お前等なぁ……
五階層の最奥、大きな重々しい扉の前にきた。
「ボス部屋みたいだね。 疲れはない? 大丈夫?」
「はい。 問題ありませんっ」
二階層から五階層までタキナに任せて二時間は経ってないかな? 走ってはないけど、戦闘に時間がかからないから、小休止しながらでも常人離れしたペースではある。
出現モンスターはキラーアントやビッグスパイダーなど虫系統から、ハイゴブリン、ハイオーガなど中級魔物まで、いたって普通の洞窟系ダンジョンだね。彼女が一撃で葬るのをアイテムボックスに放り込んで後ろをついていく。
途中に分岐点もあったけど、印だけ付けて魔力が濃いと思う方に進んできたら最短でたどり着けた感じだね。
完全攻略は目指してないし、どこかの千年以上生きてる魔法少女の様にミミックを探し回るつもりもない。
冒険者達が即死する難易度じゃなかったら、後の仕事は置いといてあげないといけない。
今回のケースだと一階層に大量のゴブリンとハイオーガが居た事になるけど、それは自然な事で、ダンジョンの外でもあり得る事だから仕方ない。
大きな扉がゆっくりと開いていく。攻略はタキナの課題だけど、扉を開けるのはボクの仕事。
罠や不意打ちは無くて、扉の向こうは薄暗い人工的な広い空間で左右に燭台が奥へと並んでいる。
奥に……いる。
「空気が重いですね」
「うん。 いかにもな緊張感があっていいね」
扉は開いたままで閉まる気配はない。状態異常もなくて魔法も転移も使えそう。
座ったままこちらをずっと見ているけど、 近づいてもまだ反応はない。
土色の鎧に身を包んだ大柄の牛人だ。立ったら四、五メートルかな?
動いた。燭台三つ分10メートルくらい。持っていたグレートアクスを支えに立ち上がって咆哮をあげる。ボク達には効果はないけど精神攻撃スキルっぽい。
雄叫びの終わった牛人が前衛のタキナに向かって一気に突っ込む。
バフウゥ。
速いっ。良い風切音。
でも問題なし。ゆうゆうと避けたタキナの細剣が胸を一突きにする。
胸を貫かれた牛人は倒れない。 効いてないとばかりに連撃を振るってくるけど牛人の斬撃の度にタキナの細剣が胸を貫く。何度も何度も位置を少しズラしながら。
初体験の冒険者ならもう心が折れているかな。タキナは冷静に作業を続けているけど、疑問は感じてるみたいで、少し目が座ってきている。
しばらくの後、牛人が再び吠える。
牛人の斬撃を同樣に避けるタキナ、だけどステップでさらに斧との間を空ける。
牛人の斬撃に空気の刃がのって、振りが小さく連撃が速くなって、狙ったかどうか判らないけどボクまで風の刃が届くのをひょいと避ける。
大丈夫だよー。問題ないよー。
あー、タキナが怒っちゃった。完全に瞳から色が消えてる。今までの一撃一突きの応酬は止めて、空気の刃を乗せたオロチを繰り出したので、さすがの牛人も前に出る事も出来ずに全身が穴だらけにされて数秒で息絶える事になる。
「おつかれタキナぁ」
「申し訳ありませんでした」
謝るタキナをキューっと抱きしめる。
「いいんだよ、それで。 戦いを楽しんだって。 だって楽しいんだもん」
「いえ。 そう言う事ではなくて……」
「君のパートナーは、こんな事でどうにかなる人間ですかぁ?」
「いえ。そう言う事でもなく」
「ボクは戦う事が好き。 楽しい。 だから、一緒に戦える事が嬉しい。 嬉しい。 嬉しい」
「そう言う事では……。 畏まりました」
「だぁかぁらぁ、畏まりまらなくていいのっ。 寝る時みたいに、ボクのタキナでいてくれたらいいのっ。 ねっ」
「はい。 畏ま……。 ふふふ」
「へへへ。 いーね」
姿勢を正して、左手は腰に当てて、右手で額にピースを決める。
「せーので、「かしこまっ」」
「?」
「やってよぅ。 ピースで「かしこまっ!」」
「こ、こうですか?」
「はいっ「かしこまっ!」」
「か、かしこまり……」
「かしこまっ!」
「かしこま」
「かしこまっ!」
「かしこまっ!」
「きゃー、かわいいっ」
また抱きしめて唇を重ねる。
ダンジョンが何か不満げな雰囲気を出してるけど、きっと気の所為だ。
大人でスタイルが良いから、どちらかといえばどこかの美少女戦士だ。




