私……まだ心の準備が……
正義、か。
この人はきっと自分の中にしっかりした信念を持って行動してるんだろうなぁ。
芯のある人は強い。
そんな人と中途半端な気持ちで剣を交えたくなくて、でも他人の正義を押し付けられるのは嫌な訳で。
ボクはヒーローじゃない。
ただの悪人なのかもしれない。
みんなを助けたいって思うけど、それは好きな人達だけでそれ以外の人達はどうでも良くて。
フェルミナがいなければジュノーに来る事もなかったし兵士達も死ぬ事は無かった。
「お騒がせしたのは申し訳ありませんがお断り致します」
「何故です、腕におぼえはあるのでしょう? 怖じ気付きましたか?」
「そうとって頂いても構いませんが、これ以上の騒ぎは望みません。 それに私は貴方に向ける剣を持ち合わせておりません」
「そうですか……ご意向はわかりましたが、そうは言っていられないのです」
「と、言いますと?」
「司令部内で意見が割れているのですよ。 貴女の力を見て取り込むべきとする意見と今この場で拘束、排除するべきとの意見です。 強くとも信用のおけない味方は害悪でしかないのです」
「それがどうして仕合をしろと?」
「私を倒して見せ付けてやればいいのですよ。 捕まえられるモノなら捕まえてみろ、とね」
「ずいぶんと高い壁ですね。 独りで逃げる方が楽なのですけど?」
「マスター、フェルミナ様と護衛五名を確認しました」
「ありがと」
騎士服のフェルミナはカッコいい。
純白にエメラルドグリーンのラインと挿し色で上品でタキシードみたい。
今日も綺麗に巻かれた薄紫の髪が美しくてキラキラしてる。
近くなったのでセラリスには膝立ちで手を下ろして貰う。
昇る前に言い合いがあったけどフェルミナと護衛一名で上がってくるみたい。
迎えた彼女は元気はないけど微笑みを浮かべてくれる。
「ユフィ様……」
「フェルミナ……来ちゃった」
良かった。また彼女の微笑みが見れた。
パァァァァァァン。
軽い音と共に頬に痛みが走る。
彼女の目には大粒の涙が溜まっていて、唇をギュッと噛み締めている。
「どうして来たのですか……。 何故挨拶も言伝もせずに去ったか考えたのですか?」
「ごめん。 じっとしてられなくて……」
「今回の戦いは負けます。 敗北すれば私は彼の国へ人質として嫁ぐ事になるでしょう。 ユフィ様は戦いに参加すれば戦争犯罪者として追われる身になります。 だから来てほしく無かった。 見られたく無かったのに……」
「なら一緒に逃げよっ。 今なら何処にだって……」
「ユフィ様はどれだけ人を見下してバカにすれば気が済むのですかっ。 いえ、平民であるユフィ様には関係のない事でしたね」
「…………」
言い返す言葉もない。
平民どころかこのセカイの人間ですら無かったボクはそんな意識は無いのかもしれない。
「申し訳ございませんでした。 ですが国と民を見捨てて逃げる道はございません」
涙が溜まっていても彼女の瞳は強い。
そういえば初めて会った時から真っ直ぐだった。
眩しいなぁ。
「じゃ、フェルミナはボクと逃げてはくれないんだね」
「はい、決して逃げる事はありません」
「わかった。 なら、これからはボクがフェルミナとジュノーを護るよ」
「ユフィ様……それは……。 わ、私……まだ心の準備が……」
その瞳を大きく開いた彼女はとてもかわいい。
接敵はもう少し先だからねまだ時間はある。
「大丈夫。 ゆっくり準備したら良いよ」
「はい……」




