大浴場と麗人と
あぁ、大きなお風呂って気持ちいい。
やっぱ日本人はお風呂だよねぇ。
しばらくしたらミネルバが入ってきたんだけど、破壊力がハンパない。
フリルやステラとだってよくお風呂してるから別になれてるけどプロポーションがヤバい。
はぁ、どうやったらあんなに大きく育つんだろ?
ミネルバの合図でメイドさん達は退室していく。
「どう? きもちいい?」
「大きいお風呂は最高だねぇ。 食事も豪華だし、その辺は庶民とは違うよねぇ」
「うちに入る気になった?」
「悩むなぁ」
「誰か気になる人がいるとか?」
「それが、なかなかねぇ……。 このセカイってみんな顔はいいんだけど、なかなかドキドキがなくてさぁ。 そっちは?」
「あたし? かわいい子達はみんなあたしの物かなぁー」
ミネルバのボクを見つめる目が妖しい。
ブルブルブルブル。
「お、おおぅ」
「いずれは家の為に子作りは必要になるだろうけど、形だけだね。 男に魅力は感じないしー」
「貴族はそこがねぇ」
「最初はそんな事考えてなかったけどねー。 生きていくうちに、やっぱりねー。 クロエの事も心配だからいい人に貰ってもらいたいし、あの子は力があるから人付き合いすらできないしー」
「ギフトかぁ。 女神になら消せるかな?」
「消せるくらいの力があってもダメでしょうー、敵だし」
「敵なの?」
「敵でしょ?」
「なんで?」
「え?」
「んー?」
「もしかして、『炎翼』やってないの?」
『炎翼』は、ドキLOVE二次作の『ドキドキLovers・〜炎翼の騎士団〜』の略称。
ミネルバが主人公のこのゲームは、なぜか恋愛シュミレーションじゃなくてガチなシュミレーション。ちょうどインクで地面塗るのにハマってたから手をつけてない。
「やってないなぁ」
「マジかぁー。 『炎翼』はねぇ………………」
数年後にアレクシアがフィーネの巫女に選ばれて、国王が拒否した事により戦争が始まる。
そして主人公であるミネルバと第二騎士団が、神器や魔装機と呼ばれるロボット? に乗って女神の軍勢と戦うゲーム。
第二騎士団のドラゴンナイトってのもドラゴンに乗った騎士達ではなく、ドラゴンの力を宿した魔装機を駆る騎士達なんだって。
アレクシアや攻略対象達も、中盤から神器や魔装機で順番に参戦してくる。
あれ? ボクのゆるふわ人生ヤバくない?
「ユフィーリアは?」
「ツンデレユフィーリアはねー、終盤付近でアレクシアがピンチに陥るイベントがあってね、ズバッと登場して「おやおやぁ、たかだか女神如きが、この私のおもちゃに何をなさっていらっしゃるのかしらぁ?」とか言って、敵をバサッと瞬殺しちゃうんだよねー」
自分だと思うとなんかかっこいい。
「次のマップからは居るにはいるんだけど、操作不能NPCでさぁー。 何もしないんだけど、アレクシアがピンチになると「何をなさってますの? 頼りになりませんわねっ」とか「よく今まで生きてこられましたわねっ? 恥を知りなさい、恥をっ。」とか言いながら、敵を粉砕していくんだよねー。 だからクリアが難しい人は、アレクシアだけで特攻するとラスボスまでユフィーリアが倒してくれて「あなた貧弱すぎますわよっ。王女としての矜持を持ちなさいっ」とかって、ホントにかっこよくてー。 エンドロールは、ユフィーリアのいろんなショットが流れて終了。 みたいなー」
目をキラキラさせながら力説するミネルバが近い。
「それで、このショット集がまた良くてさー。 優しい微笑みとかー、寝顔とかー、アレクシアにイタズラしてほくそ笑む顔とかー、見下し気味のドヤ顔だったりぃ、どの顔もちょーかわいくてねー。 ずぅーっと欲しかったんだよねー、ユフィーリア・ファーレンハイトがさぁ」
彼女の赤い瞳はボクを捉えて離さない。
話す声は蜜を帯びた囁きに変わってボクに絡みついてくる。
気まずくて顔を逸らすけど、寄せた顔を避けられて行き場をなくした唇は、向かう先を変えてボクの首筋をそっと撫でていく。




