剣帝
うっわぁー、すっごいドヤ顔でキモっ。
顔が良くても、キモいものはキモい。
理由は分かるけど。ボクですら止めるほどの力なら、敵無しだよね。
「ギフトかぁ……。 自信ある訳だ」
「そんな偶然の授け物じゃねえよぅ。 女神から直接もらってんだからよぅ。 パワーが違うのよパワーがぁ」
「そっか。 確かにその通りだ。 パワーが違うよねパワーが……」
動くボクに反応して、ビビレヨワが手をかざす。ボクの動きに付いてこれるの?
手を向けられても動きは止まらない。黒龍丸の斬撃は彼の防壁に止められるのだけど……、解析……。分解……出来ない。ボクの意識が集中した瞬間に防壁が変化した。
振り抜けずに防壁にぶつかった衝撃に、ようやく彼が驚いてゆっくり後ずさる。
「あっぶねぇぇ。 なんだよぅ、お前も御子かよぅ?」
「御子では無い」
「へっ、どちらにしろ体に教え込むしかねぇよなぁ」
ビビレヨワが動く。
ふらふらしててゆっくりなのに、剣が黒龍丸をすり抜ける? 頭で警報が鳴り響く。
剣は防壁に当たって止ま……。
ガッ、ガガガガガッ。
ノーモーションのソニックブレードの連撃に防壁が弾け飛ぶのを重ねて展開して受けるけど、吹き飛ばされて壁に打ち付けられる。
「よく凌いだ。 強いけど、まだ足りねぇよなぁぁ」
ボクを見る彼は、顔はニヤついてるけど目の奥の奥は鋭い。プレッシャーは感じないしキモいけど本物だ。
黒龍丸は納刀して腰に下げて、小太刀二刀を手に握る。
「苦し紛れの二刀流なら止めといた方が良いぜぇぇぇ」
「うっさい」
「こえぇぇこえぇぇ」
当然、苦し紛れに出したつもりはないけど、勝算がある訳でもない。
僅かに意識を離したボクの前にビビレヨワが迫る。
「考え事してると死ぬぜぇぇ」
ホントその通り。
ビビレヨワの連撃を避け、流して、観察を続ける。混ぜてくる足への薙ぎは、弾くか大きく動いて避ける事になる。
にしても、速くて重い。仮にユフィーリアと同等の力があったとしたら、体格差が影響してくるのかもしれない。
長い……。思考が加速してるから時間の感覚が分からない。
ビビレヨワはずっと攻め続けているのに、乱れないし、崩れない。勝ちを急ぐ様子もない。
ただ、狭い部屋では無いにしろ他の者に被害が無いのは、彼が本物の剣士だからだろうね。
攻撃に移るきっかけが無くて、ビビレヨワの一方的な攻勢が続く中で首筋に冷たい物を感じて、反射的に下がらされて距離をとる。自分の反応なのか、ユフィーリアの力なのかも判らない。
なに? 首に刃がかかったかと思った。
「クッハッハッハッハッハッハッハッハッ。 終いだ、終いぃぃぃぃ」
「なんで?」
「今日は十分に愉しめたぁぁ。 何十年ぶりだぁ? それにお荷物が無けりゃ、まだやれんだろぅぅ? お前等とナニするより、よっぽど気持ちいいぜぇぇぇ」
「変態」
「変態だぁぁ? お前が勝手に決めんじゃねぇよぅぅ。 それに、僕にはお前等よりずっとキレイなマイレディがいるんだよぅぅぅ。 百年以上帰ってねーけどよぉー」
「そっ、でも今日は有り難い」
「これやるから、次までに成長しとけよぉ」
ビビレヨワが投げてよこしたのは小さな徽章。彼には似合わない……(いや、口を開かなければ似合うのか……)。色は無いシルバーの地金のサッカーチームにありそうな形の徽章。
「なに?」
「しらねーのかぁぁぁ? エミルルシリアの剣帝の徽章だぁぁ」
「知らない」
「けっ、最近のガキゃあよう。 この女神の御子であり、剣帝のビビレヨワ様が認めてやる。 お前は剣帝を名乗ってもいい」
「価値は知らないけど、あなたは強かったのは確か。 認めてもらえたなら、ありがたくいただく」
「おぅ。 有難がって受け取れよぅ」
ビビレヨワが片手をヒラヒラさせながら部屋を出ると、全員のパラライズが解けて魔装機達も戻っていく。
犠牲はシャルルだけで、部屋はボロボロだけどボクとの戦いの余波で傷付いた人はいない。
剣帝か……全然余裕じゃん。
「ごめん。 普通に話しちゃって」
「お気になさらず……。 あの男の機嫌を損ねては、全員が生きてはいなかったでしょう……」
シャルルの亡骸を抱いて沈黙したままのシャトル王、ウェイアールはその傍で静かに涙を流す。
このセカイの命は軽い。王様でも、平民でも、ボクでも……。
シャルマンの英雄シャルルの死を悼んで、会議は中断の上で五日間は喪にふくす事が告げられ、次の会議は六日後。一番の難題と考えていた元老院の既得権益の問題が無くなったのは良かったのかもしれないけど、今起こっていた問題がビビレヨワが原因の物だとしたら元老院制に責任があったかどうかは分からない。
帰りたい……タキナに会いたい。
次の日、無理して気を遣ってくれるウェイを見ているのは気が重いけど、プールも開場停止になる為に仕事はない。
ふらふらとジャローダ方面に哨戒に出る。気配は特に感じないけど、魔力の残滓が濃い。これは……あれだよね。
残滓を辿って行く先、そこは放置された死体の山だった。どれも剣撃によって一刀で斬られていて、魔装機と思う大きさの傷もある。
「よく、頑張ったね」
人だけじゃなくて、多数のタイプⅢの残骸。そのほとんどは死んでしまってるけど、生きてる子達を回収していく。タイプⅡも三体あって、内二体は生きている。
「タイプⅡ。 誰がやったの?」
「長身で痩せ型、白髪の騎士一名です」
だろうね。追加防壁ごと一刀かぁ……今のボクじゃ無理だ。
ビビレヨワが呼んでいたのか? たまたま通り道にジャローダ軍がいたのか……?
国境付近を走るけど、誰もいない。ジャローダ側に渡ってもやっぱり誰もいなくて静かなもんだけど、魔力は濃くないから戦闘による物じゃない。
ジャローダのキャンプも撤収済で無人だったので、そのままカーニャの町まで駆け抜ける。




