ラスボスと朝と学院と
「ねぇ、ねぇ、タキナぁ〜。 タキナも学校行こーよぉ」
「従者は認められてないからダメですよ」
「生徒になればいーじゃーん?」
「制服を着る年齢じゃないからダメですよ。 ほらほら、早くしてください。 クロエ様が来てしまいますよ」
今日はバッチリ制服を決め込む。
ブラウンチェックのプリーツスカートにブレザーとブラウスとネクタイ。
ネクタイとリボンがあるけど、ボクはネクタイ派。
ブレザーが濃いブラウンだから可愛さに上品さもあって賢そう制服だよね?
「大丈夫だよぉ。 走れば一瞬だしぃ」
「品がないから、走らないでくださいね」
「ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇー………………」
「はいはい、制服姿もかわいいですよ。 頑張って行ってきて下さいね」
膨らませたボクの頬を両手で潰してから、優しく抱きしめてくれる。
「お前らはなんで毎朝、毎朝、廊下でいちゃつくんだぁー? あたしもしたいからタキナ返せよー」
「やだよ。 ミネルバにはみんながいるじゃん」
「みんな優し過ぎるのー。 タキナに厳しくされたいのー」
それは、立場の違いじゃないかなぁ。
「タキナとらないでよね」
「お子様はとっとと行ってこーい。 今からは大人の時間だぁー」
「いけませんよミネルバ様、ユフィ様が学院に行かなくなってしまいます。 大人の時間ではなく、お仕事の時間ですよ」
伸ばす手をピシャリと弾かれる。
ヒッヒッヒ。
「おはようございます、お姉様」
「おはよう、クロエ。 今日の制服姿もとってもかわいいねー」
「おはよう、クロエ。 魔道具は大丈夫そう?」
「ユフィ様おはようございます。 順調に作動している様に見受けられますわ」
「うんうん。 強さの調整は?」
「調整は難しくて、まだ出来ておりません」
「そっかぁ。 危ない時はすぐに外して能力を開放するんだよぉ」
三日ほど徹夜してクロエの力を抑え込む魔道具を作ってみたけど、なかなか簡単じゃなかった。
自分が魔力を使うイメージと同じイメージを与えようとしてもうまく作動しない。
今は魔道具の核の中に小さいボクがいるイメージ。
魔力が尽きる前にボクが補充しないといけないけど、今はこれが限界かなっ?
これ以上はなにか閃きが必要だねっ。
学院へは馬車で向かう。
本部の真裏だから歩きでもいいのに。
春の朝の空気はまだまだ冷たくて清々しい。
門をくぐって広い庭園を走っていく。庭園は貴族区側だけで一般区側にはない。
ちらほら歩いてる子達もいるじゃん。
入口前は馬車で行列が出来ている。
みんな動きが優雅だからねぇ。
「ねぇ、クロエぇ。 歩かない?」
「いけませんわよ、ユフィ様。 貴族として、優雅な振る舞いを心がけていかなくてはなりませんわ」
ううっ、小さいタキナがいる。
馬車は順番に前に進む。
ゲームで何度も見た絵だけど、豪華な建物だねぇ。
入り口付近になんか人がいると思ったら、従者がいないから女子をエスコートしてくれるんだね。
御者さんがドアを開けてくれたけど、……誰もこない?
あれ? ビッテンフェルト家の馬車だよ? えらい事になるよ?
ボクが顔を出すと遠巻きなエスコート役が更に下がってみんな顔が引き攣ってる。
あー、これはダメだ。
モブだけどイケメン揃いで攻略対象なんだよねー。
剣を下げてたら斬りかかられたかもしれない。
何もないかの様に下車してクロエに手を伸ばす。
「クロエお嬢様、お手をどうぞ」
クロエの顔が引き攣ってる様に見えるけどきっと気のせいだ。
触れる指先がくすぐったい。
建物に入って入学生はそのまま大講堂へっと。
ホールから廊下へ大講堂へと歩いていくけど、男子達のほとんどはボクを見た瞬間に避けていく。
歩き易くていいんだけど、いいのか?
大講堂は貴族向けの催事なんかにも使われるから、とても大きな作りになっている。
大講堂に入った瞬間にこちらに向かって走くる少女がいる。
少女がつまずいて転びそうになるのを距離を詰めて抱き支える。
「ほら、危ない。 品がないから走ってはいけませんよ」
「ごめんなさい、お姉様」
ボクは本物の姉だがお姉様じゃない。
「まったく、どの口がそれをおっしゃるのと思いますわよ。 アレクシア様お久しぶりでございます」
「クロエリーナ様? なんでお姉様と一緒に?」
「覚えて頂いていて光栄でございますわ。 クロエとお呼び下さい。 ユフィ様はビッテンフェルト家に入られましたから、今は騎士団の本部で遊んでおられますわよ」
「アクセル。 まさかあなた?」
振り返って睨まれたアクセルはタジタジだ。
「アクセル兄様は関係無いですからご安心下さい」
「あら、そうなの?」
「まぁ、まぁ、もう時間も近いからまずは座ろうか?」
うわっ、生徒達ほぼこっちに注目してるよっ。
「アレクシア様素敵だわぁ」「あの可憐な赤い髪の方は?……」「あぁ、エリック様……」「……」「……」
アレクシアにクロエ、後ろの五人もなかなかに注目株。
「あのアレクシア様にひっついてるのは……?」「なにあの子……?」「取り入ろうって魂胆見え見えなんだけど……」「ひぃ、こっち見た……」「……」「……」
ボクもなかなかに注目株。
引っ付いてるのはボクじゃなくてアレクシアなのだけど?
変な言葉が聞こえたのは聞かなかった事にしよう。
「ちょっと、あなた。 アレクシア様に対して馴れ馴れしいのではなくて!」
取り巻きを引き連れた美少女がこちらに歩いてくる。
あまりご機嫌がよろしくないご様子だ。




