アイシャとタキナ
うーーーん。
「なにかお悩みですか?」
「アイシャがねぇ、あんまり成長してないんだよねぇー」
「アイシャ様は最初からお強かったですからね」
「センスもいいしギフトもあるから、まだまだ強くなれると思うんだよねぇ」
「では、姉様達にお願いしてみるのはどうですか? クーン姉様はパウラ姉様よりも強いと思いますよ」
ビッテンフェルト家のメイドさん達はみんなミネルバを守る為に戦闘技能を叩き込まれている。タキナは下の方なんだって。
………………
「アイシャ、なんか予定ある?」
「ないよ」
「今日、家こない?」
「…………」
何を思ったか、いきなり抱きついてくる。
「ち、違うしっ。 離れろっ」
「ユフィ、好き……」
…………!
しまった、不意打ちで唇を奪われた。
むぅ。
「別にいい。気にしなくて」
「やっぱり、来なくていい……」
「やだ」
なるよ。
気にしないとか無理だし。
学園からの石畳を並んで歩く。
彼女はいつもにも増して近い。
「なんかあった?」
「別にない」
「近いよ」
「あったかいでしょ」
………………
「お帰りなさいませ、ユフィ様。 アイシャ様、ようこそいらっしゃいました。 ミネルバ様がお待ちです…………」
「紹介してって言ってたからさぁ、まずは話してみよっか」
「ありがと」
「こちらは、アイシャ様だけどうぞ」
「わかった」
………………
「アイシャ様、機嫌が良さそうでしたね」
「そ、そう? 初めてボクから誘ったからかなぁ?」
「そうですか。 ユフィ様は、アイシャ様がお嫌いですか?」
「いい子だとは思うけどねぇ」
………………
カチャ
「おわった?」
「おわた」
「じゃ、タキナお願い」
「はい。 では、修練場の方へどうぞ」
「アイシャ様。 本日は手隙の中から特に使い手の少ない武器の使い手を選ばせていただきました。 私が最弱と思いますので、私からお手合わせお願いいたします」
メイド長のクーンにアイシャの手合わせをお願いしたら、数人を選んでくれて一番手はタキナだ。
タキナの得物は細身の両手持ち兼用片手剣。アイシャもそれに合わせる。
戦いに向かうアイシャは楽しげに笑う。
その姿はとても楽しそうで妖しくて魅力的で。
彼女にとって存在の証明なのかもしれない。
アイシャは両手持ちで剣を引いて体勢を低くして足に力を溜めて出る気満々の構えだ。
タキナは剣を片手に持って、半身で正眼に構える。
アイシャが一気に飛び出す。面積の少ない半身の相手に素早い一撃からの突きをメインにした連撃につなげて行くけど、タキナには当たらない。
避けられ続けるほど彼女は楽しそうだ。
タキナの動きはとても美しい。
まるで静かに踊ってるみたい。
ボクのイメージする流水の動きによく似ていて、素早い細かいステップを重ねる事で次の動作へのタイムラグを小さくして打つのも避けるのも出足が早い。
弱い? 敢えて言うなら上品過ぎるくらいかな。
歩幅が小さく溜めないうえに力が足りなくて手だけの浅い斬撃になるから、避け続けて小さくダメージを重ねていく持久戦のスタイルになる。
これに対してアイシャは相手に寄せていく作戦をとった。
ラーニングによってタキナの動きをコピーして、同様の動きで体力勝負に持っていく。
勝てる計算の結果なんだろうね、細かな打ち合いの末スタミナ切れでタキナの負けとなる。
「お疲れ様、いい手合わせだったね。 次は後日にする?」
「やる。 こんなに楽しいのに止められない。」
アイシャは目を見開いて興奮してるのが見て取れる。
細かいキズだけ回復して、休憩後に手合わせ再開となる。




