ヒーローでもラスボスでもない、ただの女の子なんだから……
「ジュノーが戦争状態に入った」
「フェルミナの?」
「そっ、ユフィのお友達のフェルミナ・ランズジュノーの国だよ」
「何で? 勝てるよね?」
「その前に今回の話をしようか」
襲撃は他にもあって計四件。
騎士団員にも死傷者がでて捕獲できたのはボクだけ。
ボクが捕まえたアサシン達についてはなんの成果も無く、結界を切り裂いた武器も直ぐに霧散してしまったらしい。
彼らは何も知らなかった。
記憶のない戦闘人形だった。
主犯と見られる第三騎士団組長ガラテア以外は。
「そしてガラテアは一切を話さない。 一応聞くけど記憶の抽出は出来ないわよね?」
「出来ない」
実際には出来るけど、アレは無理。
記憶と感情が大量に流れ込んできてボクがおかしくなる。
記憶を写真の様に残せないかな? って試した事があるけど、自分の記憶から引き出した映像は明らかに違っていた。
美化されていたり上書きされた様にぐちゃぐちゃだったり。
記憶は自分で作ったイメージで、真実とは異なるんだと知った。
ミネルバが地図を机にひろげる。
この地図は魔力によりマーキングする事ができるけど、魔力を切ったら消えるので毎回さら地図になる。
隣国ジュノーはファーレン王国の南東側に位置する友好国の一つ。
ジュノーの東側には同じく友好国のコーラル。
そしてファーレンの東側からジュノー、コーラルの南側にかけて大帝国ジャローダが広がっている。
今回ジュノーに戦争を仕掛けたのはジュノーの南側の国でジャローダと挟まれた形のシャルマン。
ジュノーとシャルマンは昔から小競り合いが絶えないけど、ジュノーの方が国力が上だしジャローダとのクッションとして戦争まで発展する事は無かったらしい。
そのシャルマンが本気で攻めてきた。
「直接の理由はここ数年の不作によるものって事になってるんだけど、それに関してはうちやジュノーからも支援物資は出してる。 そして本気で攻めてこれるって事は後ろを心配する必要が無いって事なのよねー」
「後ろにジャローダがいるって事だよね」
「そう。 で、タイミングから考えて襲撃の目的はティファニアとアレクシアを人質にする事だったと思う。 ファーレンが動けない様にする為にね。 ユフィの情報を掴んでいたら可能性が無い事もないけど、確定じゃない王女候補を襲う理由は少ないから、たまたま城壁に敵になりえる人物がいたから始末しようとした。って処じゃないかな」
「勝てる?」
「きっと勝てない。 同時に仕掛けたって事は失敗しても勝てる算段が出来てるって事だからね」
ボクはフェルミナを失いたくない。
「行ってくるよ。 タキナをお願い」
「ダメ。 神器を持たないユフィが行っても役に立たない」
「それでもだよ。 フェルミナが危ないのに行かなかったら、ボクはボクを許せない」
「知ってるわよ。 ユフィ。 人が死ぬくらいなら自分が死ぬ方が良いとか綺麗事は言わないでね。 あんたはヒーローでもラスボスでもない、ただの女の子なんだから」
「わかってる」
「明日の朝アシェ達をジュノーに出すけど一緒に行く?」
「ううん。 もう出る」
「そっか。 正式な親書だけ持たせるから困ったら貰ってね」
「地図って余ってるのある?」
「何に使うの?」
「迷ったら困るじゃん」
「ん?」
「んん?」
「マップは?」
「ないけど?」
「ステータス画面はぁ?」
「あるの?」
「考えたら出てこない?」
「出ない」
「あはあはぁ。 プレイヤーじゃないもんねー」