彼女の温もりと優しさで……
「ユフィ様、行ってらっしゃいませ」
「行って来ます」
「こら、いけません……」
タキナを抱き寄せて唇を合わせる。
いつも少し照れる彼女がかわいい。
「あたしも」
「したげない」
「だーかーらー、お前等、朝からホールでイチャイチャすんなよー」
「だれ?」
「ミネルバ」
「そっか」
「あっ! ほいっ、ミネルバ」
タコになってるアイシャをミネルバに放り投げると、彼女は熱い抱擁と口づけを受ける。
うんうん、お互い楽しそうなので良しとしよう。
アイシャってけっこう寂しがり屋さんなんだよねぇ。
朝のミネルバはラフな服装で赤いウェーブの髪はふわふわしてるし、メイクがない顔はあどけなさもあって可愛いい。
文字通りの裸婦で降りてくる事も少なくない。
夜のミネルバ?
ボクハシラナイヨ。
「ミネルバ、今日はいる? 話あるんだ」
「うーん、ん。 大丈夫ー。」
………………
ミネルバとの話は、問題点と今後について。
ボクが最強じゃないかもしれない事、アレクシア達の卒業までの目標を引き上げたい事。
そして、タキナに全てを話したい事。
タキナの事はミネルバにも関係するから相談したけど、あっさり許可がでた。
言葉を選ぶところもあるけど、タキナなら問題ないって。
ボクと学園の事はクーンも混じえて相談して、毎日手隙の人を二人、一時間づつ付けてくれる事と、手合いにアイシャも参加して良い事、学園には毎日、三人娘の一人プラス一名で派遣する事になった。
それ以上は人手が足りなくなるから出来ない。
「そんなに強いのに、まだやるかねー? あたしなんてユフィに比べたら、武力0だよー。 ホッホッホッ」
「大切な人を無くしたくないんだよ」
「そうだね……」
「ミネルバ、ありがと」
「おっ」
「あっ、夜はダンジョン行くからねっ」
「…………」
………………
「ちょっと、ダンジョン行ってくるね」
「今からですか? それはいけません」
「ごめん、タキナ。 行かなきゃいけないんだ」
「どうしてもですか?」
「うん、どうしても」
「わかりました……。 お気を付けて」
心配してくれるタキナに口づけをして窓から外に出る。
全力で夜の町と平原を駆け抜ける。
一時間以内で行けるダンジョンは四つ。
目的のダンジョンまでは約三十分。
深部まで駆け抜けたら二時間で終わるかな?
今回の目的はレベル上げとかじゃなくて、レアドロップ目的。
どのボスからでもドロップするから、最短周回できるダンジョンに向かう。
ボスを倒した後に、入口からやりなおしたらリポップするのは確認済なのだ。
ボス周回してもモンスターを狩り尽くしても、レベルアップなんて感覚になった事ないから、きっと経験値制のレベルアップじゃないんだとは思う。
「お帰りなさいませ、ユフィ様」
「ただいまぁ。 もう起きてたの?」
まだ夜明け前なのにいつものメイド服で出迎えてくれる。
抱きしめた彼女の匂いと、温もりが心地いい。
「タキナは温かいね。 タキナ好きぃ」
………………
「今日も天気でボクも元気で気持ちいい」
「睡眠も取らずに、大丈夫ですか?」
「うん大丈夫! タキナは今日もかわいいねっ」
(タキナに口づけをする)
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ……」
今日の学園当番はパウラとクーン。
最初が最凶ペアって大丈夫ですかっ?
「今日は様子見だ、様子見。 あたしが言った事を毎日やってたら、さぞかし良い顔になってるはずだよなぁ」
うっうっ、笑顔が最凶だよぅ。
………………
姉様のお茶会の日は本部での手合わせは無し。
ボクの席は相変わらず姉様の膝の上。
姉様の為に軽食目当てのアイシャの為に、予定はちゃんと空けておく。
アイシャもすっかり姉様に気に入られて、帰り際に頬に口づけしてもらってる。
姉様っ、ボクの唇を奪おうとするのは止めて下さいっ!
夕飯の後はタキナとまったりぃ。
隣に彼女がいてくれる。
ボクはこの手を離さない。
彼女の温もりと優しさで明日も頑張れるっ。
「今日も行かれるのですか? もう少し休まれては?」
「まだまだ大丈夫! タキナが傍にいてくれたら頑張れるからっ! 行ってくるよっ」
「……。 行ってらっしゃいませ……」
毎日ぎゅーってしてくれる彼女が愛おしい。
………………
学園の講義は順調に成果が出てる。
当番の一人は結局ほとんどパウラが努めてる。
みんなぐんぐん成長してて、上の学年の実技講義に取り入れようって動きもあるくらい。
パウラのせいでご褒美が当たり前みたいになってるんだけど、どうすんだ?
まぁ、みんな嫌そうじゃないからいいけど、ご褒美あげないボクがただの厳しいだけの人になっちゃうじゃん。
本部での手合わせだって良い感じ。
アイシャがボコボコになるのは痛々しいけど、全然やる気は落ちないし気絶するほどの打撃を受けなくなってきた。
ボクの作業は、各技能の深化かな。
武器を揃えて打ち合ってそれぞれの理解を深めていく。
理解が進んだら、他の動きと組み合わせて最適化していってしっかり使える様にする。
初見に出会わない様に足元をすくわれない様に。
うっはぁー、やったねっ!
ダンジョンで遂に目的の物ゲットぉぉぉぉ。
毎日周回したかいがあったよぉ。
欲しかったのは『救済の瞳』って言う宝石。
倒れてしまった時に一回だけHP1で復活できるアイテム。
このセカイでの効果は分からないけど、お守りにしたかった。
一個は持ってるから、タキナとお揃いのアクセにしよっと。
エヘヘっ。
「お帰りなさいませ、ユフィ様」
「ただいま……?」
ボクの部屋に居たのはタキナじゃなくてカレンだった。
「カレン? どしたの? タキナは?」
「タキナは少しお暇を頂くとの事です。 しばらくの間ユフィ様の側付きは私が努めさせて頂きます」
「そんな……、急に? 何かあった?」
「私は聞き及んでおりません。 ミネルバ様にお尋ね下さい」
コンコンコン。
「ミネルバっ、ごめん起きてるっ?」
「いいよ……、入っても」
彼女は裸のままでベッドから体を起こしてボクを見てる。
寝転んだままのパウラ達もその視線は厳しい。
「ミネルバ……。 タキナ……」
「あんた、何やってんのよっ……?」
「何って……」
「はぁ、タキナをユフィに預けたのは失敗だったね……。 もう返して貰うよ」
「えっ……、だって……」
「タキナを大切にしてた?」
「してるよ。 タキナの為に頑張ってる」
「タキナのせいにしないで。 自分の為でしょ。 自慰行為なら他所でやって……。」
「違うよ……、そんな……。 話させてよっ。 ねぇ……、お願い……」
「ダメ。 もう帰れ」
「ミネルバ、お願い……。 お願いします……。 タキナに……、タキナに会わせて。 話をさせて……。 ねぇ」
「ピーピーうっさいわね。 ガキかっ? ほら、出てけっ」




