涙の訳は……
「遅くなってすまない。……リスの様なご婦人が来ていると聞いていたが、そっちのリスだったかと思ってね」
「ひつれひてふへ」
私のほっぺはすでにおかわりでパンパンだった(モグモグ)。
「いいから、口の中を無くしてから話してくれ……」
モグモグモグモグ。
ファシルを軽く睨みながら咀嚼を続ける。モサモサしてるから、なかなかなくならない。
眼鏡をかけて青く長い髪を後ろでまとめた静かで落ち着いた雰囲気の大人の男性。もちろん攻略対象。
とてもカッコよく優しくて大人気のキャラなんだけど騎士団所属なので辛く寂しいエンディングも多いのだ。
「あらためて、第三騎士団 副団長 ファシル・コルネアス・フィーネだ」
「冒険者をしてます。 ユフィです」
私のほっぺが戻るのを待って挨拶され手を差し出される。握手を返すけどファシルの手は強張って震えている?
「君だね。ルッツを無手で翻弄したというのは? ルッツはけっして弱くない。なにかの間違いかと思ったが……、どうやら本当のようだね。 私もそれなりだと思っていたのだが、勘違いだったみたいだ。 君を見て心が震えている、今にも剣を構えたいほどだ」
そうか、攻略対象達は私が、ユフィーリアが敵である事がわかってるんだ。 だからいきなり斬り掛かかられたんだね。
ちょっと受け入れられないけど。
「手紙を送ったのは私だが、君に会いたがっているのは父なんだ。 ルッツを難なく倒すほどの者ならぜひとも一度手合わせを、と。 十分なお礼はさせてもらうからお願いできるかな?」
「お断りします」
「いや……」「あの……」「それでね……」
「お断りします」
「………」
「お話は以上のようなら失礼します」
そういって席を立とうとする。
「うーん、……私がまだ副団長になる前の話なんだけど、五年ほど前だったかな。 貴族街のある場所で火災騒ぎがあってね。 良い屋敷なのに一部屋だけみすぼらしい部屋あって、そこで爆発があったみたいなんだ。 一般騎士だった私はすぐに対応から外されたんだけど、管理していた三人の従者達は重たい処分を受けたということなんだが……」
「そうですか。 治安を守るのは大変ですね。 ごちそうさまでした」
席を立ち扉に手をかける。
「君が冒険者になったのもちょうど五年前で10才の時だ。 たった一人で薬草や素材を採取して冒険者ギルドにやってきたそうだね。 壁の外で採取するなんて10才の少女には過酷な話だ。 そして……、今年15才になる女の子を探して会いたがっている両親がいるという事なんだが……?」
「……私には関係の無いお話ですね」
部屋から出て扉を閉める。
扉の前にいた騎士に先導されて外にでると空はもう暗くなっていた。送るという申し出を断りフードを被って歩きだす。
視界が霞む。涙が頬を伝う?
きっとボクじゃない。
この世界の命の価値は軽い。今、この瞬間も何人もの人が死んでいて、私の様子を伺う視線が絡んできて煩わしい。
どこにでもある話しで、気の毒だけど悲しくなんてないのに涙が溢れてくる。
前世の両親を思ってなのか? ユフィーリアのもの?




