はじめまして、美しいレディ
「朝ですよ。 起きてください」
「ん……。 タキナおはよ」
「はいはい。 起きたらさっさっと準備してくださいね」
「ほら、アイシャも起きなさい」
あれ? タキナが優しくない。
彼女の頬の膨らみが見えそうなほど。
うん、膨らんでる。
「タキナ怒ってる?」
「怒ってません」
「…………」
フリルはもう起きていて朝の支度を始めている。
助けを求めようとしたら目をそらされた。
うっうっ。
なんで?
アイシャとフリルの間で寝ちゃったから?
フリルに引っ付いてたから?
「戻ってくるまでに寝ちゃっててごめん」
「別に怒ってません。 鈍感なユフィ様は咲いた花は愛でても、その蕾にまでは目がいかない様なので」
「花? 庭園の? ボク踏んじゃってた?」
「もう、知りません」
朝食をいただいたらフリルをギルドまで送っていく。
爽やかな朝のはずなのに空気が重い。
フリルもタキナの機嫌を気にして口数が少ない。
「フリルいってらっしゃい」
「いってきます。 またね……」
その次はアイシャだけど貴族区に入るのは、また手間なので一般区側の学園の門まで送る。
「いってらっしゃい」
「一緒いこ」
「ユフィ様も今日は一緒に学園に行かれたらいかがですか?」
「…………。 とりあえず帰ろうかな?」
渋ったアイシャだけど、ボクとタキナから頬に口づけを貰って上機嫌で歩いていく。
無言が続く。
タキナが隣に来てくれない。
ボクが前、タキナが一歩後ろ。
並ぼうとしても彼女が間隔を保つ。
………………
「ただいまミネルバぁ」
「あらぁー、朝帰りだなんて……。 ……どしたの?」
「わかんない」
「別に何もございません。 いつも通りでございます。 ミネルバ様申し訳ございません。 昨日、夜間にアイシャ様を門から出しました。 書面を作成しますので、後ほど確認をお願い致します」
「うん……、わかった。 ユフィ、今日どうするの? ちょっと時間おいた方がいいかもよ?」
「そだね……」
どうせ遅刻なので修練場から直接学校へ。
講義室に向かう気になれず図書室へ向かう。
図書室では数名の生徒が自由に本をひろげてる。
普通の学園なら授業中には生徒なんていないんだろうけど、この学園は実力さえあれば卒業できるから、自分でより多くの知識を身につける方がいい。
とは言え、居るのは高等部より上の妖精族の人達ばかりだ。
妖精族とは学園を卒業せずに居座っている貴族生徒達の事。
そして、図書室には会いたかったけど避けていた重要人物がいる。
ボクが入るなりカウンターにいたその人物が本を閉じて近づいてくる。
「はじめまして、美しいレディ。 私はここで司書の様な事をしているミリアルドと言う。 君か……初等部の噂の生徒は?」
男性の名はミリアルド・マーティス。
すらっと足が長くて高身長。整った顔立ちだけど目元は白いマスクで隠していて、その瞳を見ることは出来ない。
そして髪は腰ほどまである長いゴージャスな金色の髪。
彼の本当の名前は、ラインハルト・ティア・ファーレンハイト・フィーネ。
この国の第一王子でボクのお兄様。
ゲームにも当然登場して、攻略対象であり、メインの五人の恋敵で中ボス扱い。
中ボスと言っても戦うわけじゃない。
彼はティファ姉様とは違う意味でアレクシアを本気で愛してる。
かっこいいのは当然だし、優しくて甘やかしてくれるから、ついその選択肢をえらんでしまって、半分以上の確率でラインハルトエンドになってしまう。
マスクの下の瞳は碧と金のオッドアイで、金色の瞳は女神の力の影響を現す。
ゲーム中では女神と話すシーンもあって、女神が敵になる予定の今の状況では危険かもしれない人物なのだ。
でも、アレクシアがフィーネの巫女に選ばれた後は、ラインハルトはどうするんだろ?




