ボクは自分が正義だなんて思ってない……
「リミットまで約30秒」
「ありがとうね。 ボクだけならいくらでも逃げられるから大丈夫だよ。 先ずは交渉してみようかな? 王族とかいる?」
「王族は全てジュノー型に機乗します。 近衛騎士長チェスター機を確認しました」
「セラ……セラ」
「うぅん……私は……。 ……お前っ、なぜセラリスを動かしてるっ」
「セラ……話をしたいの」
「セラリスっ、なんで動いてるのっ?」
「この方がセラよりも優れているからです」
「な、なにを言って……」
「セラリス黙ってて」
セラはジュノーの魔装機隊ジュノス十三番機セラリスの操者。
セラリスってのはセラが自分で付けた呼び名だって。
ユフィリスに変えていいですか?
ダメですか? そうですか。
少し年上かな? 紫の髪を後ろで一つに束ねてカッコいい美人さんだね。
「セラ……私に争う意志はないからこの場を執り成して貰いたいの」
「私を殺そうとしたくせにっ」
「ごめんなさい」
「謝るなっ。 命のやり取りする場所なのよ。 助けてんじゃないわよ」
「ごめん」
「だからあやまんなっ。 私は負けたんだよ」
「セラ……戦闘の意志が無い事を伝えて経緯を証明してくれるだけでいいの。 お願いできる?」
「わかった」
セラは降りると包囲している内のチェスター機と思われる機体へと歩いていく。
「セラリス。 ジュノサイザーには勝てる?」
「通常では不可能です。 ジュノサイザークラスは魔法は一切シールドされています。 私にダメージを与えた攻撃でも効果は薄いと思われます。 ですがマスターなら装甲に回している魔力を全て動力部に回せば一対一なら五分の勝負は可能です」
「セラリス達の体ってどうなってるの? 魔力で出来てる?」
「魔装機は私達でも理解出来ない事が多数あります。 本来の魔力の仕組みでは不可能ですが、魔力を使用して、形や、硬さなどの変更が自由なのは確かです」
「ならボクの魔力でもっと強くなれるんじゃない?」
「否。 元になる生物により限界値が決まっています。 それ以上の強化は出来ません」
少ししてセラがチェスター機から戻ってくる。
別に戻ってこなくてもいいのに。
「おかえりぃ。 なんて?」
「…………。 あなた素出すの早くない? もう少しお淑やかにできないの?」
「貴族じゃないんでねぇ」
「それでもよ。 ちょっと汚さないでよ」
床に座り込んでお菓子を頬張るボクを見て、頬についたカケラをとってくれる。
「はい」
「ありがと。 ん、美味しいわね」
「でしょ。 王都で人気のお菓子だからねぇ。 はい、お茶も。 で、どうだった?」
「攻撃が始まるって言ったらどうするのよ?」
「なら、セラが戻ってくる必要ないじゃん」
「貴方を取り押さえにきたのよ」
「独りで普通に上がってきて?」
「油断させてからね」
「ふぅーん(ズズズッ)」
「余裕ね」
「慣れちゃったからね……」
「そっか。 私は初めて……。 本気で剣を抜くのも、殺されかけるのも……」
「慣れない方がいいよ。 色んな事が変わっちゃうから」
「マスター。 チェスター様よりコールが入ってます」
「うん」「わかった」
「……」
「どっち?」
「現在のマスターはユフィ様です」
「…………」
「貴方がユフィ様ですね。 私は近衛騎士長のチェスターと申します。 フェルミナ殿下には只今取り次ぎを行っておりますが、いくつかお聴きしたい点がございます」
「お初にお目にかかりますチェスター様。 どうぞ」
チェスターさんは四十代かなぁ?
白髪の混じる黒い髪の落ち着いたオジサマ、にはまだ早いか? に見える。
話の内容は経緯と立場の確認。
シュリ達との話とほぼ一緒。
「ここに来るまでに幾人か兵士を殺害されてる様ですが?」
「私を辱めようとした兵士を処分いたしました。 私が平民であってもその様な行為を認める訳にはまいりません。 もし、兵士の家族に謝罪、保証が必要であれば私が対応致します」
「貴方なら簡単に拘束出来たはず。 殺す必要までは無かったのでは?」
「たまたま私だったから何も無かっただけでしょう? 力の無い誰かが犠牲になって知られる事もなく土に埋められる。 それが現実ですよねぇ。 そんな事許せる訳がない……」
「だとしても貴方が手を下す事ではない」
「……そうですね。 失礼しました。 で、どうしますか? 私を断罪しますか?」
「先ずは貴方の価値を周りに示さなければなりません。 話はそれからです」
「何をすれば?」
「私と仕合を。 どちらの正義が上か見せてもらいましょう」
「ボクは自分が正義だなんて思ってない……」
誰に言う訳でもなく空を見上げてつぶやく。




