アイシャと寮とラウンジと
今日はアレクシア達を含めて、貴族生徒達はほとんど登校してない。
「おはようユフィ」
「おはようアイシャ。 近いよ……」
「温かいでしょ」
「求めてない」
「遠慮すんなっ」
「してない」
「あっ、ティファニア様の部屋知ってる?」
「知ってるよ。 行く?」
「教えてくれるだけでいいよ。 ちょっと話があるから」
「あたしのも教える」
今日も実技の授業はあるが、打ち合わせができてないのでケンハマカー先生とマジナ先生の授業を受けつつレベルの低い生徒にアドバイスしていく。
当然、貴族生徒の方がレベルは高い。
今日は貴族生徒がほぼいないから基礎的な授業になる。
アイシャも教わるレベルじゃないから勝手に一人でシャドーや筋トレを始めている。
何人か声をかけられていたけど、剣技はともかく魔法については感覚的な表現でわかりにくいみたい。
「アイシャ、お願いできる?」
「うん。 あたしの部屋からね」
学園の寮は男女で別れた五階建ての二棟。
寮生活のラブコメってちょっとあこがれるねぇ。
「ユフィも入る?」
「入らない」
頭の中を読むんじゃない。
あっちの学校と一緒で新入生は一階で順々に上がっていく。
上の階には卒業してもそのまま留まり続けてる人が数人いるらしいけど、部屋はたくさん余ってるので問題はないそうだ。
アイシャの部屋は一階の真ん中辺。
四人部屋だけど、今入ってるのは二人なんだって。
まぁ、シンプルに机とクローゼットに二段ベッドだ。
一般生徒だし毎年部屋替えだから、そんなに持ち物は増やせない。のに、アイシャの隣は机からベッドの下にまでも物が溢れてる。
服やアクセサリーに化粧品。
大丈夫? どうすんだこれ?
「ここ、誰の?」
「ロレーヌ」
ロレーヌは一般生徒だけど裕福な家なのかな?
メイクバッチリで小綺麗にしてるイメージがある。
綺麗な顔だから、貴族家の子に見初められたら玉の輿って道もあるにはあるもんね。
姉様の部屋は五階の一番奥の部屋。
そもそも王族なのに寮住まいってのもなかなか無いよね。
近いってメリットはあるけど贅沢はできないし、誰か反対しなかったのか?
コンコン。
…………。
コンコン。
…………。
「いないみたいだね。 上級生の講義室見に行くけど、どする?」
「暇だし行く」
学園は広くて部屋は多いけど生徒数は多くないから講義室は各学年一つずつ。
残りの部屋はほとんどが研究室。
研究内容によって誰にでも貸し与えられて、研究で引きこもって教室に来ない生徒も少なくないそうだ。
すれ違う人は貴族か上級生で間違いないので、端で控えて会釈するのは忘れてはいけない。
無用な衝突を起こす必要はない。
まぁ、男性は顔を引き攣らせて寄ってこないんだけどね。
お年寄りの教師や用務員的な人にも避けられるのはなぜだろう?
それは自由度高すぎないか?
講義室にも姿がなかったので先輩に尋ねると、今日も授業には来ていていつも授業後は食堂横のラウンジでティータイムをしている事が多いとの事だ。
関係を聞かれたので、仕事上の付き合いと答えておく。
「おーい、ユフィー」
ラウンジの入口にかかった途端にお声がかかる。
大きな声なんだけど、誰も咎める人はいないらしい。
「さっ、こっち。 隣に来て。 みんな紹介するね、新入生のユフィ君。 彼女はとても優秀な冒険者なんだ」
「皆様、お初にお目にかかります。 ユフィと申します。 失礼します」
「新入生のアイシャです。 失礼します」
姉さまの周りは上級貴族の子息、令嬢ばかり。
男性の顔は引き攣り、女性からは値踏みと憎しみの目を向けられて居心地が悪いのですが?
でも男性陣は頑張ってるねぇ。 レベル? プライドかな?
時間も遅くなってるし、明日の予定だけを押さえて早々に席を立つ。
くわばら、くわばら。
「アイシャありがとうね。 助かったよ」
「どういたまして。 じゃ、泊まりいくね」
「ダメ。 外泊禁止でしょ」
「今日は帰さないよ」
「それもいいよっ! また明日ね」




