うん、呪い殺そう
「兄さまぁー。 兄さまぁー。 兄さまがー、いればー。 雨の日だってー、やな事あったってー、たのしー」
お昼になって、日課になった図書室へ。
扉を半ばまで開いて、手が止まる。
兄様の前に女子生徒の姿が……。
兄様は基本的には会話をしない。
女子生徒どころか男子生徒だって……。
話ができるのは姉様とアレクシアとボク(シーズも)だけだと思ってた。
目は本から離さない。
それはボクといる時だって同じ。
顔は人形の様に無表情。
あれはキツイね。 そりゃミネルバも為すすべ無しだわ。
女子生徒の後ろ姿には見覚えがない。
初等と高等はだいたいわかるから中等部か妖精族。
大人っぽいスタイルだから妖精族かな……?
艶のある綺麗な銀色の髪を横で少し編み込んでアップにして巻いて、後ろ姿でも美少女の雰囲気が漂っている。
うっうっうっ。
ちょっとスカート短くないか?
スカートの裾から覗くフリルにあざとさを感じてしまう。
兄様にアピールするんじゃないっ。
何を話してるんだろ?
うーーーー。
気になる。
まだかなぁ……? まだかなぁ……?
扉がミシミシ悲鳴をあげてる気がするけど、きっと気の所為だ。
ブツブツブツブツブツブツブツブツ……。
ブツブツブツブツブツブツブツブツ……。
長い。 一日の時間には限りがあるんだぞっ!
うん、呪い殺そう!
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……。
トントン。
ボクの肩が叩かれる。
うるさい。今それどころじゃない。
トントントン。
しつこいぞっ。忙しいのが見てわからないのか?
トントントントン。
あぁ?
振り向いたボクの頬に人差し指が突き挿さる。
!!
このセカイにもあったのかっ?
「ユフィ……扉が割れてる」
(あっ……)
「ごめんなさい」
「なぁに、カリカリしてんのさっ?」
片手に二人分の昼食を持ったシーズがボクの口にパンを突っ込む。
食べれるかぁー!
突っ込まれたパンをシーズの顔に目がけて飛ばす。
ラスボスチートをなめるな。
飛んできたパンを彼は上手に口でキャッチする。
おおっ。
「甘いなっ。 ユフィの口づけもーらいっ」
「やだ、返せっ」
「返さなーい(パクっ)」
「ふぎゃーーーーー!」
「お前等うるさいぞっ」
「あっ、兄様。 ごきげんよう……」
「なんで扉が壊れてる?」
「ごめんなさい」
「フフフッ。 学院生活は楽しそうですね」
「タ、タキナぁ~?」
ヤバい、きゃわいいーーー!!
鼻血出そう。
アイドルかっ? アイドルなのかっ!?
それ、ボクの制服だよね?
ブラウスの胸のボタンが弾けそうなんだけど?
うっうっうっ。
「側付がバカなら、主人もバカだな」
「タキナはバカじゃないですぅ」「ユフィ様はバカじゃありません」
「別にいい。 昼はどうする?」
「兄様、今日はご遠慮致します」
「えー、ユフィちゃんとタキナちゃんと食べたいー」
「今日はごめん。 またにしよう。 兄様失礼します」
「ああ」
「食堂いこ。 食堂」
エヘヘ。
嬉しいぃー。
かわいい、かわいい、かわいい、もひとつかわいい
タッキナとぉー、廊下を手を繋いで歩くぅー。
美少女の登場にみんなの視線が刺さるぅ。
うむ、今日は許す。
いつもボクを避ける男子達でさえ避けるのを忘れるほど。
仕方ない、今日は許すっ。
大人っぽい生徒じゃなくて、大人の女性だからねぇ。
釘付けになるのも仕方ない。
でも、下心を持ったら殺す。
「タキナぁ、なんでいるのー? 言ってよぉ」
「ミネルバ様が気になるなら制服で行ってこいと」
「かわいいよぉー。 似合い過ぎだよぉー。 へへへ」
「そ、そうですか?」
キャー、かわいすぎるぅ。
もう、ほっぺスリスリしちゃうんだからっ。
食堂でだってみんなの視線を独り占め。
ホホホホホホホッ。
「あれぇ、タキナ?」
「姉様ごきげんよう」
「ティファニア様、ご機嫌麗しゅうございます」
「制服で来たんだね。 よく似合ってるよ」
「ここ座って」
「姉様、今日は二人で食べたいのでご遠慮致します」
「そっか、お茶は来る?」
「いえ、二人で過ごしたいのでご遠慮致します」
「ズルいなぁ」
「ズルくありません。 タキナはボクのです」
「タキナがズルい。 僕のユフィを取るなんて」
「申し訳ございません」
「ボクは姉様の物じゃないんですぅ。 タキナのなんですぅ」
「はいはい。 学院内ではほどほどにね」
「クロエ様、来てしまいました……」
「タキナさん? 学院まで来るなんて過保護が過ぎますわ」
「いいのぅ。 かわいいからぁ。 もう、きゅーってしちゃうんだっかっらぁー」
「ユフィ様……、その緩んだお顔をどうにかしてくださいませ」
「えー、無理だよぉー」
「お姉様……、その方は?」
「ボクのパートナーのタキナだよ。 よろしくね」
「パートナーですか……? タキナさんよろしくお願いしますね」
「アレクシア様、お初にお目にかかります。 どうぞお見知りおきいただけたら幸いでございます」
「ちょっと、ユフィさん……。 まったく、学院に側付きを連れてくるなんて……。 あっ、こら、お持ちなさい」
フフフ、タキナの手を取って逃げろー。
エレノアの演説を聞いてる時間はないっ。
「あたしも」
「アイシャ。 今日は遠慮してくれる?」
「むぅ」
「ねっ」
「仕方ない」
「何食べるぅ? 自由に選べるんだよぉ」
「さすが学院。 メニューもなかなかすごいですね」
少し空いてきた食堂で窓際の景色の良い席を陣取って並んで座る。
おひさまに照らされるタキナはキラキラして素敵。
「ねぇ、ここいい?」
「いい訳あるかいっ」
「すいませんでした」
声をかけてくる男子に目を吊り上げてお肉にフォークを突き立てて返事を返す。
男子生徒よ、勇気は評価するが今日は邪魔するなっ。
「ユフィ様は人気ですね」
いや、タキナだよ。
ボクに男子達は寄り付いてこない。
いいけどさっ。




