それ以上の事も覚悟しないで来た訳じゃないよね?
テーブルにお茶を準備して、フィーに席を勧めるけど、彼女は座る事なく涙を流したまま。
「フィー。 いつまで泣いてるの? こうなる事や、それ以上の事も覚悟しないで来た訳じゃないよね?」
「…………」
「はぁ……。 まぁ、そのまま聞いてたらいいよ。 ボクはすこし頭に来てる。 涙を流すほど好きなのに、そうするしかない。 君が悪いとは思わないよ。 そうしないと生きて行けないよね。 王女を貢物や生け贄扱いにするのは、どの国でもやってる事だから。 でも、ボクは嫌。 明日、返答がどうであっても、ボクはこの国を壊す。 元老院は処分するし、王族を腑抜けに育てる様にしてる仕組みも壊す。 なら、フィーはどうしたい? いや、ウェイとどうなりたい?」
もう涙はなくて、淋しげに視線は向けるけど言葉はない。
言いたくても、言葉にできないか。
「君達の関係もウェイの想いも知らないから、勝手な事は言えないけど、何かを変えるなら今しかないよ。 ウェイが決める事を支持して手伝うつもりだから、王になると言えばそうするし、誰かに任せて逃げたいと言えば準備出来る事はやる。 誰かと結ばれたいと相談されたら、最大限に手伝うよ。 君が変えたいと願うなら、その覚悟が出来るなら、今しかないと思うよ。 賊に差し出す覚悟よりは、よっぽど良いと思うけど?」
「私にも……出来るでしょうか?」
「自分でやるしかないんだよ。 ボクは大切な人と離れたくないし、平民なのに王女様と婚約なんかしちゃったしね」
「本当ですか?」
「うん。 ホント」
落ち着いてきたた彼女にお茶をしながら、ボク気の大切な人の事を話してきかせると、表情も戻ってきて明るい笑顔が見れてとてもかわいい。
「フィー? どうして私をのけ者にして楽しそうですの?」
おきて体を起こしたウェイは不満げな様子だけど顔は少し紅いままで、なにやらもじもじしている。
「フィー。 ボクは出てくるから、後は二人で話すと良いよ」
「よろしいのですか?」
「今しかないの。 後はキミ次第だよ」
「はい」
unknown姿に戻って外にでる。
真夜中なのにプールにはまだ多くの人達がいるのだけど、もう見たくない。危うく落雷が起きて大惨事になる処だった。
朝になったら水は全換えしないと、ボクがいなかったら水の管理は無理だねぇ。
色々見ない様にして、さっと城壁に登る。町の建物に関して話は聞いたけど、ちゃんと見ておかないとね。
人の気配は昨日に比べたらずいぶんと少ないけどまだまだ残ってる。けっこうな数がマンパエルに避難はしてるとは思うけどね。
民家、商家、貴族家、王城。
残ってるのは商家の人達が多いね。王城や貴族家には警備や使用人程度かな。
次はマンパエルにっと。って来たけど、こっちは壁に上がった瞬間に騎士らしい兵士達が集まってくる。
「おい、仮面。 大人しく降参しろ」
「嬉しいなぁ、声かけてくれるんだぁ。 お茶くらいなら付き合ってやってもいいけど?」
「世迷言を……」
シュバッ。
はっや。首が飛ぶぅ。
ちょっぱやの接近からの斬撃をスウェーで避け……るつもりが、斬撃が深くてリンボーになっちゃった。
ハンドアックス……ってよりは、小さめのバトルアックスか?
褐色の肌に黒髪の男前で、アクセルの色違いかと思ってしまう見た目だけど、雰囲気が堅くて真面目そう。取り替えていただいてもよろしいでしょうか?
「ビィシュフィム・アイスゴードだ」
「斬ってから名乗んじゃねーわ」
「あれで死ぬ奴に名乗りはいらんだろ」
「勝手な物差しだ」
「名は?」
「テメェに名乗る名はねぇ」
「そうか」
ビィシュフィムが一気に出てくる。勢いがあるのは嫌いじゃない。
速いね。重量はそんなではないのかな? 切り返しも速いし、打ち込みの後の引きも速いから、弾いて懐に潜り込むのも苦労しそう。
とりあえず放ったファイヤーランス十連は避けられ、武器で斬られていなされた。お返しの一撃を防壁で受け止めてみたけど重い重い。体が浮いて下がらされてしまう。
「小さいのに、これを受けるのか?」
「キツイので、そろそろ終わってもらえますかぁ?」
「余裕そうじゃないか、本気を出したらどうだ?」
身体強化を強めただろうビィシュフィムは、さっきとは比べ物にならない速さで突っ込んでくる。
シュバッ、シュバッ、シュバッ。
バトルアックスが剣並みの速さってのもなかなかに面白い。連撃の最後に組み込まれてる遠心力を乗せた横薙ぎはかなりの鋭さだね。当然、当たれば……だけど。
まっすぐで素直な攻撃。
「君、この国出ない?」
「ない」
「そうか。 本気だせよ。 じゃないと死ぬよ」
「できるものなら、やってみろ」
即座に彼の懐に飛び込んで、悩殺ふんわりタッチ(ボディソニック)を繰り出すのは防壁に止められるけど、ボクを見失った彼の表情に強い動揺が見える。
シャレードカスタムみーっけ。欲しいぃなーっと。
良い反応するじゃーん。
「さっ、やろっか?」
得物は小太刀二刀流。また懐に入れるかと思ったけど、気を張ってたら対応してくれるみたい。
彼の斬撃を流水の動きで流して回転剣舞を叩き込む。こっちの間合いになった時点でなす術はない。
彼自身の防壁は突きと魔法で粉砕、攻撃はモーションに入った瞬間に一瞬溜めてカスタムの防壁に連撃を打ち込む。
ガンッガンッガンッガンッ。
ギャギャーン。
今、気を抜いたでしょ? 連撃の終わりに丈夫なだけの剣を出して力任せに叩きつける。
防壁に安心してたら、簡単に死んじゃうんだからね。
自分でも気付いた彼は、一瞬、目を顰めたけど殺る気にはなったみたいで、顔から色が消えアックスは仕舞ってナイフ二本を逆手に構える。
構えは様になってるけど、自分より速い小太刀使いに更に近接のナイフはおすすめはできない。
ナイフは逆手の方がかっこいいけど、順手の方が好き。シュッと切るよりブスッと刺す方が……って、ちゃうわっ。
さてさて、行きま……おっと。
真後ろからの剣撃を横っ飛びで躱した先には更に追撃が、受け止めたら吹き飛んじゃうから防壁に沿わせて流して止まる事ない連撃を避け流して躱し続ける。
想像はビームサーベルだったけど、違うみたいで良かった。考えてはいたけど受け流し出来なければ致命的だからね。
彼は冷静を装っているけど、目が驚きを隠せない。ボクも操者だとは思ってないのか? まぁ、操者だからといって簡単に出来るものじゃないけど。
躱し際に接近して放った斬撃は丁寧にナイフで受け止められるのだけど……。
うわー、背中が熱いんですけどー?
背後に感じる熱と轟音に、身代わり人形と入れ替わって上空に転移する。
痛いじゃないかっ(痛くはない)。味方ごととはひどいね。
ビィシュフィムは防壁で守られるけど、幾人かの兵士は焼かれてシャレードのパスがボクと繋がる。
なんで? と、思ったけど、本来は一人一体だったね。




