勝手なのは当たり前です
ガキィィィィィィィン。
自然体からの突きが正確に盾でガードされる。
ピキッ。
「速いな。 狙いも正確だ」
「あっそっ」
カンカカカカカカーン。
ピキピキピキッ。
そのまま踏み込んでの連撃もしっかりうけ……。
ブウゥゥン。
ガード終わりの横薙ぎを盾を蹴って距離をとる。
「勘も反応も良い。 お前なぞを拾ったから、あいつは調子に乗ったのだな」
「ウェイは調子になんて乗ってないし、愚か者でもない」
「なら、証明してみたらどうだ? シャルマンの勇者シャルル・デ・シャルマンに勝てたなら、貴様らの味方をしてやろう」
「お前なんて要らない。 死んで後悔しろよ」
「天地がひっくり返ってもない、俺が負けるなぞな」
バシュッ。
はっやはやはやはや。
その長さを短剣の様に振るな。ほらっ、天井に当たって剣を落とす事に……、天井切るんじゃねー。ゴブリンスレイヤーもびっくりだよ。
鋭くて重いっ。黒龍丸じゃないと刃が負ける。
黒龍丸はちょーレアドロップ品。ダンジョンボスの悪鬼黒龍丸を364回倒してやっとゲットした一品。あくまで既製品の勇者の剣とは違うのだよ、勇者の剣とは。
それはともかくシャルルは強い。天井、壁やテーブルまで切り刻んでボクに迫る。
連撃の最後を柄で弾いて攻守を入れ替える。ボクの攻撃を良く見ていて、鎧を抜けない程度の攻撃は放置で防壁が自動展開される様な斬撃は盾や剣で確実に弾いてくる。
ピキピキピキピキッ。
「そろそろ、行くぞ。 少しはもてよ。 腕力強化……、速度強化……」
空気が重い……雰囲気が変わる。
斬撃の鋭さが増す。剣に空気が纏わりついてる。
「空破斬っ」
「ソニックブレード」
初撃は対消滅させるけど、どんどん回転が上がって、処理しきれなくて流した空気の刃は後ろの壁を切り刻む。
遠慮無しかっ。
「空破斬……間合切」
シャルルの高速の唐竹からの切り返しの後に、ボクの体が吸われる? 引き込まれた先に予測して狙いすまされた斬撃が振り下ろされる。
にゃろっ。完璧に狙い通りの斬撃は避けれない、流せない。ユフィーリアの力が無いから受ける事も出来ない。短距離転移でズレて、お返しは剣のガード部分の意匠目掛けて振り下ろす。
ピシッ。
「武器破壊とは悪くない。 その程度では壊れんがな。 その剣術と動き。 お前が噂に聞くサムライか? あいつがこれほどの者を見つけてくるとは、惜しいな。 俺に付け。 それで、あいつの罪も不問にしてやる」
「ない」
「では、そろそろ終わりにしようか。 身体強化……MAX。 うらぁぁぁぁぁぁ」
そーゆー番組じゃ無いんだけど……。いや、違わないのか?
シャルルの身体はビキビキと音をたてて、鎧姿でもわかるほど筋肉が隆起して威圧感も増している。お決まりなら筋力アップの代わりに速さが犠牲になるはずだけど、そんな事は無かった。
姿が消えたと感じた瞬間に目の前に斬撃が迫るのを防壁で受けて、そのまま壁に向かって吹き飛ばされる。それだけでは終わらない。飛ばされたままの身体に、前から後ろから、防壁も防御も気にせずに一方的に重い攻撃が浴びせられるのを、ただただ耐え凌ぐ。
黒龍丸で受けた物は良いけど、捌けなくて防壁で受けた物は殴られたみたいに衝撃が身体に入ってくる。
確かに最高戦力と言われるだけはあるけど、勇者ってゆうなら、優しいだけのお人好しであって欲しいなんてのは幻想でしかないのかな……。
斬撃に対して防壁を張らずに紙一重で避けると、防壁に当てて切り返す予定が叶わず、返しが遅れて、わずかな隙ができる。懐に入って胸に手を添える。
「悩殺、ふんわりタッチ……」
ボクの全身から集めた衝撃が手を伝ってシャルルの身体に入って……行く前に彼自身の防壁によって遮られるけど、限界が近かった鎧の装飾品が砕け散る。
離れる前に剣の握りで殴られて、意識が飛びそうになるけど、下がりながらの壱の太刀で剣のガードの装飾を、高速の切り返しで盾の装飾を破壊して、黒龍丸を鞘に収める。
「秘剣……燕返し」
もうほんとにボロボロだけど、これで形勢逆転。
あぁ、よく頑張ったな。ユフィーリアの力が無い状態でも戦える事に鍛錬してて良かったと心底思える。
彼は無傷だけど、ボクに変化があった事を感じとったみたいで警戒して距離をとって構える。
「もう全力ですよね、まだやりますか? 私は殺してしまっても問題ないんてますけどね。 ウェイアールは、お父上様と貴方を慕って、人が止めるのも聞かずに一人で話し合いに来たんですよね。 良く考えた上での仕打ちですか?」
「無論。 妹の間違いは兄が正さなければならん」
「その為に、勇者と呼ばれる程の貴方があれほどまで殴ったと?」
「そうだ。 これ以上騒ぎ立てるなら、首を晒してでも、間違いであると示さねばならん」
「元老院を廃して王政に戻すのは間違いだと?」
「どの様な傑物であろうと人は腐る。 この国は何度も滅び、元老院制でようやく平和を見たのだ。 飢饉が発端程度の混乱で、それをまた崩そうなど許される訳がない」
「その元老院が腐っていると言っています!」
「国民の信を得た元老院を蔑ろにする様な王政はあってはならんのだ」
「お考え、よく解りました。 もう議論の余地は無いですね。 最後です。 私の私利私欲の為に伺います。 元老院と共に死ぬか? 生きてこの国に尽くすか? お選び下さい」
「いやらしい聞き方をする。 だが答えは変わらん」
シャルルが左腕の盾を捨てて、改めて両手持ちで正眼に構える。
「国王陛下も同じお考えですか?」
「ああ」
「では、終わりにしましょう」
シャルルの一気に踏み込んでの斬撃は速いけど、ユフィーリアの力の戻ったボクには届かない。流水の動きからの連撃で彼を切り刻む。
「如水剣舞……激龍斬」
鎧も剣も全て切り刻まれた彼はその場に倒れ込む。
「死ななかったんだ。 すごいね」
「とどめを刺せ」
「なんでシャルマン使わないの?」
「シャルマンはもう無い。 ウェイアールのレイベルに同化させたからな」
「そっか、素直じゃないですね。 ボクの手は血にまみれてる。 多くの人を殺して来たし、これからも手に掛け続ける。 だから、ウェイアールの父と兄を殺したなんて罪まで背負いたくないんですよ」
「勝手だな」
「勝手に来たんですから、勝手なのは当たり前です」




