ボクはいくない
「ダメよ」
棒術使いについていった先。宿泊用と案内された部屋を通り過ぎて着いたフロアには同じ黒装束の女性がいる。
同じ格好っていっても鎧越しや姿勢から色気が滲み出ていてむしろいやらしさすら感じる。
話をしてる最中なのに椅子に座ったままネイルから目を離すつもりはないらしい。
女性のマスクの目の部分はピンク色、棒術使いの男は緑色のカバーだから、それぞれの呼び名は目の色なのかな?
「休憩は認められないと?」
「違うわ。 夜更かしはお肌に悪いの。 可愛いお嬢さんをこんな時間に呼び出すなんて、気遣いが足りないのよ。 いい? パープルとの手合いは明日の朝にしなさい」
「ピンクは?」
「あんたので十分見れたから、あたしのは必要ないわ。 わかったら行って、この娘は預かるから」
「それなら俺も話がしたいんだが?」
「はぁ? むさい男はお呼びじゃないのよ」
「はいはい、わかりましたよ」
ピンクの招きのまま彼女の自室に。
あぁ、とても良い匂いで癒される。彼女の雰囲気そのままの落ち着いた大人の女性を感じる素敵なお部屋。
ヘルメットを脱ぐとサラリとピンク色の長いストレートの髪が開いて、広がる匂いに更にくらっとする。
「こんな兜嫌よね。 まったく趣味がわるいわ。 はじめまして。 私はシアリースよ。」
「はじめまして、unknownです」
体のラインを模した様な甲冑と服を脱いだ彼女はとても美しくて見惚れる。
「ねぇ、体拭いてくれる?」
「うん。 でも、どうせならお風呂にしない? すぐ用意できるよ」
「あら、素敵。 ぜひともお願いしたいわ」
了承いただいたので二人で入浴に。
「良い匂い。 疲れが抜けるわねー」
「気に入ってもらえてよかった」
お風呂用のアロマも石鹸やシャンプーも気に入ってもらえたみたい。
「なんでボクに気をゆるしてるの?」
「昨日はお嬢といたんでしょ? 一晩一緒にいてなにもしない娘にそんな事いわれてもね」
いや、そんな雰囲気にならなかったし……いやいや、別にそんな気ないし。
「シュアの事、教えてくれない? 力になりたいんだけどなにも話してくれなくて。 何をしてあげたらいいのかわからなくて……」
「アンが来てくれてよかった。 あんなに楽しそうにお嬢が話すのは久しぶり」
…………。
「お嬢が死ぬのは運命だから仕方ない事なの。 それをお嬢が受け入れているから、私達にはどうする事もできないのよ」
「運命?」
「ええ。 お嬢は頑張り屋よ。 幼少の頃から天才と言われて貴族の令嬢でありながらも奢らずに武術に政治、医学や農業まで勉学を怠った事はないわ。 それは全て運命を変える為だと。 伝承やしきたりなんかにそんな話はないの。 天啓なのかしら? 私達も最初は信じられなかったんだけど、お嬢の言葉通りに事件や災害が起こり被害を小さく抑える事ができた。そして平民から聖女が現れると予言したんだけど、そこまで。 聖女の出現より後は何が起こるのかはわからないって言っていたのを覚えているわ」
これって……、やっぱりそうだよね。
シュアは転生者だ。
でも人名や漢字の読み方に違和感があったから日本人じゃないのかもしれない。
「どうして危険を犯してまでお嬢に会いに来てくれたの?」
「一人の女の子を助けるのに理由がいる?」
「そう。 でも、もう十分よ。 目をつけられる前に帰りなさい」
「シアはそれでいいの?」
「良いのよ……もう。 お嬢が辛くなるから……」
「ボクはいくない」
シアが抱きしめてくるけど、その瞳には涙がたまっている。
「ほんとに、ほんとにもう十分なのよ……」




