塔の試練
フブキの部屋を出たらまたシュアの部屋に。
寝てる時はこんなに可愛い顔してるのになぁ。
時々辛そうな顔になるので、手を握ってボクも眠りにつく。
朝。ひっついて眠っているのを、無理やり突っぱねられて仕方なく体を起こす。
「おはよう、シュア」
「…………」
「なんでいるのよ。 出ていって」
「まぁまぁ、朝ご飯にしようよ。 ねっ」
「人を呼ぶわよ」
「怪我人が増えるだけだよ。 それに近くにはフブキしかいないじゃん」
「フブキは負けましたのね」
「シュアが止めたじゃんか?」
「知りませんわ」
「そ、そう。 まぁ、負けないけどね」
話半分に朝食の準備をして、シュアの顔を横目に確認してほくそ笑む。ボクの準備は出した瞬間に美味しい匂いがひろがるから興味を抑えるのは難しい。勝った。食に関してミネルバ専属のユリちゃんに勝てるコックはこのセカイにはなかなかいないと思う。人の心を掴むには胃袋からとはよく言ったものだ。
「さぁ、どうぞ」
「…………いただくわ」
あら、朝からけっこう食べるのね。食事は質素な夕食だけなのかな?
しばらく会話を楽しんだんだけど、また急に追い出されてしまう。
なんで? と思わなくもないけど、会話中に不意に曇る彼女の顔に胸がチクリとする。
追い出された後は城の図書室や書簡部屋で適当に資料を漁って、夕方にはunknown姿で町を出て草原を走る。
おー、あのちくわの絵は塔だったか。
すぐ着いちゃったから日は暮れてないんだよ。人がいるのはわかるけど、もう入っちゃっていいかな? でも準備できてなかったら悪いから待つよ。
壁を登って一気に上に行っちゃう選択肢もあるけど、ボクは楽しみたい人だからちゃんと下から入るよ。
さてと。
日が暮れて大きな扉に自然と灯りが点ったので前に立つと、ゆっくりと開いて招き入れてくれる。
ゴゴゴゴゴゴゴ。
チャララララ〜、チャ〜チャララララ〜ラ〜、チャララララ〜、チャララララ〜。
くそっ。なぜかBGMが鳴り響いてる気がする。
別にサプライズパーティーやお祭りを期待してたわけじゃないけど、嫌な予感しかしない。
スモークと共に格好つけて出現する黒い影。
黒い甲冑に黒のフルフェイスのヘルメット。
やめてー。もう許して。思わず頭を抱え込んでうずくまる。すっごい、恥ずかしい。心が抉られる。自分も似たような格好だから同類にされたくない。好きで……当然気に入ってやってるのに……。もう脱ぐ。髪色だけで良い。
「よくぞ来た。 試練を望む者よ」
「うんうん。 はいはい、そーですか」
「なんだ? やる気あるのか?」
「やる気はあるよー。 ちがうっ。 試練とか聞いてない」
「ここは炎の騎士の試練の塔だ。 我ら三騎士と戦いお前の力を示せ」
「いや、興味ないから。 フブキ出せよ」
「くふふふ。 よい気勢。 よい威圧感。 一番手をとれるとは、私は運が良い。 同じ事だ。フブ……パープルに会いたくば私と戦え。 ほら構えろ」
パープルってなんだよ?
構えろって言われても、カッコつけない時は自然体なんだけど。
「よいのか? では、いくぞっ。 スリーッ!」
「…………はぁ?」
「数字も知らんのか? スリーの次はツーだっ」
えー、なにそれ? この国じゃ当たり前なの?
スリーの掛け声と共にやる気満々で手を突き出してくる。
「スリーッ!」
「つー」
「気合いが足りん」
「スリーッ」
「つー……」
「お前、試練舐めてるだろ。 楽しいだろ? もう少し頑張れ」
「楽しかったらやってますぅ。 試練受けにきたんじゃないんですぅ」
「だから楽しめ。 戦いを楽しめ。 死合を楽しめ。 生きてる事を楽しめ」
「なんですか? 体育教師ですか? 今、もしかして私の事、元気づけようとしてましたか? むしろ落ちた原因があなたの服装とテンションなので、無理です暑苦しいです。 暑苦しいのでごめんなさい」
「暑苦しいかぁ〜あーっはっはっはっ。 受け止めろ。 もっと楽しめ」
くっそー。腹立ってきたぁー。




