間違いを繰り返して本当の愛を知るんだから
むむっ、タキナの匂いがする。
門の所にタキナの姿を見つけてダッシュで飛びつくと受け止めてくれた彼女が勢いでくるりと一回転する。
「タキナ。 おまたせぇ」
「おかえりなさい」
「へへへへ。 柔らかい」
「もう、何ですか?」
むーーー、ふるふるふるふる。
顔を埋めて胸いっぱいに彼女の匂いを吸い込むボクを優しく撫でてくれる。
「このまま寝る」
「お部屋で寝てくださいね」
「ん。 わかった」
軽い彼女の体ををひょいと抱きかかえて、全力ダッシュで壁を越えて直接部屋に入ってそっとベットに寝かせる。
思いっきり抱きしめて、彼女の感触を楽しんでから綺麗な薄紫色の瞳と目を合わす。
「何かありましたか?」
「ちょっと寂しかっただけ」
ツンツーン。
「ん?」
ちょいちょい。
「はいはい」
話しながらちょっかいを出すボクを何も言わずに受け止めてくれる。
「アイシャはぁ?」
「今日は修練も無しになったので、ミネルバ様とお茶してると思いますよ」
「クーン達はどう?」
「姉様達は帰って来てないですね。 詰所か収容所のどちらかだと思いますが……」
「そっか……。 タキナが無事で良かった……」
「感謝してます」
「ううん。 ごめん……。 ギリギリで……危なかった。 実はね、もうタキナと離れたいって。 忘れたいって、思っちゃってた。 タキナが取り返しのつかない事になってたらって考えたら怖くて耐えきれなかった。 ホントにごめん」
「ユフィ。 私はもう離れないって言いましたよ? 忘れましたか?」
「忘れてない」
「もう一度言いますよ。 私はもうユフィから離れません。 何があっても、ユフィが私を嫌になっても、例え死ぬ事になっても、私はユフィを離しませんからね」
重ねてくれる唇が優しくてあったかい。
溺れたままがいい、ずっとこのままで。
………………
外が騒がしい。
魔動船?
ベットから出てバルコニーから空を見上げる。
国船級かぁ、うるさい訳だ。
「うるさいですね。 ちょっと追い払ってきましょうか?」
「タキナがそんな冗談を」
「ふふふふ。 ユフィが伝染ったかもしれませんね」
「がるるるるるる。 そんな事ゆー奴は噛みついてやるんだからー」
「きゃー」
飛びついて耳に齧り付く。
「ん……こらぁ」
「ヒヒヒヒヒッ。 良いではないか良いではないかっ」
ボクとタキナの傍に小さなメイド服が舞い降りる。
「ユフィ様。 屋外での破廉恥な行為は謹んで下さい。 姉様もですよ」
「はい」「ごめんなさい」
「姉様は変わってしまいました。 清らかで一つの曇もない姉様はどこにいってしまったのですか? だらしなくて流されてるだけのヘタれなユフィ様と一緒にいたら、姉様までダメ人間になってしまいます……痛いっ痛いですっ」
タキナが摘むイヴのほっぺは柔らかくて実に気持ち良さそう。
「イヴ。 目上の人を悪く言うのはメイド失格ですよ。 ユフィ様は女の子にだらしなくて、悩んでばかりで自分で決断出来ない優柔不断のダメ人間ですが、それ以上に素敵で私が好きになる魅力のある方です。 イヴも一緒になってもいいのですよ」
「いえ、結構です」
フォローされているのか、けなされているだけなのか?
言ってる事が解かるけど、分かりたくない。
ボクはイヴに色目を使った事は無いのだけれど?
「イヴは帰って来てたんだ? ありがとうね」
「私はここの守りが主たる任務ですので元より同行しておりません」
イヴはビッテンフェルト家、最年少の12才。
年齢相応の小柄で華奢な体躯に肩ほどの栗色の髪にくりっとした大きな瞳。
講義担当の時はカトレアと同様の魔法少女スタイルでパウラ、カトレアと並ぶ人気を誇っている。
お手本の様な萌姿だけど、ビッテンフェルト家でメイドになった事自体がその強さの証。
得物は小太刀二刀流。
元々スピードと軽業のアサシンスタイルだったけど、タキナと二人で流水の動きも教え込んだ。
今ではタキナもイヴも回転剣舞まで習得してるけど、動きのバリエーションが多いイヴに分があるかもしれない。
「あの後は問題はなかった?」
「全員死ぬ寸前だった事くらいでしょうか? 完全に戦闘不能でしたからね。 口の中も止血いただかないと、窒息してしまいますよ」
「ごめん。 気がまわらなかったよ」
「おーい、アイシャさーん? 帰りますよー」
「帰らない」
ありゃ、どした?
アイシャがまたタキナから離れない。
ミネルバを見ても両手を広げてわからんポーズをとってる。
むぅ、タキナはボクのなのにぃー。
「もぅ。 じゃあ、タキナお願いできる?」
「はい。 承りました」
「アイシャまたね」
「ん」
アイシャが小さく舌を出しながらタキナと部屋を出ていく。
むむっ、なにですか? その態度はっ?
「何あの態度っ? 何かあった?」
「いつも通りだったよー。 ユフィが何かしたんじゃないのー?」
「何もないよぅ」
「ふーん。 優しくしてあげないとタキナにとられちゃうよー」
「タキナだけいてくれたらそれでいい」
「がんばりたまえ若者よっ」
「なんだよぅ」
「みんな間違いを繰り返して本当の愛を知るんだからさっ」
「わかんないから教えてっ」
「んー、一晩中語り明かしてみる?」
「……いい。 部屋戻るっ」
「ダメよっ。 まだ大人の話が終わってないから」
「なんだよ、大人の話って?」
「ジュノーが戦争状態に入った」




