だから正義を口にする奴は嫌いなんだ
おいおいオジサマ?
剣気や闘気じゃなくて殺気に見えるのだけど?
こちらの小太刀二刀流に対してチェスターは両手持ち兼用片手剣。
リーチはあちら、速さはボク。
チェスター機に光が見えたと同時に動くっ。
「実体弾多……」「それ要らないっ!」
キィィィィィン。
見えた瞬間肉迫してるってのっ。
多重展開。 防壁&ファイヤーランス。
実体弾や魔法が入るとは思ってない。
向こうもそう思ってるはず。
初手の狙いは同じ、一気に間合いを詰めて最速の一撃を放つ。
小太刀のボクよりチェスターの方が僅かに速いっ。
嘘でしょっ?
仕方なく斬撃を弾くけど、重っ。
「左右大腿部に損害中、及び各部に亀裂多数」(ヒール……リリース)
「オールグリーン」
かぁー、受けれないじゃんっ。
カッカッカッカッカッカッ。
浅くても重い連撃に流水の動きに移行して斬撃を受け流していく。
「各部亀裂発生損害少」(ヒール……リリース)
「オール……」「それも要らないっ!」
「各部継続的に損害。 速すぎます。 動きの終点から始点を0.3遅らせて下さい」
「わかるかぁー!」(ヒール……リリース)
ひゃー、速いし重いしっ。
こっちの攻撃を挟む暇が無い。
チェスターは連撃の間に実体弾もまぜてくる。
揺さぶりと魔力削りのつもりだろうけど、防壁はボクの自前。セラリスの魔力は動きに全フリじゃないとどうにもならんっ。
ライトエフェクト、サウンドエフェクト……。
目眩ましや干渉系も通じない。
ファイヤーランス、アイシクルランス。
こちらの魔法は自動で防壁にガードされる。
回復に防壁と、それぞれ規模が大きいから魔力の消費が激しくて倦怠感を感じる。
これなら?
アースクエイク、アーススワンプ……リリース。
安定性も高いけど沼を嫌って僅かに下がる処に食らいつく。
チャンスっ。
違う……。誘われた。
前に出た瞬間にシールドバッシュをカウンターで合わせられる。
ミスったぁ。
防壁を挟んでダメージを減らす。弾き飛ばされた勢いを使って大きく下がるけど、目の前に殺意の塊が迫る。
頭の中で警報が鳴り響く。
味方かと思ってたのに……、やっぱり殺しにきてんじゃん。
だから正義を口にする奴は嫌いなんだ。
正義の為に平気で人を殺す。
逃げる?
いや、逃げたくない。
「各部損害甚大」(ヒール……リリース)
「短距離転移、テレポート……リリース」
移動できたのは、200メートルほど。
…………。
意識とんでたっ。
異常な体の痛みに膝をつき悶え嘔吐する。
頭が割れる。
体が動かない。
動け動け動け動け動けよっ。
「機体ごとテレポートまで出来るとはな。 だがもう体も魔力も限界だろう? あの世でフェルミナと一緒になるんだな」
チェスターの斬撃をギリギリで左手のソードストッパーで弾いて無様に転がって勢いを殺して機体を保つ。
「セラリス……。 お願い、あと一撃……保たせて」
なんとか片膝を立てて半身で構える。
左手は鞘、右手を柄に。
「まだ動くのか? 往生際の悪い」
実体弾がセラリスを貫く。
腕と頭だけ無事なら良い。
避ける必要がない……。いや、避ける事すら出来ない。
「死ね……バカな小娘」
チェスターの剣が動いたと同時に動く。
動けない……。動けよバカっ。
真っ向に降り下ろされる斬撃を頭だけ避けて体が切り裂かれた瞬間、鞘走りで一気に加速させた刀がチェスターの胴から首に向けて斬り抜ける。
「抜刀一閃……夢刹那……」
へへっ……、負けなかったぞ……。
ざまぁ……。
両機が崩れ去る音と共に、納刀まで至らずにボクの意識は闇に落ちる。




