ラスボスと姉君と友人と
「ティファニア様、何を……?」
「いいから。ここに」
「…………、失礼します」
促されるまま細い腿の上に座ると、姉様はまたボクを抱きしめる。
「お願いこのままで……」
「はい……」
抱き返して頭を撫でる。
「ほんとうに会いたかった……。 ごめんね、辛かったね」
「ティファニア様、何か勘違いされています」
「僕が大切な妹を、見間違えるはずが無いじゃないか?」
「初めてお会いしたばかりのはずですが?」
「僕は、アレクシアが生まれてから、ずっと傍で見てきた。 父上や母上よりもアレクシアの事を愛してる。 君の目、顔、体、匂い、すべてアレクシアと同じだよ。 いくら否定しても、君は僕の妹で間違い無い」
えっ? 言ってる事がよくわからない。
「仰っている事がよくわからないのですが?」
「君が否定しても、僕は君を妹として扱うって事さ。 それにね、母上は君のことを随分前から知っているよ。 五年前から母上はずっとアレクシアと同じ位の少女の情報を集めてたからね」
「アンネローゼ様は、何かお話を?」
「いや。 母上はなにも……。 ただ、赤子のアレクシアを抱いて、「ごめんね、ユフィーリア」と。 母上は泣いていたよ」
「その話は、アレクシア様は?」
「知ってるのは、僕だけ。 ただ、母上が動き出してるから、近いうちに知れるだろうね」
「そうですか……。 ティファニア様、そろそろ下ろして頂いても?」
「嫌だ」
「は?」
「嫌だ」
「えーっと?」
「嫌だ。 やっと会えた妹なんだ、もっと触れ合いたい。 もっと温もりを感じさせて」
姉様に話は通じなかった。
もう帰りたい。
僕はいつの頃からか、アレクシアが大切なあまり何もさせ無い様になっていた。
走る事も、飛んだり跳ねたりする事も、ナイフとフォークを使う事さえも……。
アレクシアが怪我や失敗をする度に心配で心配で何もさせたくなかった。
それが両親に知れて、引き離されて学園に住む事になった。
この間も久々の対面で狂いそうなほどの衝動を必死に耐え続けていたのに、そこにはもう一人の妹までいた。
抑えられる訳がない。
僕のかわいい妹達。
自分の事を話す様子に狂気はなく辛そうだった。
アレクシアやボクへの深い愛が感じられる。
これはもう病と言ってもいいのだろうか?
「今日は帰さないよ」
「それはもういいです!」
「?」
話が済んでも膝の上から下ろして貰えず、力技で抜け出す。
「ごめん、ユフィ。 行かないで欲しい」
「ボクにはパートナーもいますから、姉様の気持ちには応えらません」
「幸せかい?」
「はい、とても」
「うん。 ユフィが幸せならそれでいい……」
「ありがとうございます。 失礼いたします」
姉様は泣いていた。
病なら治した方がいいのかな?
ボクは心を操作する魔法は使わない。
使った事はないけど、ゲーム中ユフィーリアは使っていたから出来ると思う。
でも、心を操作されるって死ぬ事より辛いんじゃないかなって。
廊下の先の階段にはアイシャが座って待っている。
「ちょっと、何してるのよ?」
「待ってた。 元気ないね。 抱きしめてあげようか?」
「いらない」
「そっか」
そう言って、傍に来て頭を撫でてくる。
「頭……、撫でんな」
「遠慮すんなっ」
「してない」
「そっか」




