ムカつく……
この話は残酷な表現、汚い表現があります。
学校終わりは時間が短くて、すぐに終わりが来る。
この辺りのお店は下町の市場と違って夕暮れには閉めてしまう。
帰る前に城壁の物見の塔へ。
物見の塔のいくつかは一般人にも立ち入りが許可されていて町が一望できる。
町の造りのお陰で城側も下町側も見えて赤く染まってとてもキレイ。
少し暑く感じる様になってきてるけど夕方の風は爽やかで気持ちがいい。
風に靡く彼女の銀色の髪が頬に触れてくすぐったくてなんか嬉しい。
「タキナ……」
「はい……」
彼女の手をとって真っ直ぐ見つめる。
夕日を受けて輝く姿はとても美しくて、ボクを見つめる澄んだ薄紫の瞳にしばし見惚れてしまう。
「これからもずっと、ずっと……。 ずっと、ボクの傍にいて欲しいです」
「はい。 ずっとお供します。 離れないから覚悟してくださいね」
アイテムボックスから小箱を取り出して開く。
小箱の中には指輪が二つ。中心には救済の瞳が付けられている。
一つを彼女の左手の細い薬指に付ける。
もう一つは彼女がボクに付けてくれる。
この国にそんな習慣はないけど贈りたかった。
彼女の瞳に涙が溜まって、ボクの瞳にも涙が溜まる。
「エヘヘ……。 やっと…………。 !?」
不意にタキナの後ろに黒い影が現れて刃が光る。
瞬時に彼女の後ろに展開した魔法障壁があっさりと裂かれていく。
ボクの障壁を?
裂かれるそばから展開するけど意味がない。
あの刃?
取り出した黒龍丸で受けたけど、丁寧に真空の刃まで重ねてある。
いや、それだけじゃない。
同時に撒かれる煙幕に麻痺毒と魔力妨害?
一撃にいくつもの技が合わせてある。
瞬時に演算と再構築を何度も行う。
体が遅い……? 違う。脳の早さと体の感覚がズレてる。
ダメ、遅い……。もっと、もっと早く。
魔力妨害のせいで再構築に手間取る。
でも、いける。
!?
ソニックブレードがもう一つ?
くぅぅぅぅぅぅぅ。
やだやだやだやだやだやだ。
もっと、もっと、もっと、もっと。
もう少し、あと少し。
ほんの少しだけ…………。
やった、凌いだ。
ギュオォォォォォォォォォン。
障壁と真空の刃がぶつかり合って爆ぜる。
キィィィィィィィン。
受けた刃は黒竜丸に耐えきれずに割れて鋒が障壁を切り裂いてタキナに……。
彼女の長い髪が切れて……首が落ちる。
記憶が重なる。
ソフィア……。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
タキナ……タキナ……タキナ……。
ソフィア……ソフィア……ソフィア……。
涙が溢れた。
溢れ落ちる涙はドス黒い血の色をしていて、ボクの心を染め上げる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」「ユフィ! ユフィ! しっかりして! 私は大丈夫です!」
タキナ……?
よかった。
…………。
でも彼女の綺麗な髪はバッサリと切れ落ちていた。
「ふふふふふ。 くっくっくっくっ。 あははははは……」
さっきとは別の影が四つ、気配なく現れてボクとタキナに迫る。
あぁ?
ボキ……ボキボキ……ボキボキボキボキ……。
空間から這い出した大きな骨状の手が愉快な音と共に影をゆっくりと握りつぶす。
殺しはしない。
もったいない。
じっくり後悔して貰わないと。
ドガァァァァァ。
爆発と共に煙幕と毒に魔力妨害が拡がる。
自爆。
どこ? 歯の中か。
「タキナ。 ミネルバに報告。 相手は20ほど」
「でも……」
「いけ」
「ユフィ……。 はい……」
飛び出す彼女に向かう影を同様になぶるように握りつぶし口から歯をこそぎ出す。
手持ちを黒龍丸からザラメに換える。
ザラメは誰が何を考えて作ったのかノコギリ状の刃を持つ刀だ。
普通であれば抵抗が大きいから切れる訳がない。
普通であれば。
「タキナに手を出さなければ、楽に逝ける道もあったかもしれないのにねぇ。 お前達……、簡単に殺して貰えると思うなよ」
影が一気に散る。
逃走?
でも同様に手に拘束される。
つまんない。
後、五つ。
うち一人は最初の襲撃者。
「お前、組長だよね? 第三の?」
「…………」
「まっ、いいけど」
一斉に来るらしい。
四人が前で一人が後ろ。
後ろが増える。
一人が四つになって計八つ。
早いけど前の四人は力も殺気も足りない。
四人の四肢を一瞬で引きちぎり、歯をこそぎ取る。
血飛沫が舞いボクにもふりかかる。
汚い。
つまらない。
最後は分身からの小細工とソニックブレードの連撃に魔法攻撃の合わせか。
何連? 数が増えただけで芸がない。
つまらない。つまらない。つまらない。
ヤル気が無くなった。
影は骨の手に拘束され、同様になぶられる。
この程度で?
たかだかこの程度で?
こんなものにボクとタキナの大切な時間が邪魔された……と?
最低。
もう最悪だよ。
目を細め見上げた空にはやっぱり月が笑ってやがる。
ムカつく。




