一緒にはいられない
「ねぇ、すごい事言っていい?」
「どったの?」
「最近、ボクし過ぎだと思うんだよねっ」
「別にすごくないし……。 したくないの?」
「いや……、したくない事ないけど……」
「今更だねー。 仕事の無い貴族なんてそんなもんよ。 あたしみたいに」
「いや、でも、落ち着かないってゆーか。 幸せではあるんだけど」
「今までが気を張りすぎなのよっ。 ユフィが頑張ってきた事の結果でしょ。 自分の為に欲望に浸る時間があってもいいんじゃない? ご褒美だよ」
「そうかな?」
「そうよ。 女神の件がなかったら、傍から離したくないのに……。 ごめんね」
「なぜ、ミネルバと一緒になっている?」
「好きよ、ユフィ」
「……うん、好き」
ミネルバは突然真面目になるからズルい。すこし愁いを帯びたような紅い瞳に捉えられたら、求められるまま受け入れる以外の選択肢はなくなってしまう。
………………
「ユフィもお茶してく?」
「お風呂入って、兄様達のとこ行ってくるよ」
さっと服をきるけど、ミネルバはそのままでスリープを着て過ごすらしい。
「お風呂いかないの?」
「一緒でいいの?」
「なにもしなかったらねー」
「なら無理だぁー」
「おっかしーぞー。 アイシャ、よろしくね」
「りー」
さってと、裏から直接学院に入って、人目につかない様に図書室に入ると兄様とシーズがカウンターにいるのが目に付く。
「兄様、ごきげんよう。 シーズもごきげんよう」
お兄様と部屋に入るけど、シーズは姉様を呼びに行くみたい。
ベッドでのおにいさ枕とのお話は心地良いのだけど、大切な話なのに眠たくなってしまうのが問題。
今後についての話を伺うけど、お兄様の言葉はファーレンの決定と思っていいとの事。シャルマンではやり過ぎたけど、兄様やミネルバがフォローしてくれてる。ボクがなにもしなくても大丈夫な様に取り計らってくれているからボクに対しての指示や命令はない。
だいたい終わってうとうとしていると、姉様に抱きつかれてべたべたされるのは嫌じゃないのだけど、唇を狙ってくるのはイヤイヤする。軽いのはいんだけど、重ねるのはなんか恥ずかしいのだ。
「今日は夜もいてくれるんだよねぇ?」
「すいません姉様。 もう少ししたら戻ろうかと……」
「えー、いーじゃなーい」
「実は……、えっと……、新しいパートナーができまして……。 そろそろ戻ってくる時間なので……」
「えーーーー、なんでーーーー。 とりあえず連れていらっしゃいよー」
「いやーー。 タキナがわざわざ時間を作ってくれたから、二人でゆっくり過ごしたいとゆーか……。 へへへへへ」
「もぅ。 いやらしいんだからぁ。 あたしにもしてくれていいんだけど?」
「姉様は、嫌です。 好きですけど、嫌なんです。 大好きだけど、嫌なんです!」
「もう、わかったわよっ。 ちゃんと連れて来なさいよね。 待ってるからねっ」
もう薄暗い時間、アイシャに見つからない様にまたベランダから部屋に入ると、もう寝間着のフリルがベッドで小さな寝息をたてている。
かわいい。そっと唇を合わせると、寝てるのに小さく求めてくるのが愛らしくて、水色のキレイな髪をいじりながらしばらく唇の感触を愉しむ。
ノックがあったので、仕方なく静かにベッドから離れて応える。
気配を消して帰ってくるわけじゃないから、ボクの帰宅はメイド姉様達には共有されてる。イヴ達本丸警護組の索敵能力は甘くない。まぁ、全力でやればできるとは思うけどね。
用向きはミネルバからの食事のお誘い。でも、応接室で? いつもなら私室なんだけど、誰か来たのかな?
入室の許可を得て気を張ってドアを開けるんだけど、いきなり抱きつかれる。
「アイシャ……」
「…………」
ドアの向こうにいるのは知ってたけど。
ソファーで別れた時のままのスリープ姿のミネルバが悪びれる事もなく舌をだしてるのを、軽く睨む。
「バレちゃった……」
モロバレだよねっ! そりゃ匂いがしちゃったりするよねっ。恥ずかしいわっ。ってか、わざとだよねっ。アイシャなら嗅ぎ分けれるとは思ってたけどさっ。
「じゃ、あとは二人でごゆっくりぃー」
なんて奴だ……。せめて下着くらいは履いて、いやらしいから。
アイシャはひっついたまま。ちゃんと両手で夕食を食べ始めるけど、少しズレてもぴったりと寄せてくる。今の彼女は人の温もりと食事のどちらかを選ばせたらどっちを選ぶかわらない。
口数少なく食事と入浴を終える。
「送るよ」
「帰らない」
「ダメ」
「ヤダ」
「ダメ」
「ヤダ」
…………
「アイシャ!」
「ヤダ……」
アイシャは泣かない。泣かない子だった。
でも、なんて顔するかなぁ……。
「今日だけだよ」
「ん」
「フリルが寝てるから、静かにね」
「ん」
さっきの疑問の答えはわかってる。彼女は弱くなった。今の彼女なら食事より自分の命より私達を選ぶ。そうなってほしくなかった。
だからアイシャと一緒にはなれない。




