美少女クロエリーナ
第一騎士団の前には銀色の豪華な装飾のフルプレートアーマーの二人。第二騎士団前には真っ白の細身のフルプレートアーマーの二人が守衛についている。
「一番隊……、ノエル・ウィンダリア戻りました……。お客人のユフィ様もご一緒です」
「ようこそいらっしゃいました。どうぞお入りください」
隊士二人が開いてくれたドアの向こうは完璧に貴族の館だった。
真っ白な吹き抜けのホールになっていて、入口から奥に向かって階段の上まで赤い絨毯が敷いてあり二階の手摺りには国旗と騎士団旗が下げてある。
この騎士団旗もそうだけどドラゴンをモチーフにした紋章はすっごくカッコいい。
貴族の屋敷にだって入った事はあるけど、これはかなり上級の部類に入るね。
第三騎士団の詰所は役所的な感じだったのですごい違いだ。思わず目口が一文字になってしまうのは仕方ない。
あぁ、そう言えば第一騎士団と第二騎士団は全員貴族だっけ。
受付がある。白の布を被せた長テーブルはまるで結婚式の受付みたい。
テーブルには白のドレス姿の赤い髪色の美少女が立っている。
「よ、ようこそいらっしゃいました……ユフィ様。こ、こちらに、ごっ、ご……きちょうをお願いします」
ぐはぁ。 死ぬ死ぬ。
かわいすぎて死ぬ。
思わず手が伸びて頭を撫でてしまう。
ツヤサラで幸せ。
撫でる手は頭から髪に添って頬へ。
真っ白な肌、少し朱に染まった頬、艷やかな唇。
頬に手を添えて……親指を唇に沿わす。
まっすぐに目を見つめて……少し潤んだ赤い瞳に写る自分の姿と怯えの色。 …………怯えの色?
んんっ?
近っ。 顔が一気に赤くなって跳ねる心臓。
目をおよがせたボクから顔を赤らめた少女が目をそらす。
「………………」
「申し訳ございませんでしたぁ。 どうかお許し下さい」
もう、謝罪の一手だ。
後ろに飛び退いて土下座を決め込む。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
これ、絶対に静のせいだよねぇ。どうしてくれるのさぁー。
「ぷっ、くっくっくっ。 フフフフフッ。 ヒーッヒッヒ。も、もうちょっと、そのままいっちゃえば良かったのにっ。 プップップー」
頭上から笑い声が響き渡る。
「なっ、なにをぅ!」
ちょうど真後ろの二階には、楽しそうに腹を抱えて笑うミネルバが立っていた。
「お、お姉様っ。笑い事ではございませんわっ!」
「ごめんごめんクロエ〜。だってさぁ〜、すごくない? ヤバくない? あ〜ん、もっと見たかった〜。 もっかいやって〜。 美少女の絡みって神よね〜」
「お姉様、おっしゃっている事がよくわかりませんわよ!」
ミネルバが下におりてきた。後ろに三姉妹が控えている。
まだ笑ってる。
クロエ? クロエリーナ・ビッテンフェルトか。
ビッテンフェルト家の次女で14才。
クロエもドラゴンナイトで学園でアレクシアの影の護衛になる予定なんだけど、ゲーム中はモブ扱いで黒塗りキャラだった。こんなにかわいいのかぁ。
「フフフフ。 ねぇ、ユフィ。 クロエを娶る気はないかな?」
「……」「……」「……」「……」「……」
「えーっと、謹んでお受けいたします」
「おっけー、けってぇー」
「おねぇさまーー」
チラッと目を合わせて半分冗談で返してみたけどクロエはちょっと涙目だ。
クロエかわいい。ほんとにかわいい。 冗談よ、ジョーク、神ジョーク。 よほほほほ。
「でもね、ちゃんと考えてごらん。 クロエの力に抗える人はそうそう現れないんだよ。 それに家が決める縁談を断れない状況になる事だってある。 今ならまだなんとか出来るし、ユフィなら相手として申し分ないと思うよ」
力? クロエには他人を魅了するギフトがあるらしい。
ボク? 抗えて無かったよ?
家族以外のほとんどの人は意識が朦朧として動けなくなるそうで、魅了されながらも意識を保った上に、我にかえれた事自体が抵抗力の高さを証明するみたい。
第二騎士団員は全員体験済で魔道具で抵抗力を高めているけど完全じゃないし、貴族でもお高い物なんだって。
申し分ない? 大ありだよ。
同性の平民の冒険者に嫁ぎますって、だれが納得できますか?




