鉄壁のデュラン
「そのまま続ける様に!」
ファシルの言にまた全員が動き出す。
私もですか? そうですか。
五人は扉近くの壁際に陣取って観察のご様子。仕方なく手合わせに戻ったけど皆さんの動きが違うっ。
ボクの優位は変わらないけど一手一手の鋭さが違うので、さらにステップの速さを上げて対応する。
「ありがとうございましたぁ!」
終了。終了。終了。終了。終了。
どこかの黒い剣士の真似をして木刀を二回振って腰の位置にゆっくり戻し、いつもの様に髪を弾いてなびかせてから一礼をする。
「そこまでっ。 全隊、整列っ」
ファシルの号令が響き渡る。
さすがに副団長様、身体つきからは想像できないほどの大声。
騎士達全員が朝礼台? の前に素早く並ぶ。私との手合わせより速く動いてる気さえする。
列が出来て三列目の先頭にフェイクが立っているから先頭が組長格って事かな?
キョロキョロしてみたけど助けはなく、端っこの最後尾に並んでみた。
ファシルの労いに始まり、ミネルバ様の挨拶、デュランの訓示。
私もですか? うん、知ってた。
長い。長い。もう帰りたい。
「以上を持って終了。解散」
………………
「ユフィさん」
虚ろな目になってる私にファシルから声がかかった。
おうおう、なんだこの野郎!
「私に、な、に、か?」
思いっきり不満をあらわにして、チンピラになって絡んでたら三人娘に囲まれる。
緑と青とピンクの髪色。まっ、まさかっ、ペガサス三姉妹?
青色が剣に手をかけ威圧感を出してくる。
「ちょっとあなたっ。 ファシル様に対して失礼ではありませんかっ?」
「でしたら、なにかぁ? 私は騎士団員ではないんですけどぉ?」
「不敬罪です。 拘束します」
「ふーん、そーですかー。 やれるものならどーぞ、どーぞー」
何か言おうとするファシルを目で抑えて、見下し気味に言って木刀をチラつかせる。
ほー、抜きますか? そーですか。
青色の動きは速い。今日手合わせした団員達の中でも速い方に入るうえに得物が細剣。
剣速が段違いっ。
一、二、三連撃。もう半歩踏み込みからの切り上げっ。に、タイミングを合わせた私の胴なぎを、ピンク色が止める。
ピンク色の動きも良い。そしてやっかいなのは連携。
上手いなぁ。お互いがフォローし合ってタイミングが抜群。
洗練された連携だ。細剣だから木刀でも受けれるけどすこしづつ削られていくね。
ピンク色の打ち込みを木刀で抑えて青色の方に押す。
体勢は崩れた。ここでっ!
とっ……、横からの剣撃をバックステップで躱す。
はい緑色参戦っ。……ではなく。歯を剥き出した、実に、実に、楽しそうな顔のデュランがいた。
あーあー。
デュランはやっぱり強い。
二人を同時に相手している以上のプレッシャーを感じる。
剣速は木剣でも今日一番。一撃一撃に重さがあるから受けるのも流すのも一苦労。
手合わせだよね? 木剣でも一撃はいったら死んじゃういそうだよ?
私の弱点がわかってるね。
速さと力は私が上、木刀だから一撃で斬られる事は無い。なら体格差を活かして押し込む! だよねっ。
躱し、流して打ち込んでも浅い。前に出てくるからジリジリ押し込まれていく。
私が後ろを気にした瞬間鋭い突きが来た。
木刀で僅かに軌道をそらし、デュランの上を飛び越え距離をとる。
が、手に持った木刀は折れる寸前の所まで切れていた。
「私の勝ちでいいかな?」
「ありません。参りました」
木刀を腰の位置に戻そう……としたら、握りだけ残してポトリと落ちた。
修練場が拍手と喝采につつまれる。
「いやぁ、実に素晴らしい手合わせだった。 またお願いしてもいいかな?」
「ご遠慮致します。 そうそうやられたら体に穴が空きそうなので」
パチパチパチパチ。
「デュラン様とても素晴らしいお手合いでした。 デュラン様を相手取れるこんなに可愛いお方に出会えるなんて、なんて幸運なのかしらっ」
ミネルバ様がゆっくりと上品な所作で近づいてくる。
女子力の違いを感じる。
まだ、成長期だからね?
…………。
二人の隣で私は置物に。
「ユフィさん、今日は本当にありがとう。 別室で茶菓子など用意させよう。 報酬の話もしないとね」
「ねぇ、ユフィ様。 今度、私のお茶会にもいらしていただたけますかしら? たくさんお話を伺いたいわ」
「いえ……私は……」
嫌そうな顔の私に、ミネルバ様がそっと顔を寄せてくる。
近い、近いよ。破壊力がハンパないよ。ドキドキしちゃうよ。
「絶対にお願い、ユフィーリアさん。 私はあなたと同じ転生者だから……」
そう言ってボクの頬に口づけをする。
目を見開いて顔を向けた私に、ミネルバ様は可愛くウインクした。
ミネルバ様の後ろの青色がただならぬ殺意を放っていて、身の危険を感じるのだけど、大丈夫ですか?
そうですか。
後の話だけど、三人娘は姉妹では無かった。