ないと寂しい
「おかえりユフィ」
「ただいまミネルバ」
「言いたい事はたくさんあるけど、先ずは無事に帰ってきてくれて良かった」
「ありがとう……。 心配かけてごめんね」
涙の再会なのだけど……その後は延々と小言を聞く事になる。
まぁ、原因はボクなんだけどね。
毎日届いているアシェの報告書に沿って説明と補足をしていく。
中位の魔装機の獲得や、自分用以外の魔装機も数十体ある事には呆れられた。下位機体は好きに出したら良いけど、中位機体はできるだけ隠しておく様にだって。 うん、タイプⅡ戦はそれで勝てたしね。余ってる魔装機の使い道はミネルバに任す。
アシェの報告書には近隣の国の情報も入ってる。
ジャローダやトールに動きは見られない。マスチペに関しては、ワイバーンで報告書を集めに行ってる訳じゃないので、アンやヤマダ達の細かな情報は入って来てない。ミネルバ宛の書簡も司令部経由で届くのだ。
アンとヤマダは是非とも欲しいらしい。九郎とベンケイの事は彼女は知らなかったので詳細を聞かれて、ストーリーに入ろうとしたら止められた。また時間がある時にって。そりゃそうだ。
シャルマンについての報告書は、ほぼボクの行動の結果のみで真新しい物は無かった。
今回の話で重要なのは、二人の転生者の件とエミルルシリアのビビレヨワの件。
「エミルルシリアの剣帝で神子のビビレヨワ。 ユフィ以上の剣技に、おそらくは神器持ちか……。 遊んどいてもらわないと、一瞬で国が消えるわねぇ」
「何度も頭の中で戦ったけど、町が消滅する位の戦いになるし、神器がボクより速かったら、逃げる事も出来ないだろうね」
「かぁぁぁぁぁ。 どの道、町で神器対神器になった時点で防衛側は負けなのよ」
最後の重要案件については、彼女から切り出してくれる。
「…………それと、次からはタキナも連れて行ってあげたら?」
「…………どうしたの? 危険だよ」
「新しい女作って帰ってくるじゃない」
「…………」
「昨日、タキナがアイシャに勝った。 それも、あっさりと……。 まるでユフィみたいだって、アイシャが抱きついて唇を奪ってた」
「ほぅ、ボクのタキナにそんな事を……」
「怖い……怖い……。 けど、そこじゃないの。急に髪が伸びて、目の赤みが強くなった……。 混じった?」
「混じる……のかな? 交わってはいるのは間違いないんだけど……。 それに関係する大切な話があって………………。 ………………タキナの分体と……した……んだよね……」
「はっ? 分体?」
当然、タキネイリアナエンタレイアとの出会いを話す。
タキナは神で、いずれは目覚める事。
ボクとカラミティが混じっていってる事。
時間的に、彼女と交わった事がタキナに影響を与えた可能性がある事。
なんでタキナの所に出てこれたたかは、ボクにも分からない。タキナさんの心遣いだろうか?
「タキナが女神で……分体まで……。 ユフィ……二色どんぶり食べれるよ……」
「いや……、そーゆーのいーから。 求めてないから」
「タキナ二人とか贅沢すぎるでしょ。 天国でしょ。 一人……いや、二人共貸しなさいよっ」
「絶対やだし。 タキネイリアナさん一緒じゃないし」
ないと寂しいのに、あるとちょっとウザいって勝手だね。
「修練場使うね」
「ん」
タキナと二人で修練場のはずが……。ミネルバ含めて非番の姉さま達まで学院組以外は全員が揃ってる。
「遠慮は要らないからね」
「はい。 心しております」
武器は合わせてレイピアの実剣。怪我するかもしれないし、当然殺されても文句は無い。
ただ真剣に。
真剣で真剣に…………。
寒っ。
「いざっ、尋常に!」
「勝負!」
速いっ。確かに今までのタキナじゃない。
動きに無駄がなくてキレイなのはそのままだけど、速さは段違いで鋭い連撃を繰り出してくる。
攻撃のバリュエーションもあるし読みも良い。ボクの斬撃にも的確に対応して返してくる。
楽しい。
考えてる事が手にとるように分かる。きっと彼女もそうなんだろう。回転をあげて二人で剣を鳴らしているようにリズムを刻み続ける。
動きは清流から激流に移って、彼女の剣気が消える。さてさて、どう来るのかなぁ?
流水の動きで斬撃をぶつけ続ける中で彼女の剣がゆらりと下がる。
この予備動作は……片手剣用ソードスキル八岐の大蛇。前のスピードじゃ同時四撃の大蛇までだったけどね。
ボクが予備モーションで判断して懐に入った瞬間に彼女の口の端が緩む。
? 細剣をもってない……。
懐に入って来たボクに放たれた拳を絡め取って投げ飛ばすと、再び細剣を取り出して構えをとる。
うん。 実にボク好みだわ。
「最後まで笑わないの」
「嬉しくなってしまって、つい……」
「ボクも好き」
「言ってませんけど、もちろん大好きですよ」
「うん……ありがと。 じゃ、真技大蛇(突)いくよ」
「はい。 心します」
真技大蛇(突)。イメージしやすい様に言ってみただけで、ただただ高速の突を繰り返すだけ。
そもそもシステム補助とか無しの自前だからソードスキルは必要ないけど、予備モーションも無駄の無い繋ぎの動きだから使ってる。
細剣は軽く握ってお気に入りの上段平突きの構えで足を広げて引き絞る。
対するタキナは、いつも通りに半身正眼でボクと呼吸を合わせる。
二人の呼吸がピッタリ合った瞬間に飛び出す。
ボクの大蛇と彼女の大蛇がピッタリ鋒でぶつかり合う。
カカカカカカカカカカッ。
まだまだっ。
カカカカカカカカカカカカカッ。
ふふふふ。まだあげるよ。
カカカカカカカカカカカカカカカカッ。
速さはボクが上。始めは鋒同士で当たっていたのがだんだんとズレて手一杯になった彼女は細剣に衝撃波を纏わせて弾き始める。 ソニックブレードの連撃まで……。
ボクも同程度に威力を調整したソニックブレードで対消滅させて回転を上げていくのだけど……。
「しゅうりょー。 しゅーりょー。 そーこーまーでー。 結界は大丈夫だけど、地面がなくなるぅー」
「そっか、仕方ない。 タキナお疲れ様」
「はい。 ありがとうございました」
まったく息は上がってない。速さ、力、持久力その全てがレベルアップしてる。
息があがって上気する彼女が見れないのは残念だけど、これなら大丈夫。 うん、一緒にいられる。
機嫌の良い彼女をそっと抱きしめて、自然に顔を寄せる。
「タキナ……。 一緒に行こう」
「はい……」
「だ・か・らぁ、部屋でやれっ」




