ボクは負けない
「素直に体を預ければよいものを……」
「殺さないんだね……?」
「ちぃと痛みを与えるだけじゃ…………。……!!」
隣に立っていたボクの気配に静が飛び退く。
「いっ、いつからじゃ?」
「いつから……、面白い事を聞くね。いったいいつから、ボクがあそこにいると錯覚していた?」
軽く前髪をかきあげて、目を細める。
静が構えると再び黒剣がボクに向かって殺到する。
しかし、今度はそれを阻む様にピンクの花びらが乱舞する。
「むだ。 舞い吹雪け。 千本桜……華嵐」
花びらはボクを中心に舞う様に広がって、空間全てを埋め尽くし黒剣を砕いていく。
「静は誰から千本桜を教えてもらったの? 本物の桜の花は見た事がないよね? 桜はね、散っていく時が一番きれいなんだ。 そもそものイメージが違うから、ボクの千本桜は負けない」
空を見上げて、はらはらと舞い散る花びらに手を伸ばす。
花びらは手には触れる事なくすり抜けていって、少し視界がぼやける。
………………
「きれいじゃの」
「そうだね。青空の下の本物は、もっときれいだよ」
「そうか、お主、転生者じゃの。 少し話をせぬか?」
「うん、いいよ」
「こた……」
「ちょい待ちっ」
指を鳴らして、青空に変えてから桜の木を写し出す。
アイテムボックスから布とお弁当をを取り出し、布を敷いて静に席を勧める。
驚いた静の顔はとてもかわいい。
「転生者とは幾度となく出逢うておるが、私様の空間で好き勝手しおって、規格外にもどがあるのじゃ」
「そうなの……?」
「当たり前じゃ、私様の空間じゃぞ」
「そっかぁ。私様だもんね」
「御前様と呼べとゆーたじゃろ」
「まぁ、とりあえず食べようか?」
「お主、呑気じゃのぅ」
このセカイの魔法の強さは、込める魔力の量とイメージ、そして想いの強さで決まる。
発動した魔法には抵抗力があって、それを上回る事が出来れば打ち消したり、上書きする事も出来る。
魔力の量はラスボスとして最大値。そしてこのイメージする力に関してボクは負けない。
例え偽物だったとしても見た物をイメージする事は簡単で、現代日本においての映像、マンガ、ゲームの世界は本物の神話をも凌駕している。
フフフフ。
和風幕の内弁当はないけど、熊の居眠り亭スペシャル弁当だぁ。
美味しいよー。
「ほう、これはなかなか美味じゃの」
「でしょうー。特別な時用に作って貰ってた物だからね」
「人と……、食べる食事は……、美味しいの……」
静の目には涙が溜まっている。
隣で見ていたボクも、じんわりこみ上げてくるものがある。