すか。
エストアは王太子の前で防御体制のままでこちらを睨む。
特攻はどうかな? 悪手か。
防御を消す前に串刺しにされそう。
うーーーーーー。
ダメだ。
避けるのに手いっぱいで良い勝ち筋が探せない。
あまりやりたくないけど仕方ない。
「ファイヤーランス、ファイヤートルネード……リリース」
放つ魔法は当然防壁で止められて、二回共違う構成陣。
剣撃の嵐も止む事もない。
「獄炎結界、インフェルノ……リリース」
炎を強くした処で防壁で弾かれ攻撃が通る訳もないのだけど。
「隔離結界、シールドプリズン……リリース」
インフェルノの外側を隔離結界で覆う。
……………………
攻撃を続けていたクラスの剣先が急に結界へと目標を変える。
クラスドラゴンの中なら問題ないだろうけど、操者は生身の人間なんだよねぇ。
魔法は防壁で防げるけど周りを炎で囲んだらどうなると思う?
クラスドラゴンの剣先がやっと消える。
遅いよっ、もっと早く判断しろよっ。
インフェルノ、シールドプリズン解除。
エアーコントロール……リリース。
「エストア!」
魔法を解除して周囲の温度を下げる。ぐったりとした彼女の傍に駆け寄って抱きあげる。
大丈夫……生きてる。
コールドブレス、ヒール……リリース。
体温を下げて回復をかけてから頭を撫でる。
「よく頑張りました」




