自己満足
「遅い」
「仕方ないじゃないの。 レディの支度には時間がかかるのよ」
うん。すっげー寝た。寝首かかれても仕方ないくらいに寝た。
起きようとはしたんだけどシアが離してくれなくて、すごく優しく包み込んで頭を撫でてくれるから振りほどく気はおきなかった。
うかれてんなぁ。ゆるんでますね。だらしないですなぁ。
えっ? 中空をキョロキョロするけど、誰もいない。姉様達の声が聞こえた氣がしたけど空耳か……。
つられてフブ……パープルもキョロキョロするけど、当然何も無い。
「寝てただけやろがっ。 こっちは昨日の晩から待っとんやぞ」
「あんたが変な時間に招くからでしょうがっ。 しかも試練も伝えてないでしょ。 いい加減にしなさいよね、この変態共。 あんた達レディの扱いがなってないのよっ」
「ぶっ……、レディて」
ガーン。
ドッ。
シアのボディブローがフブキのみぞおちを抉る。ぎゃー、鎧ごと腹を抉り取った。
ヒールぅ。
傷は治したけど、フブキは意識を失ってその場に倒れる。
「シアさん、やり過ぎー」
「豚野郎にはこれでも足りないわ」
「死ぬ死ぬ」
「死なないわよ」
「いや、死ぬよ……。 さすがに死ぬよ」
急にシアに引き寄せられてキュッと抱きしめられる。あぁ、柔らかくて幸せ。
にしても強いな。気を抜いてるとはいえフブキを一撃で殺すなんて。
「よしよし、アンは優しいね。 こんな奴、死ねばいいのよ。 ほら、起きろボケェ」
シアがフブキを足蹴にして起こす……?
ボキボキボキボキボキィ。
は?
蹴られた体は端まで吹き飛び壁にめり込んで、フブキは口から大量の血をまき散らす。
ヒールぅぅぅぅぅ。
「シアさん……。 ボクが起こすよ」
「いや、まだまだ足りないわよ」
「いや、死んじゃう、死んじゃう」
「いや、死なないわよ」
「いや、死ぬって。絶対死ぬって」
「うっ……またか。 シアリース……、いくらなんでもやり過ぎや」
「手加減してるじゃない」
「式目前に寝たきりになたらどないすんねん」
「別にあなたがいても、いなくても同じよ。 何も変わらないわ」
「それでも、見届けなあかんやろ」
「やめなさい。 お嬢が辛くなるだけよ」
「それでも……。 それでも……」
「あんたの自己満足だって言ってんの。 ホントに殺すわよ」
シアの目に怒気が浮かぶ。次、動いたらホントにフブキは死ぬかもしれない。
「だから、俺ははこいつを呼んだ。 こいつやったら無理矢理にでもお嬢を止められるかもしれん」
「あんた……ホントに……」
「いいよ、シア。 ボクはその為にこの国に来たんだから」
「アン……。 ホントにそれでいいの? お嬢は絶対に望まないし、それどころか恨まれるかもしれない」
「でも救いたい。 ボクの自己満足で救いたい」
「救おうとしてる人間に殺されるかもしれないわよ」
「うん」
「……そう。 じゃ、もう一度あなたの本気を見せて」
「うん」




