それと、これとは話が別。ラスボスからは逃げられないのだ。
解散した後は団長室に通されて、茶菓子をモリモリ頂きながら報酬の話をする。
ミネルバ様が目をまんまるにして見てるけど、私は貴族じゃないから遠慮してやらない。
ふっふっふっー。
報酬は平民なら数年暮らしていけるほどの金額と、騎士団用のローブを今後も都合してもらえるらしい。
騎士団への入隊も打診されたけど当然お断りだ。
ミネルバ様とは三日後の昼から第二騎士団の本部で会う予定になった。青色がずっとこっちを睨んできて、目のやり場に困るんですが?
何か言いたそうなファシルをスルーして退室する。
廊下で握手や手合わせを求めてくる騎士達と少し話をして、フェイクの耳を摘んで外に連れ出す。
あなたの今日の予定はまだ終わってないのだよ。
「ちょっ、ちょっ。 もうわかったから。 耳は痛いて!」
「さっ、いくわよー。 ローブは騎士団から貰える事になったから、あなたは何をくれるのかなー?」
「金よーけもろたやろぉ。貧乏人にたかりなやっ」
「それとー、これとはー、話がべつぅー」
私はいつもとびっきりの笑顔だよ。
フフフ、フフフ、フフフフッ。
まぁ、何してもらうかは別として、とりあえず刀を置いてる店にレッツゴーよっ。
詰所から城の方に少し歩いて大通りから路地に入っていく。
壁? じゃないね。
うっすらだけど魔力を出してる壁にフェイクが入っていく。
おぉー、すごく洗練された魔法。これは素通りしたかもしれないレベルだねぇ。
先は階段で、降りたBAR風の店の扉を開く。
店の中にはオールバックに眼帯を付けて、上等なシャツとスラックを身に着けたシブいオジサマが立っている。
「…………」
フェイクがカウンターの席に着き隣を勧められたので、座って耳を引っ張る。
「耳はやめぇて! もう、わかってるから」
こんなにうるさい奴がいるのに、店主は少し眉が動いた程度。
「キング。 いつもの頼むわぁ」
キング? 実は王様だった! りはしない。
さすがに自分の父親の顔くらいは覚えてますよ。 見た事はないけど。
キングは小さく頷く。と、視界の端っこで何か動いた。
影だ。影が伸びた。
影が部屋を包み込み、またキングに戻って行った後、壁には様々な武具が掛かった部屋に変わって、広さも倍以上になっている。
「はじめまして、お嬢さん。 私は、ブリードウェイと申します。 以後お見知り置きを」
「はじめまして。 冒険者をしてます。 ユフィと申します」
「おや、隊士ではないのですかな?」
目を細めて、ブリードウェイがフェイクに視線を移す。
「この姉さん騎士とか位とかあんまり興味ないみたいで、団長の話も蹴ってんのやー。 でも十分資格があるのは保証するわ」
「……ふむ」
部屋の中にキングの剣気が充満して空気が震える。
こらこらこら、一般人なら気絶するレベルだよ。
「いいでしょう。 本日はごゆるりとご鑑賞下さい」
ふぅ。剣気が収まって、にこやかな顔に戻った。
ブリードウェイは元第四騎士団団長で、二つ名は「影のキング」。
騎士団に所属してる騎士の二つ名としてキングはどうなの?
引退後はここでBARみたいな物をしつつ、趣味の武具集めをして楽しんでいるそうだ。
趣味で集めているけど、減ってもどうせ増えるので、お気に入り以外は販売もしているのだとか。
「こ、これは……。 なかなか趣味だねぇ……」
置いてある物はさすがは趣味の物と言うだけあって、綺麗なだけの物、素晴らしい物ではなく、なにか雰囲気をまとっている様に感じる。
ラスボス特権で人や物、罠や魔力なんかにも感じる物があるんだけど、マンガやラノベなんかの鑑定とかステータス表示じゃないから、はっきりどうこうとは解らないんだけどね。
「姉さんには心配いらんかもやけど、なんでも触りまくったらあかんで。 ここには魔剣、宝剣、神剣クラスのもんまであるけど、純粋な闇のもんも少なくないから」
うん。さっきからずっと話しかけてきてる奴が何人? かいる。どれも甘い囁きばかりでとても良い物だとは思えない。
ちょっと疲れた顔でフェイクに手で返事をした。
「フェイクはここにはよく? なんか話し掛けてくるのがいるんだけど……?」
「半年に一回くらいやなぁ、数もってても使わんしね。 やっぱり聞こえる? 話し掛けてくるのは、ほぼあかん奴やけど気になるのある?」
「ないね。 これ、真っ二つにしてもいいかな?」
「ならよかった。けどあかんよ! コレクションやし篩も兼ねてるから」
闇の囁きに魅入られてしまった人間は、キングに矯正されて出禁になる。
ただ闇を承知で使役出来ると判断されれば譲られる事もあるらしい。
良い悪いは別にして一品一品がとても素晴らしく、奥に行くに連れてランクが上がっていってるのが判るけど、騒がしさが上がってきて煩わしい。
部屋の武具は一通り見終わったけど、壁の向こうが気になる。
「いかがでしたか? 気になる物はございましたか?」
「とても素晴らしい物ばかりだと思います。 ……その壁の向こうにも何か? 強い威圧感を感じるのですが?」
「……気になりますか?」
キングの低い言葉に頷きで返す。
「ふむ。ここに入るならあなたお一人で行く事になります。 そして高い確率で命を落とします……。 それでも入りますか?」
「いえ、いいです」
おおっ、二人が鳩が豆鉄砲食らった様な顔になる。 フェイクは良いけど、キングには似合わない。
「ひーっひっひっひっ」
「フフフッ、ハーハッハッハッ」
二人共大笑いである。失礼なっ。
気にはなるけどバッドエンドに向かうフラグになる物以外は、別に相手にする必要はないんだよねー。