お肉匂いがします
「下があるねぇ」
「そうですねぇ」
「戻ろうか?」
「戻りましょう」
タキナが自然に目覚めたタイミングで攻略再開する。お腹時計だとたぶん真夜中だと思うけど、ダンジョンの中は時間の感覚がないから一緒と言えばそう。
九階層を三時間程度、十階層に七時間を使って攻略したけどボス部屋への扉はなくて下に向かう階段を発見する。なら十五階層かな?
フロアはどんどん大きくなるから、単純計算だと十時間以上かかりそうだね。
もう十分だし、初探索から頑張り過ぎだね。
階段を降りた先はやっぱり迷宮区だったので入口まで転移する。距離的には短距離転移四回分。
ダンジョンの入口に戻った時は夕方だった。まる二日かな? 三日は経ってないと思うけど。
騎士団なんかはまだきてないけど、誰かダンジョンに入ってる。
一階層に複数の気配と洞窟に向かう魔力の残滓。
別に発見者だったり初攻略者なんかに興味はないから、頑張れよー。
「少しファーレンにもど……」「ユフィ、お肉の匂いがします」
……する。微かだけど焼けた肉の匂いが漂ってる。安全の確認出来てない場所で肉を焼くなんて、熟練冒険者は絶対にそんな事しない。
目で合図して洞窟へ走る。
一階層の気配は複数あるけど集団はいない。行く手にいる少しの魔物を処分して、一気に二階層へ。
見つけた。不自然な二十ほどの気配の場所に転移で飛ぶ。
肉を取り合う魔物達が新たな獲物の出現に気付いて沸き立ち雄叫びをあげるけど、動く奴も、そのまま食べ続ける奴も、タキナが動く前に八つ裂きにする。
犠牲になった冒険者は男三人、女二人の五人組だった。ゴブリンやオーガもいる中で食用として死ねた事は幸運だったかもしれない。
遺品や魔物の残骸をアイテムボックスに放り込んで入口まで転移で飛ぶ。
「帰ろ」
「大丈夫ですか?」
「いい。 いつもの事だから」
そっと抱きしめてくれる腕がいつも以上に温かい。
もっと欲しくて、顔を埋める。
「帰ろ」
「はい。 帰りましょう」
「うん」
狼煙を焚て直して全滅したパーティーがいる事を立て看板にしてからファーレンに向かう。もうすぐ日も落ちるけど野営する気にはならない。
魔力を気にせずに短距離転移も連発して駆け抜けて冒険者ギルドを目指す。途中、他の冒険者や騎士団に会う事もなく帰り着く。
遅い時間なのでフリルはいない。顔見知りに軽く挨拶とタキナの紹介をして、ネネさんのカウンターに並ぶ。
「ネネさんお疲れ」
「ユフィ良かった。 ラブ達の事ありがとうね」
「近くにいたから、運が良かったよ。 でね……、ちょっと奥いい?」
「奥か……。 先に行ってて、代わりお願いしてくるから」
「おけ」
奥は、買取りカウンターの奥の解体場。ネネさんと解体責任者のバラシさんの前に五人組の遺品と残っていた体をひろげて状況説明をする。
「ごめんね、つらい仕事ばかりさせて」
「後はよろしくね。 必要ならいつもの通りでお願い」
「ありがとうね」
「うん。 また明日くるよ」
他の冒険者を気にせずに、さっとギルドの中を通り過ぎて外に出る。
「帰ろ」
「ユフィ、いつも通りと言うのは?」
「冒険者って危ない仕事だからね。 稼ぎは悪くないけど、何も残せないまま死んじゃう奴の方がずっと多いんだ。 ボクみたいに最初から力があって、ずっと上級でいられる人間なんてほんのひと握り。 今までたくさんの人の死を見つけてきたよ。 命を落とす前に偶然助けれたのなんて僅かなもんだった。 で、もし遺族がお金に困りそうな時は、発見者として弔い金を渡してもらってるんだよ。 名前を出してもらう必要なんてなかったんだけど、ギルドからって訳にはいかないし、得体のしれないお金は誰も喜ばない。 発見者の上級冒険者でお金持ちのユフィからって渡す方が負い目なく受け取ってもらえるんだってさ」
「そうですか……」
「ほんとに、僅かなもんだった……」




