二度目のサヨナラ
いったぁぁぁぁぁぁぁ。
ヒール、ヒール、ヒール、ヒーーールゥ。
よかった。生きてる? 生きてた?
体は焼け焦げた上にけっこう潰されちゃってた。
床の破壊には成功たみたいで穴の開いた天井が見えてて、周りには石の瓦礫と炎に包まれたままの大剣が転がってる。
剣は抜けたけど瓦礫に挟まれちゃった。
てへっ。
意識がなくなってから数時間は経ってるかな? 魔力はだいぶん戻ってきてる。
良かった。ほんとに良かった。
塔の中に人の気配は無い。
さっと身なりを整えたら城に走る。
なに? 町の様子がおかしい。
そこらかしこに人が倒れていて……生きてはいない。外傷は見当たらなくて、心臓が止まって倒れたかの様な……。
ただ魔力の残滓みたいな糸が城に向かっているのがわかる。
ボクも引っ張られてる? 物理的じゃなくて、感じると言うか、よくわからなくて気持ち悪い。
頭の中に警報が鳴り響いてる。 怖い。知らない力が怖い。
でも、いくんだ。
魔力の糸を辿っていくけど、町中すべてが同じ状況。
城に近づくにつれて戦闘と思う轟音が大きくなっていく。
スプリガンがでてる。
城壁に登ると城は半分吹き飛んでいて、スプリガンが女性型の精霊が剣を交えているのが見える。
ボクじゃ手出しできないくらいの激しい戦い。実力はほぼ同じだけど、パワーなら女性型で動きはスプリガンが上に感じる。
シュア。
スプリガンの後方にシュア見つける事ができて、女性型の精霊の後方にはバルトリア……と、倒れた王子。
?! フブキ。
シュアの少し後ろに仰向けに倒れてしまっていたフブキ。駆け寄ったけど、彼の心臓も動いてはいなかった。
なんで? バルトリアか。
フブキから見える糸も、町の人々から伸びていた糸も全て彼女に集まっている。
でも、彼女はどうしたの? 正気を保ってない。力なく立って虚ろに地面を見ているだけ。
「シュア」
シュアはバルトリアから視線は離さない。
「……来てしまったのね。 早く離れなさい、あなたも命を吸われるわよ」
「何があったの?」
「行きなさい。 これ以上わたしの邪魔をしないで」
「ねぇ、あの精霊は? バルトリアはどうしたの?」
「はぁ……。 あれは戦女神ヴァルキリー。 バルトリアの精霊なのだけど。 もう彼女はバルトリアではないわ。 彼女の力は聖なる物なんかじゃないの……。 彼女は力に飲み込まれて魔女になってしまった。 王子と出会ってはいけなかった。 力を使ってはいけなかった。 また運命を変えられなかった」
「また?」
「あなたには関係のない事よ。 もう行って」
「嫌だよ。 なにか……」
ザシュウゥゥ。
ヴァルキリーの剣がスプリガンの胸に深々と突き刺さる。
シュアが負けた? ボクのせい?
「スプリガン。 カウンターブレイク!」
シュアの声でスプリガンの炎は燃え盛り、その剣が精霊の胸を貫く。
「終わった……」
「終わってないわ」
シュアが向けてくれる顔は寂しそうに微笑む。
「もっと早く出会えていたら、何か変わったかもしれないわね。 さようなら」
「シュア?」
ボクに別れを告げた彼女は駆け出して、力なく立ったままのバルトリアを包み込む。
「疲れたでしょ。 もう眠りましょう」
シュアがバルトリアに口づけして、取り出した剣で自らと共に胸を突き刺す。
血の海の中でシュアは優しく微笑んでバルトリアを抱きしめる。
「愛してるわ、バルトリア」
二人をまばゆい光か包み込む。周囲が、空間が、セカイが真っ白に染まる。
気がつくと平原で一人立っていた。
あれ? ボクなにしてんだ?
手の中には一粒の宝石。
ドロップ オブ シュウテリーア。
そうだ、ボクはこの宝石を探して……。
あれっ? なんで涙が溢れてくるんだろ?
止まんない。 なんで?
ここはどこだろう? どうやって手に入れたのか覚えてない。
精神攻撃? このボクに?
ヤバい。逆に精神攻撃じゃなかったらもっとヤバいけど、とりあえず帰らなきゃ。
タキナに怒られるよー。
人里求めて走る。
理由はわからないけど、溢れる涙は止まらなかった。




