ボクを殺す気満々じゃん
体が動かない。音も聞こえない。瞼も開かない。声も出ない。
死んじゃった?
「……」
唇に柔らかさを覚えて頬が濡れる。
感覚はある。
息ができてる。胸が動いてる。良かった。まだ生きてる。
「……」
「……まだ……寝てて……下さい……ね」
傍に温もりを感じる。
「タキナ……」
「申し訳ございません。 タキナ様ではございません」
「フェルミナ……」
また唇が合わされる。
無抵抗な人間に何すんだ? とは思うけど別に嫌ではない。
やっと目が開く……手が動く。
知らない天井だ。
そりゃそうか、ジュノーに来て初めての屋内か。
大きな白い生地のテントで、天井には大きなジュノーの紋章が刺繍されていれる。
きっと王族用のテントだね。
体は動くけどすごくダルい。
頭がくらくらする。
……って、裸じゃんっ。
良かった。下は履いてる。
知らない下着だ。
なにも気にする間もなくもどしちゃったもんなぁ。
あー、汚かっただろなぁ。
服を脱がしてくれた方申し訳ありません。
ありがとうございます。
これが魔力欠乏かぁ。
戦闘中に気絶するなんて大問題だね。
体が動いて良かったし、チェスターが過信してボクとセラリスを舐めてなければ完全に終わってたよ。
フェルミナ、また泣いてたんだね。
彼女の頬に手を当てて、朱くなった瞼を指で撫でて唇をつける。
彼女の温もりと生きている実感に涙が溢れる。
唇を重ねてくれるのを受け入れてされるがままの体の感触を素直に喜ぶ。
「ごめん。 また泣かせちゃったね」
「ユフィ様がご無事ならそれで十分でございます」
「どれくらい経ったの?」
「四時間ほどでしょうか」
「そっか」
「この度は申し訳ございませんでした」
「ううん、こっちこそごめん。 やり過ぎちゃった」
「いえ、チェスターは最初からユフィ様を殺害するのが目的であったと思います。 本気のジュノサイザーとジュノスでは初撃で一刀両断にされていてもおかしくありませんでした。 思惑を見誤った私の責でございます」
「フェルミナは悪く無いよ。 仕合を受けたのはボクの判断だし、少し考えが甘かった。 ホントギリギリだった。 強かったよ」
気絶しちゃって確認出来なかったけどチェスターとジュノサイザーはしっかり生きてるって。
もちろんセラリスもね。
チェスターは回復後に尋問を受ける。
不穏な発言があったとセラリスが報告したからだ。
ボクが殺害した兵士達は傭兵なので問題自体は不問となる。
家族関係は正式な物はなし。
引き続き調査してもらって、もし見つかれば一生困らない様には取り計らうつもり。
フェルミナが服を着せてくれて、髪も彼女と同じ様に巻いてセットしてくれる。
王女なのに手際が良い。
毎日自分でしてるのかな?
またしても女子力に違いを感じてしまう。
用意してくれた服は彼女と同タイプの騎士服でエメラルドグリーンの挿し色は変わらないけど刺繍や飾りはシンプルな物になってる。
来客がある(ボクに?)との事なので、テントの来客用の机に付くのだが。
フェルミナの招きで入ってきた人物に思わず涙がでる。
セラ?!
言葉が出ない。
ボクは完全に忘れていた。気にも留めてなかった。
その場で土下座して謝罪する。
「本当に申し訳ありませんでしたぁ。 完全に忘れておりましたぁ」
「ユ、ユフィ様頭を上げてくださいっ。 死んでも構わないと言ったのは私ですからっ」
「ユフィ様はカッコいいのに締まらないですわよねぇ」
「運んできれいにしてくれたのはセラ?」
「それは私でございます。 他の者に任せるなど考えられません。 ユフィ様のお体をじっくり丁寧に拭かせていただきました。」
「(じっくりってなんだよ? スープか? 表現がおかしいよ?)ありがとう。 汚かったよね、ごめん」
頭飛ばされなくて良かった。
チェスターのシールドバッシュの時に自分だけ転移で逃げていたら……と思うと、ぞっとする。
ボクとセラは駆け付けたフェルミナ達に一緒に救助されたそうだ。
セラが自分のした体験の感想を興奮しながら話してくれるのだが。
「ユフィのステップがスッとして(…………) シュシュシュって感じで……(んー?) 剣と刀ががカッカッカッカッカッってなったぐらいで気持ち悪くなっちゃってぇ(んーー?) 耐えきれなくてもどしちゃって意識なくなっちゃって。 アッハッハ」
すっげー最初じゃねーか。
後の話だけど、五分経たずに意識を失っていたらしいとのセラリスの証言だ。
ロボットファイトのなんたるかを少しでも感じていただけていたら幸いです。
「ユフィ様……」
「どうしたの?」
フェルミナの瞳はボクを捉えて離さない。
美人の真顔ってちょっと怖くて苦手なんだよねぇ。
「私、決断いたしましたわ」
「ん?」
「この戦いが終わったら……んーーー」「やめてぇぇぇ」
不穏な発言しようとするフェルミナの口を無理やり塞ぐ。
「な、何をなさいますのっ」
「それ、いーから!」
「ユフィ様……。 私もこの戦いに勝利したら彼と……」「範囲睡眠結界魔法ヒュプノス……リリース」
ハァハァハァ。
こいつらボクを殺す気満々じゃん。
ほんとに死にかけたんだからね。
死んでも護るとかもう言えないんだからねっ。
眠らせた二人をベットに寝かせてホッと胸を撫で下ろす。




