この世間知らずどもー
広場を抜けた路地にある、馴染みで信頼している店の一つに入る。マスターが強面の酒場的な場所だけど、甘い飲み物や甘味もあるお店だ。多めのお金をカウンターに置き、食べ物を注文して奥の個室へ。
フードを被っているので騒ぎにはならないが、後ろはずっと剣気を放ったまま。ちなみに、フードを被った七人組はこの世界でもさすがに怪しい。ローブを着るのは普通だけど顔を隠していると騎士団に目を付けられるからね。
部屋に入って椅子を勧めると、アレクシアから順に座っていく。でもルッツとアクセルは立ったままみたいだね。見えてないけど手は剣にかけているんだろうね。
注文品が届くのを待ってから、ドアを閉め、鍵をかける。 注文したのは、コーヒーとフルーツの絞り汁(私とアレクシアとキャメラル用)とクッキーだ。
クッキー的なものは元からあったんだけど、甘くなくてモサモサした感じだったのでお願いして作ってもらった。
お貴族様のもの以上に材料費がかかるから、一般的な商売には向かないらしい。
香りに釣られたアレクシアが食べてエリナリーゼ様に怒られたけど、アレクシアの後押しで全員が口にした後にその味に驚いていた。
ドヤッ。
フルーツの絞り汁もなかなかの高級品。貴族様なら普通に口にできるけど、実を捨てるなんてもったいなくてあり得ないからね。
「さて、堅苦しいのは苦手なので、失礼があれば申し訳ありません。」
軽く挨拶して冒険者のユフィとだけ名乗ると、アレクシアが全員の自己紹介をしてくれる。
まずは、ボクにいきなり剣を向けたことの謝罪を受けた。ボクを見た瞬間に気づけば剣を抜いて斬りかかっていて、本人たちにも理由がわからないって。(関係ない人をいきなり斬り殺したらどうするんだ? まぁ、仕方ないのかなぁ。ボク、ほんとの敵だし。)
今もアレクシア以外の顔からは緊張が伝わってくる。
ボクの話はこうだ。軽々しく下町まで来ないこと(学園付近にも商店はあるし)。城から離れるほど治安が悪くなること。護衛は絶対につけること。そのうち一人は防御魔法や探知魔法など補助魔法が得意な者にすること。(アクセルが何か言おうとしたのを目で黙らせてやる。君、さっき負けたよね。そして、一番重要なのは、正体がバレバレなこと!なぜか全員、目を大きく見開いて驚いている。
「そんなきれいな服装はまず上流階級です。それに、金色の髪と碧眼は王族特有ってご存知ですよね? 金色の髪の若い女性がいたら、誰か想像がつきますし、想像通りでなくても欲望を刺激するだけの価値があるとわかりますよね? あと、皆さんが全員有名人だってことを認識してください。街の人たちでさえ正体に気づいていたと思いますよ。(ねぇねぇ、目尻をピクピクさせて、ちょっと刺さるような口調で言ってやる。)」
写真なんてものはないけど、有名人や憧れを抱く人物の髪の色や特徴は噂で広まっていたりする。(吟遊詩人なんかもいるし)
王女らしき人物と一緒にいるカラフルな人たちを考えたら、答えが出てしまう。むしろ、王女である裏付けになってしまうよね。 アレクシアはその大きな瞳でずっとボクを見ているけど、警戒してるのかな?
キャメラル君はわかってたっぽいけど、他は目が泳いでいる。
わかってなかった、と?うん、知ってた。 お忍びで街に出るイベントは度々選択肢に現れるけど、ほぼすべてバッドエンドになる。
伝えたいことは終わったので、フルーツジュースを飲み干して席を立つ。
「お待ちください、お姉様!」
「えっ!?」
知ってたの?胸が跳ねる。アレクシアから目が離せない。
「あっ、ごめんなさい……。えっと……、お、お姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか……?」
そっちか!?アレクシアの目はキラキラしていて、頬は少し赤く染まっている。
しっぽがついていたら、ぐるぐる回っていることだろう。(うんうん、さすがボクの妹で主人公、かわいいね〜。)
かわいい? エヘヘ。
遠い目で中空を眺める。前世で飼っていた犬のマメ太君を思い出したよ。遊びたいときはしっぽがぐるんぐるん回るんだよ。でも、すぐにそっぽを向いてしまうツンデレさんなのだ。元気にしてるかなぁ〜?




