蕾は、蕾のまま終わらず
「ユフィー。 ゴロゴロしてないで起きて下さいね」
「やだ。 起きない。 調子いくない」
「ダメですよー。 昨日も同じ事言いましたね? ほったらかしにしたら、私だって拗ねてしまいますよ」
うつ伏せで枕に顔を埋めて、そっぽを向く。
「…………」
「もう。 ほんとにユフィはかわいい人ですね。 今日、この後はお勤めにいきますから誰か付いてもらいますね」
「一人で平気」
「ダメです。 ご飯はちゃんと食べて下さいね」
だって、何もしたくない。
あの夜、フリルはそのまま帰ってしまった。伸ばした手が彼女に触れる事はなかった。彼女を引き留める資格はボクにはない。ボクの言葉は彼女には届かない。
「フリル……」
結局、何もする気が起きなかった。夜はビルトが来て、夕飯は少し食べた。彼女は細かい事は気にしないけど食事と体力作りには口うるさいのだ。
…………
コンコン。
今日は朝からクーンが来てくれる。彼女は忙しいので少し申し訳ないけど、枕に顔を埋めたままで気のない返事をする。
「ユフィ様、おはようございます。 調子はいかがですか?」
「あんまりいくない」
「そうですか。 そのご様子では食事どころか入浴もされてないですね? 先ずはお風呂に致しましょう」
「いいよ。 クーンは忙しいんだから、ほったらけで大丈夫」
「ふふふ。 問題ございません。 本日は見習いを連れて参りました。 その者に担当させますので練習台になっていただきますね」
「何もしないから仕事はないよ」
「はい。 では、私は失礼いたします」
クーンが下がっていくけど、まったく音がしない。足音どころか衣擦れやドアを開ける音さえ聞こえない。メイドとして過剰なまでに見事な高スペックだ。
「さっ、入りなさい。 面倒のかかる方ですが、今日はお願いしますね」
「はい」
「?」
聞き覚えのある心地いい声に、寝転んだまま顔を入口にむけるけど、思わず体を起こして目が見開かれる。
クーンと入れ替わりで入ってきたのは、薄い水色の髪を一つに纏めて、メイド服に身を包んだフリルだった。
「おはよう……。 お、おはようございます……、ご主人様?」
「フリルぅ……」
涙が溢れてくる。つい駆け寄って顔を埋めて泣いてしまう。
「フリルぅ……。 フリルぅ……」
彼女の匂いと感触に包まれて幸せなんだけど、不安が胸に込み上げてくる。
「ごめん。 ごめんね……」
「ユフィ……。 私もごめん」
「フリルは悪くない」
「ううん、ごめん。 私……、ズルかった。 私はただ嫉妬してただけ。 タキナさんにユフィをとられたのがさみしくて悔しかったかっただけなんだってわかった。 私、ユフィと一緒にいたい。 ずっと一緒がいい。 他の誰かじゃなくて……ユフィがいい……」
「フリル……」
フリルが唇を合わせてくるのを受けとめる。
控えめで……、その体は小さく震えてる。
きつく抱きしめて軽く伺うとゆっくりと舌先を合わせてくる。ビリビリする。甘くて柔らかい。
彼女と唇を合わせるのは初めて。慣れてないのか、不器用な感じに、より気持ちが高鳴る。重ねる温かさと気持ちよさに心を奪われて、自分の想いを再認識する。
フリルが好き。ずっと、ずっと憧れてた。
ずっと一緒にいたけど、彼女からそこまでのものを感じた事なかったし、好きな人がいると思ってた。
だから抑えてた。突き放されるのが怖かったから、一緒にいたいから想いをしまい込んでた。
フリルも同じ気持ちだった……。なら、いいよね。
まだ少し震えてる彼女を、ゆっくりと優しく、唇を重ねたままベッドに横たえる。
頬をゆっくりなでて、また深く唇を重ねる。息遣いが、甘さと感触が、全てがボクに染み込んでいく。
「ん……はぁ。 はぁ。 フリル……」
「うん……、大丈夫……」
「ボクもずっとフリルが好きだった。 もっと早く伝えたらよかった……」
重ね続けて溢れてしまった想いは、もう止める事はできなくて。
ただ求めた。




