バカなの?
「いくぞっ。 スリーッ」
「つー」
「ワンッ」
「ごー、しゅー」
あっ、言っちゃった。まぁ、嫌いではないんだけど。
暑苦しい黒尽くめは取り出した棒で鋭い突き、打ち、払いが繰り出してくる。
槍術士……じゃないな。棒術士? 腕はいい。
この間合いは……当然投げ技も持ってるよね
ぇ。
棒術と無手は相性はよくない。棒術使いは拳打も上手い。間合いも近いし、軽い棒は動きも速くて弾くのも大変。
「よい。 よいぞ、よいぞ。 むしろ体術は私よりも上か。 武具もつかえるのだろう?」
「まぁ、それなりにはねぇ」
「ふむ、体術はもうよいだろう。 次、本番いくぞっ。 精霊っ、召喚っ。 いでよサラマンダー」
展開された魔法陣から呼び出されたのは炎を纏った大トカゲ。
「どうだっ、かっこいいだろう。 さぁ、お前も出せ」
「いや、持ってないよ」
「そんなはずはないだろ? 精霊も持たずにフブ……いやパープルとやりあったと?」
「似たようなのは、いないこともないけど、精霊召喚ではないんだねぇ」
「まぁ、よい。 では、いくぞっ。 スリーッ」
「…………。 いや、もういいよ」
「スリーッ」
「……つー」
「ワンッ」
「ごー、しゅー」
ザシュ。
速いっ。速さ、パワー、共に問題ないし熱い。スプリガンほどじゃないけど、並の人間なら近づいただけで丸焼けだわよ。男は静観の構えだけど精霊は自分で行動するのかな?
サラマンダーの攻撃は野生のオオトカゲなんかと同様。噛みつき、引っかき、しっぽ。プラスして口から火球攻撃もあるけど単調だなぁ。獣の直感的な戦いも悪くないけど、力押しすぎて単純すぎませんか? 強者は強くなれないよ。
「サラマンダー。 ヘルフレイムッ」
指示が入ると火蜥蜴の数が増えて火球が倍になると同時に着弾地点に火柱が立ち昇る。こっちの行動範囲を狭めるつもりだね。火蜥蜴は当然火柱の上だって自由に走り回る。
当たらない様にしながら直接攻撃を避け続けるうち男の気勢が変わる。
「サラマンダー。 火炎旋風っ」
ほほぅ。いくつかの消える様子のない火柱がそのまま魔法陣を形成する。
いいねっ。気が回ってなかったよ。
火柱は一気に燃え上がり、強風で熱と炎が吹き荒れる中を火蜥蜴が走り回りながら断続的に攻撃をくわえてくる。
おおぅ。あっついわー。インフェルノってこんな感じかぁー。うむうむ。威圧感十分だし死ねる。エストアもセラも死ななくてよかったよ。しかも火蜥蜴のおまけ付き。この中で戦うのはかなり難易度高い。
先ずは炎の処理からだね。構成陣展開。初披露だしね、動きだってカッコつけちゃうよっ。
魔導書を左手にパラパラ意味ありげにめくって、右手で魔法陣を描く。
「我、ユフィーリア・ファーレンハイトの名において命ずる。 彼の地より来たりて我が力となれ。 悪魔召喚 水を司る者ウンディーネっ」
魔法陣が光を放ち顕現する可愛らしい女の子。青くて長い髪が半透明にキラキラして水を連想させる。顔立ちは穏やかでおしとやか…………えっ?
「ああああっついわよっ。 どこに呼び出してんのよっ」
「…………はい、すいません」
「水」
「?」
「水出して。 消えちゃうわよ」
バケツの水をとりだすんだけんども。
「バカなの? もっと……」
グォォォォォン。
ボク達の隙をみて火蜥蜴が一気に殺到する。
「トカゲ、うるさい。 早く水出せ」
ボクが空間に放出した水は槍になって火蜥蜴に向かっていくけど蒸発が早くてたいしたダメージにはならない。
「足りんっ」
うーん、間違えた? 風の方がよかったかな?
かなりの量の水を放出し続ける事でウンディーネはその真価を発揮する。荒れ狂う水の奔流に周囲の炎は掻き消されて、火蜥蜴も次の瞬間には姿を消す。攻撃後の美しい立ち姿のウンディーネも魔力がなくなって静かに戻っていく……ん?
「次、乾いたとこで呼んだら殺すからな」
「…………ありがと」
可愛いんだから静かに戻れよ。なんか台無しだよ。
すごいんだけど、自分で相手した方がよかったかな? 魔力の喪失感が半端ない。ウンディーネ燃費悪すぎ。それに水なかったら詰んでたんじゃない?
「一撃とは……。 見事だ試練を受けし者よ。 先へ進むがよい」
「せんせー。 魔力残ってませーん」
「魔力? マナの事か? どうする? 後日でもよいし、宿泊するなら部屋を用意してあるが?」
「じゃ、部屋借りようかな。 お風呂と夕食にしたいし。 五時間ほど休憩したらいけるよ」
「わかった。 その予定で調整しよう。 ついてこい」




