怒ってる?
フェルミナ・ランズジュノー。
隣国ジュノーの第四王女。
綺麗な薄紫色の長い髪をロールにして、その顔立ちとスタイルでドールモデルかと思うような美しい見た目をしてる。
今は友好の為の留学中で、確かに何かあれば大問題だった。
「アイシャ様。 この度は、不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。 このフェルミナ・ランズジュノー心よりの謝意を表し、二度とこの様な事は行わないと約束致します」
「ん、別に良い」
「いいの?」
「いい。 ユフィありがと」
彼女の抱擁をしばらく受け止めて頭を撫でる。
「久しぶり。いい匂い」
「ばか」
「ユ、ユフィ様……。私も……」
「…………」
フェルミナも求めてくる。……なんで? そんな場面だっけ?
「ダメ。ユフィはあたしとタキナの物」
「アイシャの物でもないっ」
「ぶぅ」
とりあえずフェルミナと三人娘にもハグして頭を撫でてあげる。
今は昼食休憩の時間。
フェルミナと三人娘を連れて、ロッカーを片付けに来た。
「お昼行こっか?」
「ん」
「ユフィ様、アイシャ様、私もご一緒よろしいでしょうか?」
「いい?」
「ん」
「三人も一緒にくる?」
「はい、失礼いたします」
「そんな畏まらなくていいよ。 ね、フェルミナ?」
「ええ。 今までごめんなさいね。 許して頂けるなら、これからは普通に御学友として接していただきたいですわ。 ぜひフェルミナと呼んでちょうだい」
「はい」
「お姉様っ」
飛びついてくるアレクシアを抱いて受け止める。
「なんのお役にも立てずに申し訳ありません」
「ありがと。 アレクシアは良くがんばってたよ。 それに今回の原因はあそこの人だしねぇ」
「ん? あ……お姉様」
講義室のドアから不審者がこちらを眺めてる。
まっ、高等生には姉様とフェルミナにとりなして貰ったけどね。
「姉様もご一緒しませんか?」
「いくー」
食堂の一角が凄く豪華なメンバーになっちゃって、また違う嫉妬の種が生まれそうな気はするけど賑やかな食事もいいよねっ。
そして次の姉様とのお茶会にはフェルミナと三人娘も参加する事になった。
さすがにもう膝の上には座らんぞっ。
午後の講義の予鈴に渋る姉様をフェルミナと三人にまかせる。
フェルミナに何をしたかって?
なぁーいしょっ。
「じゃあ、今日は帰るね」
「お姉様……。 また学院には来てくれますよね?」
「大丈夫。 ちゃんとまた来るよ」
「はい。 待ってます」
まぶしいなぁ。
周りの景色が代わったかと錯覚する様な綺麗な笑顔。
帰ろうとするボクの袖が掴まれる。
?
「やだ」
「アイシャ……?」
「やだ」
「…………」
「いて」
「…………、わかった。 今日はいるよ」
「ん」
困った。
アイシャがボクの腕に齧りついて離れない。
講義中も、着替え中も、トイレまで。
「タキナをほったらかしにして、別の女とイチャイチャとは良いご身分だなぁ」
むぅ、反論出来ない。
「ふんっ。 お前等は講義終了まで、二人三脚で走れっ。 身体強化と回復魔法は認めん。 わかったか?」
「はい……、パウラ教官……」
「ん。 教官」
………………
「お前等の、今日のご褒美はお互いでやってもらおうかっ」
「いや、おかしいだろっ」
「そうか? アイシャは待ってるぞ」
隣には少女の顔でボクを見つめるアイシャがいる。
「ば、ばかっ……」
余計に恥ずかしいわっ。
「だめ?」
「ダメ」
「お願い」
「ダメ……」
「さみしい……」
「…………」
もぅ。
顔を寄せて小さく唇を合わせて抱きしめる。
「ヘヘ」
「ばか」
「全然、もの足りんなぁ」
「うるさいっ。 バカパウラっ!」
………………
帰り道も、本部に着いてもアイシャは離れない。
「おかえりなさいませ、ユフィ様、アイシャ様」
「タキナ、ただいまぁ……」
(タキナがツンとして、ボクの手を避ける)
「ただいま」
「お茶にしますか? もう修練場に向かいますか?」
「タキナ……、怒ってる?」
「いつも通りですよ」
「ほんとに?」
「ええ、気にしておりません。 私のマスターはどうやら、たらしの様ですので」
「…………」
さすがに居心地悪くなったアイシャがゆっくり離れる。
どうしよう。
「ふふふ。 すいませんユフィ様。 私、意地悪をしてしまいました」
「怒ってないの?」
「はい。 ユフィ様はきっとこれからもたくさんの女の子を連れて来ると思います。 私のマスターはとても素敵な方ですから。 私はそんなところも全て受け止めます。 ユフィ様のお側に……。 ずっとユフィの隣りに私はいます」
「タキナ……」
また目に涙が溜まる。
この先、ボクは何回彼女の言葉に涙するのだろう。
こんなボクを彼女は優しく包んでくれる。
温かい。
「ユフィはほんとうに泣き虫ですね」
「…………」
抱く手に力が入って、ただただ自然に彼女を求めてしまう。




