学院へ行こう
「ユフィは、今日はどうするのー?」
「昼も過ぎてるし、学院に行こうかな? 兄様達にも何も言わずに出て行ったし」
「いんじゃない。 あんたはいっつも落ち着きが無いからさー」
「ジャローダとトールが動かなかったら、シャルマンも大丈夫だろうしね。 フェルミナの事は気になるけどさ」
「機嫌良くないらしーよー。 ユフィ返ってこないし。 まさかファーレンに戻ってるとは思ってないわよねー」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ」
「まっ、サシャがいるから大丈夫でしょ。 あの子扱い上手いから」
ボクも帰ってくる予定では無かったんだよぅ。帰ろうかと考えてはいたけど。
タキナと二人で制服に着替えて、手を繋いで学院までの道を歩く。
制服姿の彼女はいつも以上にかわいくてドキドキして自然と距離が近くなる。
ボクの指の動きに反応して返してくれるのが幸せ。
もっと、もっと強くならなきゃ。ビビレヨワ相手でも守り抜ける様に。
「ユフィ。 また難しい顔をしてますよ」
「悪い癖だね」
「そうですよ。 とろけさせて差し上げましょうか?」
彼女の顔が近くなる。
「こ、ここで?」
「もちろん冗談です」
頬に口づけをくれた笑顔が眩しくて、ほんとにとろける。
庭園を歩いていると、タキナの肩に院長の梟君が舞い降りる。音も気配も小さいけど、タキナも気付いていたみたいだね。
彼女に撫でられる梟は気持ち良さそうに見えるけど、ボクのタキナなのだけどっ!
「ユフィにタキナよ、院長室までくるのじゃ」
梟君に触ろうとして逃げられてしまったボクの頭を、タキナが優しく撫でてくれる。
しかし、クリフもなかなかに探知能力が高い。この学院の規模で魔力探知を使い続けたら頭がパンクするのは間違いない。梟君達で視覚探知かなぁ。
いつ通りに院長室の前に立つと扉が自動で開くのだけど、ソファーには長い金髪でマスクで顔を隠した先客がいる。
「にい……。 クリフ様、ご機嫌よう。 ミリアルド様、お久しぶりでございます」
「ああ。 元気そうでなによりだ」
クリフはもう知っているかもしれないけど、一応の形は保っておく。
それにしても、兄様はボクよりタキナを注視してる。
「忙しいのに呼び付けてすまないな。 ミリアルドと親交があるなら話が早い、お前に変化がないか直に確認しておきたくてな」
「いえ、お時間をとって頂いてありがとうございます」
「ミリアルド、どうだ?」
「ああ。 ユフィは変わりが無いとは言い難い。 出会った頃よりもずいぶんと黒い。 なぜだと思う?」
「ボクの憎しみか? もしくは、ボクはある女神と混ざりつつあるらしいです。 そして、暗く堕ちた先に何があるかは分からないと言われました。 皆、その前に壊れるか消えるのを選ぶのだと」
「ある女神? 誰からその話を?」
「混ざってるのは女神カラミティ。 教えてくれたのは女神タキネイリアナエンタレイア。 ミリアルド様はお気付きと思いますが、タキナは女神タキネイリアナエンタレイアの分体との事です」
「ああ、始めから光に包まれてはいたが、その光がずいぶんと大きくなっている」
「どれほどだ?」
「アレクシア姫くらいだな」
「アレクシア姫ほどの光の強さ? それほどか?」
「いや、それ以上だ。 ユフィ、今更言う事では無いが、タキナを絶対に手放すなよ。 タキナはお前にとっても必ず重要な光になる」
「手放すなんて考えられません。 大切にします」
「タキナ。 この娘は危うい。 これからも頼む」
「はい。 この命に代えましてもお守り致します」
「ボクがタキナを護るんだよぅ」
「はいっ。 お願いしますね」
ボクや周辺国の動向やについては、クリフにも報告書がきてるから特に聞かれる事はない。
兄様もだいたいはご存知のようだね。
「話は以上だ。 もう良いぞ」
「はい。 ミリアルド様はこの後は?」
「まだクリフと話がある。 今日届いた報告書もあるしな」
「そうですか……。 では失礼します」
「……夜は空いているぞ。 夕食を一緒に?」
「はいっ。 タキナと伺います」
「ああ。 待っている」
へへへ。今日は、タキナと一緒に兄様と姉様にべったり甘えてやるのだ。
姉様とシーズがいれば、タキナも給仕の仕事はないしね。




