戦争よりも「楽しい」だよねっ
さてと。水は十分採ったし、夜明けまでにはマンパエルに戻りたいかな。
大雑把魔力感知を使いながら川に沿って昨日の戦場跡も通って行くけど、ジャローダ軍の気配はない。もう諦めてくれないかなぁ? ボクがいる事を想定して動くなら倍のタイプⅡを動員しないとだけど、それくらいはいるんだろうなぁ。
タイプⅡの操者は本物だった。昨日の戦いでボクの実力に当たりは付けてるだろうから、それをどう判断してくれるか……。
ジャローダ問題解決しないと帰れないじゃん。あーーー、通信手段が欲しいよー。
魔装機の通信は無線だけど近距離。貴族階級が使ってる通信魔道具は有線だから、昔の電話と一緒だね。
誰かが電波みたいなのを発見して使える様にしてくれないと、無線の長距離通信は厳しいってこったね。魔法でなんとか? 届ける過程が無いんだよー。魔力の継続時間内なら、幽体みたいなのを飛ばす方が簡単。だから使い魔なんてのがいるんだけど、ユフィーリアには動物は近寄ってこれない。学院長の梟君はそれなりの対策がしてあったんだと思う。
夜明け頃、無事にプールハウスまで返り着く事ができた。少しズレてたけど魔力感知とチート視界があれば、大体の場所まで行けたら、発見は難しくない。
もう日が昇るのに、プールではまだまだお楽しみ中の人達がいるんだけど、羨ましくなんてない。ないんだからねっ……。
数人の暴漢を見つけたので、吊るし首にする。殺しはしないけど、ほんとに吊るすよ、冗談じゃないからね。プール監視員が来るまではつま先立ちで頑張ってもらおうか。
で、プールハウスは……、中には睡眠状態の四人の気配、ウェイ達に占拠されている。ボクの家なのだけど? ってか、色々する事あるだろ。
隣に新しくハウスを作ってお風呂にするけど、今日も入浴中に声がかかる。
ちゃんと起きてたんだね。熟睡してたら、お説教する処だよ。
「アンノーン様、少しよろしいですか?」
「良いよ。 どーぞ」
「失礼致します」
入って来たのは騎士服姿のファル。昨日と同じ服だよね? ちゃんと着替えなさいよ。
「おいで」
「そ、それは、いくらなんでも……」
「いいから」
「では、失礼致します」
彼女は、服のままで、ボクが隣に出したイスに座る。うん。よくわかんないけど、それは、いくらなんでもだね。
「昨日のままじゃん。 洗ってあげるから、服脱いで」
「は、はいっ」
服を脱いで、隣に座るファル。キレイな身体。彼女の汗の匂いに少し高揚を覚える。
「ファル達は、騎士になったんだからね。 普通の兵士と同じじゃダメだよ。 それに女の子なんだから、毎日着替えて、キレイにしとかないとね」
髪を洗われて、無防備で気持ちよさそうな顔は、とてもかわいい。褐色の肌色には懐かしさを感じてしまって、頬を軽く合わせる。
「な、な、なななな…………」
なんだ、弟とはするのに、他人には初心なのか……、かわいっ。
「ごめん。 ちょっと懐かしい気持ちになっちゃってね」
「い、いえ。 問題ございません」
洗われてる、恥ずかしそうな顔も、軽く触れるだけで、反応する身体も……興奮する。
はぁはぁ……。ダメダメ、落ち着こう。落ち着けボク。
手強い。何事も無いかの様に身体を洗ってあげるのだけど、いちいち反応が魅力的すぎるのだ。
頑張れ、頑張れ、耐えろ、耐えろ。
……耐え凌いだ。自分に精神コントロールかける処だったよ。危なかった。
精神魔法は嫌い。耐性強化くらいは許せるけど、多用を始めてしまったら、それはもう人じゃない。
うん、落ち着いた。
ボクの部屋着を着せてあげて、ドレッサーに座らせて、髪を乾かして梳いてあげると、サラサラツヤツヤでキレイ過ぎて、貴族令嬢にも負けないくらい。
「いつも手入れしてないでしょ。 ちゃんとしたら、こんなに……」
あれっ、なんで……。頬を涙が伝う。突然湧き出した淋しさに、涙を止める事が出来なくて、ファルの背中に縋り付く。
いつまでも涙を止める事が出来ないボクを、彼女は抱いてあやしてくれる。優しく、優しく。
「情けないとこ、見せちゃったね」
「むしろ涙を流す人なんだと、安心しました」
「それはひどくない?」
「仕方ありません。 貴方の様に強い方を、他には知りませんから」
「ありがと」
「お役に立てたなら、幸いです」
その後は、朝食を食べて、ウェイ達が起きるまでは雑談して過ごす……つもりだったんだけど、プールの開店待ちの人達が増えてきて、外が騒がしい。
さっきまでは、何もするつもりになかったんだけど、ちょっちスイッチ入っちゃうね。
「ファル、いける?」
「もちろん、お供致します」
さっと騎士服を洗浄して着替えて、プール監視員出動っ。
戦争よりも「楽しい」だよねっ。




